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やまぶき幼稚園タンポポ組 4

 「カズミ」とタダが弟を注意する。「いいから」

それでも、画用紙の上に描いたキイにやたら長いヒゲを描き足した弟はタダに言った。

「よくねえじゃん。ヒロ兄はヒロ兄でカッコいいけど、兄ちゃんだってすげえカッコいいのに、なんで大島は兄ちゃんの事が嫌いなの?」

「カズミ」タダは唇に人指し指を当てて「しっ」と言った。

「「「「「「やだ♡」」」」」」とお母様達と先生。


 「なあ」とそれでもなお私を問い詰める弟だ。

「…別に…嫌いじゃないよ」と小さい声で答える私だ。

「そうなん?」と弟。「兄ちゃんの事嫌いじゃねえの?」

「…うん。今ね、高校で同じクラスなんだよ」

なんで私がタダの事を『嫌い』って思ってるんだろう。タダが私の事、家で何か言ってるのかな。ヤだな、と思ってタダを睨みながら、弟に仲が悪いわけじゃないっていうのをちゃんと伝えようとする。

「カズミ君が生まれる前に、カズミ君ちが引っ越して来た時からずっと知ってるんだよ。ヒロト兄ちゃんとカズミ君のお兄ちゃんと、後他のお友達で遊んだ事もいっぱいあったよ。カズミ君が生まれた時もお姉ちゃん、ヒロト兄ちゃん達と見に行ったんだよ」

「じゃあさ、好きか嫌いで言うと?」

「え?」

 私の今の説明なんてなんにも聞いてなかったかのようにタダの弟は聞いてきた。

「嫌いなん?」

「…いや、だからね?今…」

「違うよ大島」と逆に私に言うタダの弟。「兄ちゃんの事、好きか嫌いかで言うと?」

この子なに!小首かしげてるけど、と思いながらもまたタダを睨むとちょっと笑っている。もう~~~。


 まだ答えたない私に弟が少し機嫌の悪そうな顔になってもう一度聞いた。「好きか嫌いかで言うと?」

「…好きだけど」

タダの弟がはじめてニッコリ私に笑ってくれた。「兄ちゃん、大島、兄ちゃんの事が好きだって。良かったじゃん」

「お~~~」とタダが返す。「嬉しいわ」

 別に嬉しそうじゃないじゃん。普通にさらっと答えやがって。なんかもう…なんか私だけすごく恥ずかしい。

 ちっ、と小さな舌打ちが聞こえた。「高校生とかマジ信じらんない」

え?先生!?今の舌打ち先生なの!?


 タダが片手を弟の頭に優しく置いてから手の平を広げてその頭をギュッとつかみ、ぎゅっ、ぎゅっ、と強く揉むように触りながら言った。

「もうほら、後は真面目にやれ」

言っているタダの声はすごく優しいし。何だったんだ今の。

 弟!、と私は弟を問い詰めたいところだ。

 それは何?あんたの兄ちゃんは私の事好きだってあんたに言ってるわけ?

 

 …いや…タダは、『嬉しいわ』って超普通の調子で言ったよね。私だけが好きだって言わされた恥ずかしい感が漂ってますけど。



 「ねえねえカズミ君」とそばにいた『いけはら まな』と名札に書かれた女の子が、「カズミ君の描いたネコ、すごい上手!」とニコニコしながら言って来た。

「ほんとねえ」とマナちゃんのお母さんも。

「カズミ君のお兄ちゃん、カッコいいね!」とマナちゃんが言う。「王子さまみたい」

「…」無言のタダの弟。

「でもマナね?カズミ君がいちばん、世界一カッコいいと思う!」

「あらぁ」とマナちゃんのお母さん。

「…」やっぱり無言のカズミ君。

「マナ、カズミ君のネコの隣にお花描こっと!マナねえ、お花すっごくきれいに描けるんだ」

「…」

無言だが明らかにムッとした顔のカズミ君。

 気に入ってるキイの隣に描かれたら嫌なのかな。ちょっと笑いそう私。我慢我慢。

「「私も!」」とグループの残り二人の女の子もカズミ君が描いたキイの絵の周りに、競争するように花やリンゴやハートマークを描き始めた。ムムムッとした弟の顔が面白い。

 ダメだ。笑っちゃう。「ハハハ」

 タダの弟が私をパッと見たので、私もハッ、と笑うのを止める。ごめんカズミ君。せっかくのキイが面白い事になってるから。でも優しいね、女の子にダメだって怒んないとこが。

