第三話 元ヤン校長より恐ろしい存在
えっと、その、時折 視点が変わるのですがその場合、間に一行開けるなどして分かりやすくはしているつもりです。
あぁ、今日から…、正確に言うと入学式の次の日から授業開始とか嫌だなぁ。
まぁ、授業が始まったまでは、まだ許容範囲内だ。
だが、その一発目の授業が化学って、そりゃないだろ。
「おーい! キム おはよーさん」
と、あのうるさい奴が隣から話しかけてきやがった。
あ、そう言えば俺の席は窓側の一番後ろになった。
ここなら平和に過ごせそうだったのに、隣の席に奴が、智寿が来てしまった。
早速、話しかけてきたしな。
無視すると悪印象だ。 今後のスクールライフに問題が生じてしまう。
仕方ない、返事をするか。
「おはよう。 ってか、キムって俺のことなの?」
「あたぼーよ。 お前以外に誰がいるんだよ」
どうやら、キム=木村のことらしい。
「確かに、俺しかいないか…」
「まぁ、そんな事より、キムよぉ」
「ん?」
「一時間目から化学とかありえないよね」
「まぁな。 でも、今そんなこといったってなにも始まらない。 不毛だよ」
「んだよ 冷たいなぁ キムっち」
と、チャイムが鳴って先生が教室へ入ってきた。
「あ、なぁ智寿 あの女の先生が 化学担当かな?」
「なに! 女だとぉ!!」
その女の先生は、とても優しそうな目をしていて、少し背が小さい人だった。
…か、顔は…シワだらけである。
「う… お、オバハン… 期待して損した」
「えっと、号令係は誰かな?」
「おい、智寿。 精神的ダメージを受けている場合じゃないぞ。 お前、号令係だろ? 早く号令かけねぇと」
「あ? あぁ、そうか分かった。 起立・気をつけ・礼・着席 はぁ」
それにしても、化学の先生が老女とは珍しい。
まぁ、何はともあれ授業だ。
「ぇえっと、まず、みんなちゃんと教科書・ノートに名前を書いてありますか? 書いてない人は直ぐに書いてくださいね」
『はーい』
あ、いっけね 書いてないなぁ。 そうだ、キムっちに借りよう。
智寿の方になんとなく目をやるとなんだかとても慌てている様子だった。
智寿のやつ なに慌ててんだ?
「なぁ、キムっち ペン貸してくんない?」
あぁ、なんだ名前の書き忘れか。
「なんだ、お前、書き忘れたのか。 ほら」
「あんがと」
「書きましたか? 直ぐに書いて下さいね。 でないと、盗まれますよ」
さらっと何を言っているんだ! そんなに治安が悪いのか? この学校は。
「えー、せんせー そんな事する輩がいるんですか?」
「えぇ、もう、これまでに何件か起こってるんです。 この事を校長に相談したのだけれどなんの対策もしてくれなくて。 それどころか“私の若い頃にそっくりじゃないか。 ハッハッハ 将来が楽しみだ”なんて言って。 はぁ、ペットは飼い主に似るってこういうことなのかしら」
おい、それは俺達が元ヤン校長のペットって意味なのか?!
クラス全員が屈辱の限りを尽くした言葉を吐いた先生を冷たい目で睨んだ。
「っ…!」
うっ、流石に今の言葉に気付いたか。 だが、確かに教師としてはまずかったか、だが、所詮は生徒。 何も出来まい。
…! あの表情。 俺達に吐いた言葉を詫びるわけでもなく、むしろ開き直ってしまっている顔だ! なんて人だ。
教師の風上にも置けない。
「えー、名前を書き終えましたか? 書き終えたのなら授業に入ります」
「あー、せんせー待って、まだ書いてるから」
「智寿、お前、まだ書いてるのか? 早くしろよ」
「わりぃ はい ペンありがとさん」
智寿は借りたペンをそっと返し先生に目で合図した。
「えー、じゃあ書き終えたと思うので、私の名前を言いますね。 私の名前は、嘉永 紀久子といいます。 これからよろしくお願いしますね」
『………』
この生徒共、無視したな。 まぁいい。 まだ、尻の青い若造だ。 若気の至りとして赦してやろう。 フッフッフ。
悪い。 この先生、めちゃくちゃ悪い表情をしていらっしゃるー!
まずい。 この人、このクラスの化学担当でよく顔合わすから、あまり顔をあわせないあの元ヤン校長より恐ろしい存在かもしれない!
智寿、何故 お前はこの状況で普通にしていられるんだ!?
「ふぁ~ 寝みぃ~」
眠いんかい! よくこの状況で睡魔がやってきたな。 ある種 羨ましい限りだよ。
「さぁ! 授業を始めるわよ」