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ニイトとマーシャ、オリヴィアとアンナの二手に分かれた一行は世間話を装って聞き込みを続けた。
しばらくして集めた情報を持ち寄って分析すると、とんでもない事実が浮かび上がる。
「ってことは、このメイガルドと呼ばれる魔法都市は、水の底に建設された海底都市なのかっ!?」
「まさか、そのようなことが……」
ニイトとマーシャが驚く。
「うむ、我が聞いたところによると間違いない。しかも数千年も昔から陸上との行き来が不可能になり、以来ずっと水の底に閉じ込められているらしい」
「ホンマ、ビックリやな。うちも最初に聞いたときはどえらいショックを受けたで。せやけど考えてみると確かにわからんでもないな」
空に水面のような波紋が浮かんでいることも、光が弱いのも、植物が見当たらず海草や貝が多いのも、ここが水中であるからと考えれば辻褄が合う。
「何でまたそんな……」
「大昔の魔道大戦の影響で、地上は人が住めない環境になったようだ。人類が生き残る為に逃れたのがこの水中都市だったわけだ」
「魔法技術が不相応に高い町だと思ったけど、かつてはもっと繁栄していた文明の生き残りだと思えば納得できるな。ってことは、地上は今でも人が生きていけない環境なのか?」
「いや、数千年の長き時間によって魔道汚染は自然浄化されたらしいから、今はもう外に出ても大丈夫らしい。というかこの世界の人類にとって外の世界に脱出することが共通の目的になっているようだ。」
「それなら、どうしてすぐに出ないんだ?」
「水中の魔物が都市の周囲を覆っていて、不用意に出れば食われるのだそうだ。今までに幾度となく討伐隊が組まれたが、ことごとく敗北したらしい。それ以来、脱出計画は頓挫しているようだ」
ニイトは自分が仕入れた情報と整合性を取りながら整理した。
「じゃあ、今度は俺とマーシャが調べたことだけど、この都市はかなりの広さがあるみたいで、むしろ国と言ったほうが適切かもしれない。中央に王都があって、東西南北に四大貴族が治める領がある。ここはそのうちの南側。で、中央の王都に魔法学院があるみたいだ。それと迷宮も」
「迷宮か。我らもその単語を良く聞いた。詳しいことはわからなかったが」
「俺たちも確かなことはわからない。迷宮の奥は楽園に続いているとか、永遠に尽きない資源が眠っているとか、何でも願いが叶うとかいう噂がまことしやかに囁かれていた。だがまったくの事実無根というわけでもなく、実際、迷宮から持ち帰った資源を利用することで、この町の魔法技術は発展してきたみたいだ」
迷宮と魔法、何とも冒険心をくすぐられる組み合わせだ。そして魔法学院とくれば心が躍るのは避けられない。
「そういえば、別の大地に繋がっているという話もあったな。オリヴィアの話しを聞いて思ったんだけど、おそらく水中の魔物のせいで出られなくなったから、人類の大戦略を迷宮の踏破に変更したんだと思う」
「ありうるな。あるいは絶望的な現実から大衆の目をそらせるための世論工作かもしれない」
「おそらくそっちがメインかもな。ただ、それでも何が眠っているかわからない迷宮に、人々が希望を持っていることは事実だ。そして魔法技術の発展に最も寄与してきたことも。一度実際に見てみる必要があると思う」
顔を見合わせるが、反論は出ない。
「お供します」
「うちも賛成や」
「そうだな。我らの目的である魔法習得のためにも、魔法学院がある中央へ行くのが筋だろう。道はわかるか?」
「ああ、マーシャが調べてくれた。路銀も稼いである。すぐに旅立てるぞ」
「さすがうちの旦那さまや。そのへん抜かりはないなぁ」
次なる目的地は決まった。王都の魔法学院だ。
◇
王都に近づいた一行は、遠目から見た街並みに驚いた。
背の高い建築物が幾つも並び、山のような偉容をたたえていた。幾つも点在する尖塔の頂上には宝石のようなクリスタルが鎮座し、淡い魔力光を放ている。
そして都の一部からは天にまで届く滝のような水の柱が立っている。驚いたことに、水の流れを目で追うと、重力に逆らって上へ登っていた。その長大な水流に合わせて水車のようなものが幾つも回り、さらにそこから連結された巨大な歯車を回転させる。
アナログ時計の機械部のような複雑な機工が町全体を取り囲み、大きな歯車はその動力を賄っているようだ。
少女たちはその光景を見ながら口々に言う。
「見たこともない街並みです。とてもこの世のものとは思えません」
「これほど精緻な構造物があるとは。驚くべきテクノロジーを持った文明なのだろう」
「世界って、広いんやな。うちの知ってることが、いかにちっぽけなものかを思い知らされるわ」
三者が揃って感嘆の声を漏らす。
門を潜ると、精巧なつくりの街並みが並んでいた。
岩壁をくり抜いてから石のような建材で補強した家々。柱には幾何学的な模様が彫りこまれており、石のアーチが高い建物の上部を繋いでいる。
大通りには街路樹の代わりに巨大な海草が透明な水槽に包まれて並び、同じく魔法の街灯が等間隔で配置されている。地方の田舎とは違い、道も石畳だ。
タイルのような地面は歩くと僅かに反発感を覚える。まるで踏むたびに大きなボタンを押しているような感覚だ。
ニイトが不思議がって床の石タイルを調べていると、道端を歩く白いローブを被った女性が話しかける。
「あら、あなたたちは地方から出てきたのかしら?」
「え、ええ、そんなところです」
「王都はずいぶんと様変わりしているでしょう。私も始めて訪れたときは田舎とのギャップに驚いたわ。その地面はね、踏むと魔力を発生させる仕組みになっているの。タイルの下に並べられた魔術回路を通って、生活のための動力源に利用されているわ」
「そんな高度な仕組みがっ!?」
驚くべき技術力。ニイトは是非ともこの技術を学んでキューブにも取り入れたいと思った。
「すごい技術だな。どういう仕組みなのか、検討もつかない」
一行はペシペシとしばらくおもちゃで遊ぶ子供のように地面の床を叩いていた。
腹が減ったので、一行は料理屋へ入った。
これだけ高度な魔法技術がある王都だ。田舎の不味い飯とは違うちゃんとした料理があるはずだと期待感が募る。
しかし、出された料理はやはり得体の知れないペーストだった。
一縷の望みをかけて口に運ぶが、
「「「おえっ!」」」
やはりゲロマズだった。
こんなに技術があるのに、どうして飯だけはこの有様なのだろうと、全員が残念な気持ちになった。




