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やまぶき幼稚園タンポポ組 6

 お遊戯会も終わってまた教室に戻り、みんなで帰りの挨拶をする。

「今日はぁ、お家の人に見てもらえて良かったですねぇ!」と先生。「みんなとっても、とってもとってもとっても!すばらしかったですよぉ!みんな素晴らしかったし、お母さんたちも素晴らしかったし、私も素晴らしかったし、カズミ君のお兄ちゃんも素晴らしかったです~~~~!」

私の隣で『え?』って顔をしているタダだ。


 「あれぇ?」と殊更可愛い声を出す先生。「聞こえませんでしたかぁ?カズミ君のお兄ちゃん、今日はとってもぉ素晴らしかったで~~~す!」

「あ、いえ」と地味に答えるタダ。

そしてそこまで可愛くない低めの声で先生が私に視線を移して言った。「隣の彼女もありがとう」

 なんか超ついでみたいに言われたけど…まあ良かった、一応私にも言ってくれた。

「あ、いえ」とタダと同じ感じで地味に答えたらその返事は全く待たない感じで「なかなかね、」と先生が続けた。

「兄弟の参観とか、しかも高校生で親の代わりでなんて恥ずかしがって普通は来れないのに、来てくれてありがとう。先生とっても嬉しいです!」

「いえ」と今度はタダもちゃんと答える。「弟がいつもお世話になってありがとうございます。今日は楽しかったです」

 ほ~~~~~っとため息をつくお母様方。


 

 それでもタダのちゃんとした受け答えをきいて、少しびっくりしながら嬉しくなっている私だ。

 私たち、成長したよね!

 タダもこっちに来た当時は、転校したてっていうのもあったとは思うけど、コミュ力のない私でさえ、え?男子なのにこんな人見知りだとマズいんじゃないの?って最初は心配したくらい消極的な感じだったけど、ヒロちゃんと、そしてヒロちゃんの周りにいる男子達にもまれるうちに逞しくなったよね!ほんと逞しくなったよ、体だってあんなに強…

 あ、ダメだ抱きしめられた時の感触また思い出した。考えない考えない。なんでタダの体の事なんて考えた?タダだってなんともないって思ってんだから。私が気にしてどうする。




 通園カバンに荷物を詰め込み、さようなら!!!、と教室いっぱいにボン!、と膨らんだような元気の良い挨拶をして、園児は親と一緒に家に帰る。私たちもカズミ君を連れて帰るのだ。私たちも、って言っても、カズミ君を連れて帰るのはもちろんタダなんだけど。


 園の門を出ながらカズミ君がフェンスの向こうを指して言った。

「大島もこの小学校行ってた?」

 そうなのだ。やまぶき幼稚園は、私とタダと、そしてヒロちゃんも通っていた『やまぶき小学校』に隣接していて、カズミ君もここに通うはず。

 うん、とうなずいた私に、続けてカズミ君が聞く。

「小学校面白かった?兄ちゃんはここに転校して来てからはすごく楽しかったって言ってんだけど、大島も楽しかった?」

「楽しかったよ」

楽しくない事や嫌な事もちょこちょこあったけど、今思えばそれも当たり前の事で、やまぶき小に通えてすごく良かったと思ってる。

 だってヒロちゃんがいたもんね!


 「カズミ」とタダが言った。「お前、大島の事すげえ気に入ってねえ?」

別にふざけても、からかってもいない普通の感じで聞くタダだ。

「気に入った」とこれまた普通に答えるカズミ君。

そっか!気に入ってくれたんだ抑揚ない返事だけど。

 「よし、」とタダがカズミ君にニッコリ笑って言った。「じゃあ大島をうちに連れて帰って一緒にメシ食うか」

え?

「大島」と今度はカズミ君が言う。「うちでご飯食べよ?」


 このままタダの家について行ってご飯ご馳走になるの?そりゃまた急だな。心の準備が出来てないんだけど…なので思い出したように「そう言えば」と私は言った。

「今日タダんちのお母さんて仕事なんでしょ。ご飯どうするの?」

「オレが作る。簡単なもんしか作んねえけど」

「今日、やきそば食べたい」とカズミ君が言った。

「やきそばか…麺があったかな…」

そっかすごいな、タダが作るんだ。でも…

「私、うちのお母さんも用意してるかもしれないから…」

「あ~~…そっか」とタダ。「ちょっと電話してみ?」

「そうだよ大島。まだ用意してなかったらうち来たらいいじゃん」



 いやぁ…どうなんだろ。行っていいのかタダのうち。

 …抱きしめられたよね、私はこの人に。チラッとタダの顔をのぞくと、ふん?て何でもない顔で「どうなん?」みたいな本当に普通の感じ。本気で普通の普通に誘って来たな。なんでこんなに普通に出来る。

 「「早く電話してみ?」」とタダ兄弟が声を合わせる。

 なんだこの兄弟。

 タダが手を差し出す。「出してほらスマホ」

「あ、そう言えばタダのスマホ私が持ってた」

「いいから電話してみ?」



 う~~ん…

 カズミ君が私の顔を下から覗き込みながら、ちょっとムッとした顔をして言った。「うちに来たくねえの?」

「いや、そういうわけじゃないよ」

「じゃあ早く電話しなよ。お腹空いた」

そう言って急かすカズミ君の頭にタダがポン、と軽く手を乗せる。

 どうなんだろ…とまだ思いながら母の携帯に電話すると、ベルが鳴っている途中でタダが私のスマホを取り上げた。

 「あ、朝は失礼しました。タダです。今ユズルさんの電話借りてます。今日はユズルさんに一緒に弟の参観に行ってもらってありがとうございました。…はい。…いえ。弟も喜んでました。それで、無理を言うんですけど、弟がユズルさんに今日このままちょっとうちに寄ってもらって、一緒にご飯食べたいって言ってるんですど…あ、いえ、そんなことは…」

 母もどうかなって思ってんじゃないかな。だって男子の家だし、今日親がいないって知ってるし。

 と、そこでカズミ君がタダの腕を引っ張り、少しタダをしゃがませて私のスマホのそばで結構な大声で言った。

「お姉ちゃんと一緒にご飯食べたい~~~。兄ちゃんおねが~~~い。お姉ちゃんに帰らないように言って~~~帰っちゃイヤだ~~」

 突然のカズミ君の子どもぶりに驚いてしまう。お姉ちゃんなんて今初めて言われたし。ずっと大島って呼んでたくせに。

「…はい、そうなんです、すいません」とタダが母に言っている。「弟がユズルさんのことすごい気に入ってしまって…食べ終わったらまた送って行くんで。はい、ありがとうございます」

 私に替わることなく、電話をピッと切ってしまうと「お母さんいいって言ってた」とタダが言ってニッコリ笑った。




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