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やまぶき幼稚園タンポポ組 5

 お遊戯が始まったが、それはお遊戯というよりは完全にダンスだった。曲が幼稚園の行事でありがちな童謡とかアニメの主題歌とかではなくて、アンドリュー・マクマホンの『ファイヤー・エスケープ』だった。

 オシャレだな。そして可愛いな。曲が鳴り始めたと同時に動き出した園児たちは、一生懸命手を伸ばしてウエストを回したり、クルクルその場で回ったりピョンピョンとび跳ねたり、隣の子と手を繋いでスキップしたり、向かい合わせになって両手を繋いで回ったり両肩をポンポンと交替で叩き合ったり頬っぺたをつまんだり…それを次々に男女関係なくすぐ近くにいる人に相手を替えて移動していく。クルクルクルクル…

 楽しそう!可愛いな!でも結構高度だよね。侮れないな幼稚園児。…私これ、すぐには覚えられそうにないんだけど。


 そして意外にタダの弟はちゃんと踊っていた。

 ふざけるわけでもなく、さっき私たちに見せていたスカした様な幼稚園児らしくない感じでもなく、かと言ってダンスを楽しんでるわけでもなく、淡々と、そしてきちんと踊る。カズミ君が手を繋ぐ女の子はみんな、すごく嬉しそうにしたり、たまらなくてはにかんだり…結構モテてるね。

 1曲終わった後、女の子たちからブーイングが起こった。

「「「「「「「「まだカズミ君と踊ってない~~~~」」」」」」」」

 モテモテじゃん弟。


 「はいはいはいはい」とマイクを持った先生が言う。「静かにしてくだい。…静かにしてください。ほら!まだやるんだから静かにしなさいって!じゃあもう1回行きましょう!それでお母さんたちも覚えて下さいよ~~~」

 無理だよね。すごく楽しそうだけど。まあでも今日は保護者として来てるタダが当然踊るでしょ。


 あっという間にそのもう1回は終わって、私たちも園児の中に入るように言われる。どうすんのタダ?大丈夫?

 んん~~~て顔のタダ。他のお母様たちも積極的な人ばかりではないようで、どうしようかしらって顔をして周りのお母様たちの動向を伺っている。そしてタダの方もチラチラ見るお母様方。

 …お母様たちちょっと怖いかも…うちの学校の女子の皆さんと同じくタダと触れ合いたいと思ってるんじゃあ…


 そこでマイクを取ったのはタンポポ組の先生だった。壇上に登っている。

 「カズミ君のお兄ちゃ~~~~~ん!」と、壇上からマイク片手にこちらに手を振る先生。

タダがビクッとしたのがわかった。

「参加してくださ~~~い!…あれ?聞こえませんか~~~?みんな楽しみしてるんです踊りたいんですよお兄さんと!参加してくださ~~~い」

 すごいな。もう捕獲されたも同然だよね。「ほら、呼ばれてるよ」と半笑いでタダに言ってしまう。

「いやぁ…マジで勘弁して欲しい。なあ大島代わりに行って来てよ」

「ご指名じゃん」と私は笑顔で言う。「すごい期待されて…」

そう私が話しているところへワラワラッと女の子たちがすごい勢いでやって来てタダの周りを囲った。


 「「「「「「カズミ君のお兄さん!一緒に踊ってください!」」」」」」

言って両手をタダに差し出す女の子たちの中には、カズミ君の描いたキイの周りに花を描きまくったイケハラマイちゃんもいる。

「はいはいはいはい。お兄さ~~~ん。カズミ君の可愛らしいお友達が誘ってますよ~~~~、お兄さ~~~~ん!サクッと中に入り込んでくださ~~~い!」

 ついゲラゲラと笑ってしまった。

 

 先生の声にOKが出たと思ったのか女の子たちがタダに飛びついた。うちのクラスの女子の皆さんより断然積極的だ。わっ!、と声を上げたタダが、すごく困った顔をしていて面白い。

「すごい!お迎えまで来たよ!」笑いながら言ってしまう。「早く行っておいで!私動画撮っててあげる!」

タダからスマホを取り上げ、私も女の子たちの手伝いだ。片手でタダの背中を押した。

「や、ちょっ…!大島!」と困りながら連れて行かれるタダを撮る。これ私のスマホにも送って、それでヒロちゃんにも送ろっと。


 タタタタタッ。

 ふん?カズミ君が私の所へ走ってやって来た。

「大島」と私を呼ぶ。「一緒行こ」

私?

「ほら」とカズミ君が両手を差し出す。…なんか可愛い。

タダの方を見るとタダは両手をがっちりと女の子に取られたまま、こくん、とうなずいて合図した。

 何の合図だよ!来いって事か?

 手を伸ばして来たカズミ君が私の手からタダのスマホを取り上げると、私が持っていたバッグも取り上げてその中にスマホをしまい、バッグを少し離れた床に置いて、また私の前に戻り両手を出した。

 なんか…すごく可愛い!思わずニコニコしてしまうけど、私も踊るのかな。私、タダについて来ただけなのに。

 

 「大島」ともう一度私を呼びながらカズミ君が私の両手をバッと握った。

 わ~~…最初は『なんで来た?』みたいな顔されてたのに、やっと慣れてきたのかな嬉しいな。

「大島、今日着てるワンピすげえ似合ってる」

え!?

 カズミ君に両手を掴まれたまま自分のワンピースを見る。この、あっさりした青いチェック柄の膝上のワンピースはお気に入りで、ヒロちゃんたちと海に行った時も着た。

「可愛いよ」と普通に言うカズミ君。

「あ…りがと」

おませさんだな。

 「なんかちょっと」

カズミ君が言いながら私の手を引っ張るので私は少しずつみんなところへ移動している。「兄ちゃんのシャツとおソロみたいだな」

 そう言われれば!


 「大島」とカズミ君が言う。「オレの真似すれば大丈夫だから」

「うん…自信ないけどじゃあやるよ」こんだけ幼稚園児に誘われて断るってダサいもんね。

「大島さぁ、さっきオレの描いた絵がムチャされてんのに笑ったじゃん?」

「うん。ごめん。ごめんね?」

「あの笑った時の顔、メッチャ可愛かった」

「…」

 ふえ~~~~~~。

 ツンデレ!?何これ…タダの弟…このまま大きくなったら絶対タダよりモテるようになりそう。



 また『ファイヤー・エスケープ』がかかる。カズミ君が私の方を見ながら『こうだよ』みたいにお手本になってくれる。たのもしいじゃんカズミ君。

 …あれ?心なしか園児の女子のみなさんがムッとした顔でこっちをチラチラ見てるような…

 曲に合わせて私もクルクル回り、相手を替えてまた踊る。みんな良く覚えてるよね。ちょっとタダを確認。

 おっ!ちゃんと真面目に踊ってるし…相手の女の子が嬉しそうだね!え?次先生と?先生も嬉しそう。


 1回曲が終わりかけると園児たちが「もう1回!!」と叫び、結局3回繰り返して躍った。結構な運動量だ。でも楽しかった。タダとも当たるかなと思ったけど、当たらなくてほっとした。向きあって手を握り合ったりしたら確実に花火大会の抱きしめられた瞬間の事を思い出すと思ってちょっと焦っていたのだ。手を握り合いながらそんな事を思い出していたら、もうどんな顔をしていたらいいかわからないから。

 ちょっと悔しいしムカつくよね。あんな事をしてきといて全然普通なんだもん。私だけ意識してバカみたいだ。弟もませてるし。なんなんだあの兄弟。




 


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