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プロローグ



『人の可能性は無限に広がっている。その可能性を生かすも殺すも自分次第なのだ』


 昔誰かに言われたのか、それともテレビで聞いただけなのか。ただただ頭に残っている言葉。


 そんな無責任な言葉を口にすることは簡単だ。口にすることだけなら誰にでもできる。


 可能性なんて言葉を考えたやつは大罪人だと思わないだろうか。この言葉に幾人もの人たちが一生抱える傷のような後悔と、一度死を迎えたかのような挫折を味わっているというのに。


 なんて考えをしている時点で、僕が可能性という言葉を信じ潰れて行った内の一人だというのは言わなくても分かることだろう。


 まだまだ若い高校生の分際で何をほざいているのかと叱咤されるかもしれないが、挫折なんて時期が違うだけで皆同じようなものじゃないのかと思う。


 自分を励ましているのかそれとも皮肉を重ねているのか、僕は通っている高校の屋上の手すりに体を預けて空を見上げている。


 理由と原因がなんであれ、昨日僕は今まで歩んできた自分の人生を全否定されたような物事に遭遇した。


 だから今ここにこうして立っている。


 勘違いしてもらっては困るのだが、自殺なんてことはこれっぽっちも考えていない。


 死んでしまえば、気持ちを切り替えて新たな一歩を踏み出そうとしている努力が台無しになる。


 でも、自分を殺しに来たことは、間違いない。


 僕は足元に置いた鞄の中から一冊の大学ノートを取り出す。


風に煽られて自分の感情を書き殴ったような短く滲んだ詩のページが捲れていく。


 これは僕自身。


 僕と同じ中途半端な未完成な存在。


 短く息を吸い、長く白い溜息を吐き出すと、僕はその大学ノートを一枚ずつ破り捨てて行った。


 不格好に破れたそれらは風に乗って四方八方に飛び去って行く。


 その光景を眺めていると沈みかけて滲んでいく夕日に目が眩んだ。


 夕日から目を守るためたまたま手を止めた瞬間、何を思ったのか僕は残り六ページを丁寧に破り適当な形の紙飛行機を作った。


 単純にノートを破って行くことに飽きたのか、それとも高いところから紙飛行機を飛ばしたいという子供心が甦ったのか、それとも他の理由なのか。そんなことは分からないが、僕は不細工な紙飛行機を六個作り上げた。


 体を半回転させ登校時間が過ぎて誰もいない敷地を見下ろす。


 さようなら僕。来世では良い人生を。


 声には出していない。ただ口を動かしただけの言葉。


 それと同時に僕は紙飛行機を空へと向かって押し出した。


 このまま風に乗ってどこまで行くのか。それともどこへも行けずに墜落するのか。


今となってはどうでもいいことだ。


 夏代斗真という自分を殺した僕はもうどこへも行かない。どこにも行けないのだから。


 六機の紙飛行機を投げ終えた僕は、最後に目を閉じもう一度深く深呼吸をする。


これで目を開けば新しい自分。そう心の中で呟き目を開く。


 ゆっくり開く瞳に未だ眩しい夕日が差し込んでいく。


 日が落ちてからのほうがよかったかな、などとどうでもいいことを呟きながら僕は鞄を肩に掛け屋上を後にした。


 それが去年の冬のこと。


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