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やまぶき幼稚園タンポポ組 7


 そういうわけで私は今、タダの家のリビングのソファに座っている。

 いやぁどうしよう。来ちゃったけど。それで中に入っちゃったけど。

 高校生になったら帰りも遅いし、小中学区の違う子ばっかりだからそうそうよその家に遊びに行く事はなくなった。だいたい中学の時も部活とかでみんな忙しいから、人のうちにちょいちょい遊びに行っていたのは小学までだ。

 しかも男子の家だ。この間ヒロちゃんちに行ったけれど、それは遊びに行ったわけではなく、ヒロちゃんのお姉さんのミスズさんに水着をもらったお礼をするっていう理由があった。

 このタダの家にも小学生の時にヒロちゃん達と来た事があった。生まれたばかりのカズミ君を見に来た時とか…あと、タダが学校を休んだ時にプリント持ってきて上げたり。



 落ち着かないのでキッチンにいるタダに声をかける。「なんか手伝おうか?」

「いや、いい。カズミと遊んでて」

カズミ君を見ると、ちょいちょいと手招きをする。リビングから庭に出られるようになっているのだが、その折口のすぐ下の陰になっている所にカメの水槽が置いてあった。タダが前にラインで写真を送ってくれたカメだ。カメは広めの水槽でのっそりと過ごしていた。

「このカメね、」と言ってみる。「カズミ君のお兄ちゃんが前に写真送ってくれたよ」

「そうなん?」

「カメの名前付けてないの?」と聞く。

「うん。カメって呼んでる」

そっか。カメだもんね。

「お兄ちゃんがカメ洗ってくれるんでしょう」

「…まあね。オレが小学生になるまではお世話を手伝ってくれるって」

「そっか、お兄ちゃん優しいね」

「まあまあな」

偉そうな返事にアハハ、と笑ってしまって「ごめん」と謝ったらムッとした顔のカズミ君が、「大島」と言った。

「なに?ごめん笑って」

「違う。大島これ、兄ちゃんには絶対言ったらダメだけどな」

「なに?」

「オレ、兄ちゃんの事すげえ好き」


 可愛い!!

 これは本物のツンデレさんだな。幼稚園で先生に言われた時には『普通に好き』って言ってたのに。あれは恥ずかしかったのかな。



 「じゃあさ、大島が付ける?」と、カズミ君が言う。「カメの名前」

「私?私が付けるの?」

「いや?」

「いやじゃないけど…う~~~ん…すぐには思い付かないかも」

「だせえな、すぐ思い付くやつでいいじゃん」

なんだと?ずっとカメって呼んでたくせに。

「う~~ん…じゃあね…」じゃあ緑っぽいところがあるから…「ミ…ミドリィかミドルン?」

「それマジで言ってんの?」

「…だって顔の横に緑色の線があるから…」

「ミドリィ!」とカズミ君がカメに向かって声を出した。

ふん?て感じでカメが頭をこちらに向ける。カメって人の声が分かるのかな。

カズミ君が言った。「今振り向いたからもうミドリィでいいや」

なんか仕方なくっぽいけど…


 「兄ちゃん!」

 カズミ君がリビングの奥のキッチンにいて昼の用意をしてくれているタダを呼ぶ。

「カメなあ、今大島がミドリィって名前付けた」

…なんか恥ずかしいな。ネーミングセンス、タダにバカにされないかな。

「わかった」と普通に答えるタダ。「もう出来るから中に入って大島と手ぇ洗っといて」

「は~~い」

すごく良いお返事をするカズミ君だ。


  

 手を洗ってカズミ君とダイニングキッチンのテーブルにつく。私とカズミ君が向かい合って、タダはカズミ君の隣だ。

「やきそばの麺がな、」といきなり言い出すタダ。「やっぱ無かったから今日はスパゲティで代用」

そうなんだ!ちょっと太めで真っ直ぐの麺だなって思ったけど。

「すごいうまいよ」とカズミ君が言う。「兄ちゃんの作るやつ」

それを聞いてタダがニコニコと笑う。

 タダ、すごくお兄ちゃんぽいじゃん。濃いデニムのエプロンしてるし。これを女子のみなさんが見たら大騒ぎしそうだけど…


 「いただきま~~~す!」と元気よく言うカズミ君にならって「いただきます」と言ってタダを見ると、うん、とうなずく。

 一口食べると…わ~~~すごく美味しい!お腹空いてたのもあるけどソースが美味しい。うちのソースと味が違う。

「すごい。すごい美味しいよ!」と思わず口に入れたまま言ってしまって慌てて口を押さえる。

「そっか」と、いつもの超普通の感じのタダ。「なら良かったけど」

あまりのタダの普通っぽい返事に褒めた甲斐がないと思ってさらに褒めてみる。「すっごい美味しいって。ちょっとびっくり」

「ふうん」

あくまで超普通のタダ。「カズミは?うまい?」

「うん、うまい!いつもとおんなじだけうまい!」

ハハハ、とタダが笑った。「そっかいつもとおんなじか」

「いつもこんなに美味しいの?」と私はカズミ君に聞く。

「うん、いつも普通にうまいよ」

「すごいね」とまた褒めてしまった。

「そんなたいしたもんは作んないから」と謙遜するタダだ。「簡単なヤツしか作んねえから」

「でもソースとかうちのと違う。何ていうの使ってんの?お母さんにも教えたいな」

「これはやきそばソースとオイスターソースとウスターソースと醤油を適当に混ぜてる」

「凄いじゃん!凄いじゃんソレ!私も今度作ってみようかな…」

「大島も作れるの?」とカズミ君が聞く。

「んん~~カレーとかサンドイッチとかしか作った事ないけどやってみる!」

力んで言ったら、ハハハ、とまたタダが笑ったが、今度はすごく嬉しそうにしたので急激に恥ずかしくなってもう黙って食べる事にした。


 

「なんでさぁ」とカズミ君がモグッとやきそばを頬張りながら言う。「なんで兄ちゃんはヒロにいの事はヒロトって呼ぶのに、大島の事は大島って呼ぶん?」

「ん?」急に聞かれて少し驚いた顔のタダ。「あ~~~…」

「なんでさぁ」と今度は私に聞くカズミ君だ。「大島は兄ちゃんの事タダって呼ぶん?ヒロ兄の事はヒロちゃんて呼ぶのに」

いや、あんただって大島って呼んでんじゃん、と思いながら答えを探しているとタダが先に言った。しかも普通にだ。普通に同級生に説明するような感じで。

「ヒロトと大島はカズミくらいの時から友達だからそんな感じ。ちっちゃいときは結構みんな名前で呼ぶだろ?男の子も女の子も。でもオレと大島は割と大きくなってから会ったから」

「へ~~~。ヒロ兄は大島の事なんて呼んでんだっけ?」とカズミ君。

カズミ君が他の同じくらいの子たちより大人びてんのはやっぱり、歳の離れたタダがお兄ちゃんだからだね。けれどタダも、中学の時だって、同級生の他の男子たちみたいには意味なく無駄にはしゃいだり騒いだりはしない感じだったし、そういう所は似てるのかも。

 「ヒロトは『ユズ』って呼んでる」とタダが答える。

ただ普通に答えただけなのに、無暗にドキッとしてしまった私だ。普段大島って呼ばれてるから。そして花火大会で抱きしめられたから。

 あ、ダメだ。やきそば食べながらそんな事思い出したら恥ずかし過ぎる!



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