前書き
世界は人々にソレを隠していた。
ソレは暖かくて冷たい、人を救い人を壊す。
危ないがソレに気付く事が出来たのなら、人々は手に入れようとするだろう。
世界はソレを隠した。
目に見えないように...。
いつも通りの変わらない通学路。
この商店街抜ければ学校まですぐだった。
ドンッ
肩を擦め、二人の学生が走り抜けていく。一人が立ち止まり俺の方に睨みを利かせ、振り返った。
俺の顔を見るなり、急に青ざめ冷汗をかき今にも泣きそうな表情。
そのまま走り抜けてくれると俺的には嬉しいのだが、しかたない...。
曇り顔の学生は駆け足で走り寄って鞄から財布を出し、声を震わす。
「な、七屋さん!?今日はこれだけしか持ってないんです!ほ、本当にすいませんでした。許してください!」俺の手に財布をのせ、二人は走り去っていった。
「なぜこんな事になるんだ...。」手の上にある二つの財布を見つめ、魂が抜けるようなため息を吐く。
理由は分かっていた...。
それは、父親譲りの目つきと長身。昔からこの目つきで理不尽に怒られたなあ。
父親とはここ数年会ってもいないし、他に女を作って消えた奴なんて興味もない。
「七ちゃ〜ん!おはよーー!!」
後方から聞こえるよく通る可愛い声。艶ある黒髮の女の子。幼馴染でたった一人の親友、花園 六花 。
物心がつく前からの長い付き合いで、六花は俺の事を兄妹くらいにしか思ってないはず...。なんだかんだ、この関係が続いていた。
「おはよ、六花。あっ!そういえば、コレ!貸してって言ってたよな?持って来たよ。」
ノートの束を彼女に渡す...。
「これこれ、七ちゃんのレシピノート!ありがとー!お母さんに作ってもらわなくちゃ」満面の笑みでノートをカバンに入れた。