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やまぶき幼稚園タンポポ組

 8月も最後の日曜日、私は今、タダの弟が通う幼稚園の年小組、タンポポ組さんのクラスの後ろの方でタダの隣に立っている。

 今日は夏休み終了前に設けられた登園日で、9月からまた園児が御機嫌良く通えるように、参観日も兼ねて保護者と一緒に過ごすのだ。タダは私の横で、私と同じように戸惑い、タダの弟は20人ほどのクラスの前の方の椅子で、先生の説明もよく聞かずにチラチラと後ろを振り返り私とタダを見ている所だ。



 花火大会のその夜から翌日、翌々日にかけて、私のケイタイには普段全然連絡しないような子からもラインが入った。

 そういう子たちからのラインは100パー、タダと付き合ってるのかという質問。そしてそれまでラインを知らなかった、タダの事が大好きな同クラの派手目女子ハタナカさんとも、別な子からのつてでラインが来てしまった。

 


 タダというのは多田和泉。私が小学低学年からずっと好きなイトウヒロトの親友で、そのヒロちゃんとは高校が別々になってしまったが、タダとは今、同高同クラ。花火大会にもヒロちゃんと、ヒロちゃんが好きなユキちゃん、タダと私の4人で行き、帰りをタダに送ってもらった時に、結構通行人が多い中タダがふざけて私の写真を撮ったところを誰かに見られていたらしく、私とタダが付き合っているという話が女子の間であっという間に広まったのだと友達のユマちゃんが教えてくれた。ツイッターでも上げてた子がいたらしいけど、詳しい内容なんて知りたくない。

 恐ろしい。

 


 なんでそんな事ツイートするかな。

 私なんてヒロちゃんがつぶやくのを止めてから全然ツイッターを見てない。というかヒロちゃんがやってたから見ていたようなもので、ヒロちゃんのつぶやきはグラビアアイドルのきわどい水着やその水着からあふれているおっぱいやお尻についての感想が多かったけれど、それでも合間合間に、タダと食べに行ったラーメン屋の事とか、部活の事とかも知る事が出来てうれしかったのに…

 なんでヒロちゃんがつぶやかなくなったのかとタダに聞いたら、「最初は面白かったけどすぐ飽きたらしい」と教えてくれた。

「オレも見るだけだったんだけどヒロトがやんないからもう全然見なくなった。他のヤツのつぶやきとかほぼ意味ねえもんな面白くねえっつか…」

 なんだ私と一緒じゃん、と思ったのだ。


 全く。そんな、人の噂みたいな事をツイートして広めて何が面白い。

 いや…面白いんじゃなくて、みんなショックなんだろうな。

「イズミ君が~~~!!いやぁぁぁぁぁ~~!!」みたいな?相手がタダだったから女子が騒ぐのだ。

 タダは無駄に女子に人気があるので、花火大会にも女子から結構お誘いがかかっていたから、私が一緒に行く事は絶対誰にもばれない様に、タダにも言わないようにと釘を指したのに。帰りのタダのふざけた写真撮影のせいでこんな事に。

  

 恐ろしい。写真撮影だけで付き合ってるのかと騒がれるのだ。花火大会の途中で、下駄の鼻緒で指が擦れたタダの足に絆創膏を貼ってやった現場を、誰にも見られなくて本当に良かったと思う。そしてさらにその後、タダに抱きしめられたところなんか見られていたらもう…どんな騒ぎになっていたんだろう怖い。

 その直前には、ヒロちゃんに4回目、決定的に振られたところだったいうのに。



 

 実際、ハタナカさんからのラインは怖かった。

 ハタナカさんが入学当初からタダに目を付けていたのはクラスの誰もが知っていたし、花火大会にも一緒に行きたいと何回かタダを誘ってたし、さらに当日行く途中でタダと二人で歩いているところにハタナカさんと出くわして絡まれていたのだ。


 「イズミくんと付き合ってるなら付き合ってるって言えばいいじゃん。会った時もごまかして」

ハタナカさんからの最初のラインがこれだ。

 あ~~、と思う。スルーしたいな…そんな事出来るわけないけど。

 