 

 コト、と弟は静かにクレヨンを箱になおした。そしてつぶやくのが聞こえた。「めんどくせ」

 ちょっとびっくりしてタダを見る。タダにも聞こえたのか私を見返して苦笑した。

「あんまタダと似てないね」タダはもっと柔らかい感じだもんね。

「そうか?」

「顔はちょっと似てるけど。引っ越して来た頃のタダに似てる」

「オレが引っ越して来た頃の事覚えてんの?」

覚えてるよ。ヒロちゃんが異様にタダを気に入ってすぐに仲良くなって、ヒロちゃん盗られた!と思ってたもん。

 だから「まあまあね」と気のない感じで答えた。

「へ~~」とタダ。「それ、すげえ嬉しいかも」

 

 まあまあねって答えたのに?あれ?さっき無理矢理『好き』って言わされた時より嬉しそうじゃん。

 …やっぱりタダ、私の事好きなのかな?

 あ、まずい。こんな所で花火大会の時の抱きしめられた瞬間を思い出してしまった。ダメだ考えない考えない。


 そうこうしているうちにお絵描きは終わり、別館の体育館を兼ねた講堂へと移動する。外遊びだと昼前は日差しがまだキツいので、講堂でお遊戯をするのだ。

 この時間弟を参観した結果でいうと、お遊戯なんてバカくさい、って思っていそう。最初はちょっと落ち着きないかなって思ったけれど、人当たりは年齢よりはだいぶん落ち着いているように思える。

 



 幼稚園の講堂は、うちの高校や、中学の体育館と比べると6分の1程の大きさだった。

 タダの弟を参観した結果でいうと、お遊戯なんてバカくさい、ってちょっと思っていそう。最初は落ち着きないかなって思ったけれど、人当たりは、年齢よりはだいぶん落ち着いているように思える。

 タダの弟ちゃんとお遊戯するのかな、と少し心配してしまう。。『オレはそんなの踊らねえけど?』みたいな感じ出し始めなきゃいいけど。


 「よく見ててくださいね~~」と先生たちが私たちに呼びかける。「後でお母さんたちもやってもらいますから~~~」

 マジで!大変だな。

 そう思ってタダを見たらタダもそんな顔で私を見た。

「大島頑張って」と半笑いで言うタダに、「もう何言ってんの、あんたの弟じゃん」と答える私。

 


 同じ学年の別のクラスの園児も一緒に集められて並ばされせられていると、お母様たちはほぼ全員スマホを取り出して自分の子どもを写そうとしはじめた。

「ねえタダ、あんたも撮ってあげたら?帰ってからお母さんたちに見せてあげないと」

「マジで」と言いながらもタダはパンツの後ろポケット化からスマホを取り出した。

「あ、ねえ…ヒロちゃんにほんとに浴衣の写真送ってくれててありがと。ちゃんとお礼言おうとは思ってたんだけど…」

 


 後半の補習はまだ残っているが、この1週間の補習の間、タダの私に対する態度は普通過ぎるくらい普通だった。

 あの、花火大会で抱きしめられたのなんか、私だけの幻想だったのかと思うくらいに。花火大会以来顔を合わせていなかったから、タダは私を見てどんな顔をするんだろうかとか、みんなの前で私の事を好きな感じを出してきたらどうしようとかまで考えて心配した事が恥ずかしい。

 本当に何事もなかったかのように普通。なんだったら前より私に話しかける回数減ったんじゃないかって感じだった。

 でもそんなタダの態度と、ずっと片思いをしてきたヒロちゃんに派手に振られたっていう話をユマちゃんが広めてくれたおかげで、ハタナカさんでさえ、私にタダの事で絡んで来る事はなかったのだ。

 良かったラッキー、と思っていた私だ。



 「ヒロトは何て言ってた?」

タダがスマホを手に弟の姿を追いながら、チラッと私を見てふざけた感じで聞く。

ふん!と思う。なんか小バカにしてくるよね。「ちゃんと可愛いって言ってくれたよ」

まあね、いちばん可愛いのはどうせユキちゃんなんですけど。

「良かったじゃん」

「うん」




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