姉
私には一人の姉がいる。
生まれつき体が弱かった私に比べ、姉は運動神経抜群、成績優秀、美人、高身長と私が持っていないものを全て、いや、世の中の女性が欲しがっているものを全て身につけていた。
だから私はそんな、優秀すぎる姉にコンプレックスを抱いていた。
いつも、いつも、姉と比べられる。
“優秀な姉に比べて、妹の方は…”
なんて、事は嫌という程聞いてきたし、私自身もそう思っている。
だから、自我が明確に確立し、周りの目を気にするようになってからは、姉と距離をとるようになっていた。
強い光には必ず影が生まれるものだ。
私は…姉のそれだ。
そうやって小中高と過ごしてきたある日。
私は、庭で花の世話をしていた。
その日、何故か姉が、あの姉が庭にいたのだ。
ありえない。いつも庭に来ることなんてないのに…
「あら、ここに居たのね」
姉が、私を見つけ、話しかけてきた。どうやら、私を探していたようだ。
「貴女が庭にいて、ちょうど良かったわ」
私に全くと言っていいほど興味がなかった姉が、私に話をかけてきた。
「貴女には夢がある?」
…答えには迷った
「ありますよ、それなりには…」
「そう…良かった」
…良かった?…
「え?」
「夢があるのなら、手っ取り早い。貴女にその夢を叶える方法を教えてあげようか?」
「え?」
思考が追いつかない。姉が?私の?
「この世界には二つの人間しかないのよ。夢を叶える人と叶わない人」
そう言いながら、そこいらに生えていたタンポポを摘み取った。
「貴女には苦労したくないのよ、だから、その夢を叶える側にいて欲しいの」
そう言って姉は私に近づいてくる
「な、何をする気なの…」
「怖がらなくていいのよ、何もしないから」
「っ…」
「さぁ私にその顔を見せなさい?」
っと言われて、姉の方へ顔を向けた。
「え?…」
目の前には姉が摘んでいたタンポポがあった。
「っ…」
瞬間、視界が暗くなった。
目が…目が全く見えない。周りが真っ黒だ。おかしい、何故だろう、姉どころか全てが見えない。
「あっははははははは」
姉の高笑いが聞こえた。
「あ、あの、私周りが真っ暗に…見えて、これは…一体…?」
「まだ分からないの?私が潰したのよ?」
そっかー潰したのか
え、誰の?私の?だから、だから見えないの?暗いの?
「な、なん…で?」
なんでなんでなんでなんで?
「なんでですって?面白いことを聞くのね、この愚妹は」
「そんなもの決まっているでしょう。単なる遊びです」
理解した。あの時、姉は私の目の前にあったタンポポを思いっきり吹き、その綿毛が私の目を潰したのだ、と。
「ど、どういうことですか!?」
「そもそも私が貴女に何かをするなんて、嫌がらせ以外あるわけが無いでしょう?それとも、まだ私に何か期待でもしていたのですか?」
「…」
「安心してちょうだい。夢を叶える方法を教えるという約束は守りますよ」
「…」
「貴女はタンポポの綿毛には夢を叶える力があると知っている?風がよく吹く日に外に思いっきりタンポポの綿毛を吹くと綺麗に散っていくでしょう?それがどこへ辿り着くかは誰にもわからない。でも、それには意味があるらしいのです」
「…」
私はそれから、この暗闇の中で生きていくことになった。