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やまぶき幼稚園タンポポ組 2


 「ねえ」と、私はタンポポ組の教室の後ろで隣に立つタダに聞く。「どうしてヒロちゃん急に来れなくなったの?私にはただ行けなくなったとしか言ってくれなかったんだけど」

 そうなのだ。この幼稚園はヒロちゃんも通っていた幼稚園で、タダとヒロちゃんと私の3人で今日はここへ来るはずだったのに。

 本当はタダのお父さんが今日の参観は来る予定にしていたらしかったのに、急な出張が入ったらしく、タダのお母さんはすでに仕事のシフトを入れていて、それで夏休みだし、タダに代わりに行って欲しいとお母さんから頼まれたらしいのだ。

 

 「なんかな…」とちょっと私の顔色を伺うタダだ。「ユキちゃんが夕べから熱が出たらしくて、どうしても見舞いに行きたいんだと」

なるほどね!

 家を出ようと思った直前、朝10時少し過ぎたくらいにヒロちゃんからラインが来たのだ。

「悪い。急にオレは行けなくなったけど、イズミが一人じゃ心細いからユズは絶対一緒に行ってやってくれ」って。

 そしてタイミング良くドアチャイムが鳴って、私が事情を話していなかった母が玄関に出て騒いだ。

「やだタダ君!デート?デートの迎え?ユズとデート行くの?」

「行かないからデートじゃないから」と、タダが驚いている間に私が答える。

「…大島、ヒロトから連絡来たろ」

「…来たよ」

 でもヒロちゃんが行かないなら意味ないじゃん。ヒロちゃんが幼稚園児と楽しげに戯れる様を見たかったから一緒に行く事にしたのに…



 3日前にヒロちゃんからラインが来たのだ。

「イズミが親の代わりにカズミの参観に行く事になったから。面白そうだからユズも行こうや。てかユズ来てくれんと困る。オレらが二人で行ったら保母さんとか他の子の親になんだこいつらって思われそうだからな」

 カズミと言うのはタダの歳の離れた幼稚園児の弟だ。前にタダがカメの写真を送ってくれた時に一緒に写っていた。

 『面白そうだからユズも行こうや』っていうヒロちゃんの言い方にズキュン、と来た私だ。もう4回も振られてんのに。

 あ~~~やっぱ好き!ヒロちゃん好き!

 でも夕べからユキちゃん熱出してんなら、もっと早く連絡くれたらいいじゃん。そしたら私もタダが来る前に、タダに行かないって連絡出来たのに。



 「ごめん」とタダに言う。「ついさっきヒロちゃんから連絡来たから。私も行くの止めようかな」

「何言ってんの?」と言ったのはタダではない。母だ。

「せっかくタダ君迎えに来てくれてんのに」

事情も知らないのに母はタダに味方しようとする。

「いやマジで」とタダが困った顔で言った。「オレ一人とかホント無理だから。大島頼むって。一緒行って」

 タダがこんな困った顔をするのは珍しいかも。焦ってるところもあまり見た事がない。

「でも…」タダと二人とか…

 幼稚園だから誰も知り合いはいないと思うけど。

 それにタダ、全然普通にしてる。私は結構花火大会で抱きしめられた事を思い出して、目の前にいるタダと目を合わすのが恥ずかしい感じなのに。

 …こいつ。やっぱなんとも思ってないよね私の事。じゃあなんであんな事したんだ。




 いやほんとに。

 後半の補習の居心地の悪さと言ったら。

 花火大会から日にちもたっているからほとぼりも冷めたかと思っていたら全くだった。しかもそれがタダと付き合ってる付き合ってないの話ではなく、まあ私が自分から誤解を解くために話したからなんだけど、浴衣まで着て行った花火大会で長年片思いをしてきたヒロちゃんに振られた事の方でひどく女子たちの同情を引き、しかも花火大会に行く途中にあったハタナカさんにタダが、私がヒロちゃんにアピールするのを手助けするっていうのも話していたものだから、イズミ君の優しい助けまであったのにそれでも振られるってよっぽどだよね、みたいな話にもなったらしく、私がせつなくなるくらい他クラの女子にまで慰められ、さらにタダは、なんてやさしいの!?カッコいいだけじゃなく、みたいな感じでさらに女子人気が上がり、もうどうしよう、担任の水本にまでいつになく優しい笑顔を向けられたのは絶対にいろんな事を耳に挟んでいたからだよね。


 そして私がしたその失恋話を派手に伝えたのはユマちゃんだった。

 もう!ユマちゃ~~~ん!

「だって同情させるしかないじゃん。みんなを黙らせるの」とユマちゃんは言った。「みんなが黙ってるうちにちゃちゃっとタダとうまくやりなよ」

「私とタダはそんなんじゃないってば」

「またまた~~~」

いや、またまた、じゃないから、と思いながら、花火大会のタダに抱きしめられた腕の強さをちょっと思い出しかけぶんぶんと首を振ったので、ユマちゃんがビクッとした。

「なんかさあ」とユマちゃん。「女の子がすごい好きだって言って男の子に付き合ってもらうより、男子にメッチャ好かれて付き合った方がいいじゃん」

「だから!タダはそんなんじゃないって」

「そんなんだって。ユズちゃんの事すごい好きなんだって」

 …そうなのかな…


 「今、」とユマちゃんがニヤッと笑った。「そうなのかな、って思ったでしょ~~~?」

 ドキっとしたがそれは隠す。「思ってない」

「まあいいよ」とユマちゃん。「でも本当に付き合う事になったら私にはちゃんと1番に教えてよ?」

 …タダと付き合う事になったら…

 あ、ダメだまた抱きしめられた事思い出しちゃう…あの後もタダはしれっとしてたよね?帰りだってふざけった写真撮って。そのせいでみんなに付き合ってんのかって言われて…




 

 「でも…」と、タダと二人で幼稚園の参観に参加するのをためらう私にタダが言う。「なあ頼むって。ほんと今日はマジでお願い」

「うん。いいよ」と答えたのは私じゃない。母だ。

「もうお母さん事情も知らない癖に口出さないでよ」

「どうせあんたの事だから、ヒロちゃんが一緒だと思って行くって言ったんでしょ」

「…」

「いいじゃないタダ君だってすごいカッコいいんだから。『お願い』、とか言って可愛いじゃない。私がキュンと来たわ。私だったら絶対行く」

「いやマジで黙って恥ずかしいから」

「あんたも一緒に出かけられる事もっと喜んだら?あ、それに!タダ君と二人で行ったらヒロちゃん嫉妬してくれるかもよ?」

「ちょっと!お母さんくだらないこと言わないで」

もう4回も振られてる事を母は知らないのだ。いや、3回目の『ユズは妹みたいなもんだから』発言の時は一緒に母も聞いてたな。

「ほら、」と母。「この前妹みたいって言ってたけど、やっぱりタダ君と二人で行ったと思ったらなんかちょっとモヤっと来てさ」

「バカじゃないの!?お母さん」

 私が抱くような妄想しないでくれないかな母。恥ずかしい。だいたいヒロちゃんが連絡くれるのが遅いからこんな事になってんだよ。


 

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