第六話 新入生&侵入生
今日、俺たちの教室に初めてくる奴がいるので、今から紹介しようと思う。
まずは、奴がやってきた経緯から説明しよう。
あれは、俺たちが二時間目の小野 信藤先生による世界史の授業を受けているときだった。
と言うと語弊がある、授業の後の事だ。
「はい、じゃあ この問題を、そうだね。 椋木、答えてみろ」
「えぇ~、ねぇ子守、分かる?」
「ぇえ? 私に聞かないでよ」
あの二人は仲がよくて、よくああやって話している。
「分からないかー? クラークの有名な言葉なんだぞ? それにほら、教科書にも英文で載ってるじゃないか」
「分からないですよー」
「じゃあ、そうだな、安田」
「えっと、“少年よ”で始まるアレっすよね~」
「そうだ」
なんつったかなぁ~。 少年よ、少年よ…。
なんか、キムがいってたなぁ~、なんだったかなぁ。
あ、
「少年よ そこをどけ!!!」
「違うわ!」
おーい、安田~、それは俺がお前に言った言葉だよ~。
「えー、だって北海道のあのクラーク像の手を前に突き出してるあのポーズって、“前の人、ちょっとどいて~”って意味じゃないの?」
「そういう意味の手じゃないわ! もっと、まともな答えはお前の口からは聞けないのか」
「なにいってんのセーンセ、俺はいつだって大真面目だぜッ☆ 少年よ太鼓をたたけ? こう、ドドンッて感じで」
そうして、智寿は太鼓を打ち鳴らすようなポーズをとり軽く笑いをとろうとしたのかもしれないが、そのようなほうわかした空気ではなく、間抜けな智寿を見た誰もが唖然とした表情を浮かべる。
なかでも、小野先生は頭を抱えてしまっている。
「違う?」
「智寿もういい、座れ。 答えは“少年よ大志を抱け”だ」
「へ~、初耳だわ。 ほらみんなもビックリしてるし」
「お前の発言にビックリしてるんだよ」
と言うところでお馴染みのキーンコーンカーンコーンというチャイムの音が鳴り、小野先生が教室を出て行った後すぐに、浅木先生が教室に来た。
「あれ? 次って国語だっけ?」
「いや、体育」
「んー、じゃ、なんで浅木T (Tとはティーチャーのこと)が?」
「智寿…、お前またHRのとき寝てたな。 先生、朝に言ってたじゃねぇか」
「え? なんて?」
「2時間目と3時間目の間の休憩時間に新入生が来るって」
「へ~」
「あ、ほら」
先生の後に続いて背が低くて髪が少し長めの新入生と思わしきが入ってきた。
「はーい、みんな座ってー、今から新入生紹介するからー」
『はーい』
「よし、じゃあ、自分で自己紹介できるだろ?」
「はい、えっと、隣町から来ました幸崎 春です。 よろしくお願いします」
その瞬間だけ、クラスは一つになった。
“どっちだ?!”
そう、みんなが思った。 奴は一体、男なのか女なのかという問題に。
制服で判断できるだろうと、思うかも知れないが、次の授業は体育、そう新入生はジャージ姿なのだ。 特別にジャージでの登校が許されたらしい。
だから、なおのこと判断できないということなんだ。
「お、おい。 智寿 あれどっちだと思う?」
「なんだ、木村クンには、わからないのかね? ぇえ?」
「な、なんだよ。 お前分かるのかよ」
智寿は大きく頷いて見せた。
どうやら、相当な自信があるらしいようだ。
「あの新入生は、男だね!」
「なんで?」
「勘」
「雑だな」
「えっと、じゃあ、幸崎軍は…、違う幸崎君はあの席」
「分かりました」
幸崎は真ん中の列で三番目に座った。 そして、その幸崎の背中にはとあるものが…。
「えー、じゃあ…」
「キャー!」
突然、後ろの席の女子が立ち上がり後ろへ身を引いた。
おい、マジかよ。 誰がみても一目瞭然、新入生の背中には侵入生がいらっしゃられるじゃねぇか。
「キム、蜂だ! 蜂!」
「幸崎君! 背中に蜂! 蜂ついてる!!」
「え?! え!?」
怖がる幸崎は暴れまわった。
「うわぁぁぁ! 幸崎、こっちくんな!」
すると、生徒たちはとある男の名を呼んだ。
「おい 高中!」
「高橋! なんとかしろ!」
すると、勢いよく立ち上がったのは高田だった。
「お前ら…、“高”つけりゃなんでもいいと思ってるだろ!!! このぉ!」
そうして、暴れる幸崎の背中にいる侵入生を教科書で思い切りぶったたいた。
あんなものを喰らえば侵入生はもう…、ひとたまりもないだろう。 そして、それは人も例外じゃなさそうだ。 だって…。
「あ」
幸崎クン…、完全に気絶してる。
後日
幸崎のジャージ姿を見て思い出す。 あの日のことを、侵入生のことを。
なぜかって?
だって、未だに幸崎のジャージに侵入生はへばりついてしまっているから…。 そして、高田の教科書にも侵入生の面影は遺っている。
混乱しないために、キムは主人公 木村のことです。
読んでくださってありがとうございました。
よければ、感想お願いします。