 「ほんとに付き合ってはいないよ」と返す。「あの時言ったように小学から仲良い子で花火大会一緒に行っただけ」

それにハタナカさんがまた返して来た。「手をつないでコンビニ入ってったの見たって子や、コンビニの駐車場の裏にイズミ君がユズりん引っ張っていったの見た子もいるって誰かがツイートしてたのも回ってた」


 恐ろしいそのウソ情報の流され具合!そしてこんな感じでも私の事「ユズりん」て呼ぶんだ超怖い。

 タダに手を引っ張られて入ったのはコンビニの駐車場までだ。

 しかも、ふざけて変な風に撮った私の写真を撮り直すのに、周りに花火大会帰りの人が多かったからコンビニの駐車場へ入り、その前にタダがふざけて撮った、私が変な顔をしている写真を消去するっていう条件で、写真を撮り直すのを承諾したというのが本当の話。タダがちゃんと撮り直したのをヒロちゃんに送ってくれるって言うから…


 ハタナカさんからのラインに、「そんなの本当の事じゃないよ」って送ったところで信じてくれるんだろうか。またウソついてると思われるんじゃないだろうか、と思ってしばらく返信出来ないでいたら、またハタナカさんから来た。

「イズミ君は、付き合ってはいないけどその時は少しだけ手を繋いだし、ユズりんとは小学校からずっと仲良いんだって言ってる」

え?


 タダがそう言ってるの?なんでそんな事ハタナカさんに律儀に答るんだタダ。そもそもどんな風にハタナカさんはタダに質問したんだろう。

 私とタダはそんなには仲良くはないじゃん。ヒロちゃんあっての私とタダだ。

 ていうか!タダとハタナカさんはラインしてるんだ!

 知らなかった。タダはハタナカさんみたいな子はすごく苦手なんだと思ってた。私だって今回初めてハタナカさんとラインしたのに…。へ~~と思う。そうなんだ~~~ラインしてるんだ~~~…へ~~~~

 それならハタナカさん、私じゃなくて最初からタダに聞けばいいじゃんいろいろ。

 


 まあそれでも前半の補習終わってて良かったよね…と思った私だ。

 後半の補習までにはまだ結構あるからみんな落ち着くんじゃないかな。あのあとハタナカさんにも、「うん。あの時コンビニの駐車場に連れてくために手を引っ張られて、そこで写真撮って友達に送ってくれたんだよ」と返したら、ハタナカさんはウサギかクマかよくわからないピンク色の動物がうつぶせで倒れているスタンプを返してきて、それ以来ラインは来てない。…それでもタダには他にもいろいろと聞いていて、タダが何か答えているのかもと思うと気になったけれど、それをわざわざ私がタダに聞くのは嫌だ。

 


  だって私とタダは本当に何にも…と思いながら花火大会のあの、タダに抱きしめられた瞬間を思い出して、うわ~~~と思う。あの事をハタナカさんに教えたりはしないよね?そんな事教えても意味ないし。そもそもあの行為自体意味無かったような気がする。だって『感極まった』ってわけわかんない事言ってたし。

 問題になった写真撮影も実際ふざけてたし、その写真だって約束通りヒロちゃんに送ってくれたし…

 

 ヒロちゃんからあの夜帰ったらラインがあったのだ。

「イズミからユズの写真来た!ホント今日は似合ってたぞ」

わ~~~~~~~!!とその2時間くらい前にははっきり振られたくせに、まだ嬉しいんだね。しょうがないや。

 それからヒロちゃんは、「イズミが写すといつものユズより余計可愛かったわ」。

 え、マジで。その写真私もタダから送ってもらおうかな、とウキウキ思った所にユマちゃんからラインが来て、タダとの事が広まってるって言うし。

 そして極めつけ最後にヒロちゃんから。「この写真、ユキにも送っていいか?今日、やたらユズの事可愛いつってたから」。


 あ~~~~…と思う私。ユキちゃんが花火大会で私の浴衣姿をさんざん褒めてくれたのは、私がずっとヒロちゃんの事を好きだった事を知っているからだ。

「うん」、と言うしか選択肢はない。でもなんかちょっとイラっと来たので、「ヒロちゃんはユキちゃんの浴衣見たかったのにね!」と嫌味も付け加えてしまった。

 ダメだなぁ…こういうところで断然負けちゃうんだよね、ユキちゃんに。





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