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異世界創世記  作者: ねこたつ
4章 幕間
90/164

4-19

 ニイトはキューブ内の地図を見て唸っていた。


「うーむ、広いな」

『そうかしら』

「広すぎるよな」

『むしろ全然よっ。こんなの猫の額くらいの面積だわ』

「いやだって見てみろよノア。こんなに土地が余ってるんだぜ。どうするよ?」


==========


小麦 小麦 畑  畑  畑  畑 豆 豆 油菜 油菜 

小麦 小麦 畑  畑  畑  畑 豆 豆 油菜 油菜

小麦 小麦 畑  畑  畑  畑 豆 豆 油菜 油菜

小麦 小麦 畑  畑  畑  畑 豆 豆 油菜 油菜

小麦 小麦 畑  畑  畑  畑 豆 豆 油菜 油菜

畑 教室  窯  粘土 個室 花 □ □ □  □

畑 トイレ 風呂 虫材 個室 花 □ □ □  □

畑 倉庫  料理 編物 個室 花 □ □ □  □

畑 キノコ 広間 木工 個室 花 □ □ □  □

■ 庭   寝室 石工 個室 花 □ □ □  □


==========


 半分は畑にして花壇エリアも作ったが、まだ余っている。

 そして畑は50エリア全てを連結させている。総額500万ポイントをつぎ込んだが、そのおかげで収穫量は6倍に増えて、なおかつ生育にかかる時間は6分の1に短縮されるという甚だしいチート具合になっている。


 麦は通常のものに加えて、植物世界の白麦と黒麦も合わせて栽培することにした。

 畑にはアンナに店に卸すものを中心に、多種多様なものを栽培している。

 土地を肥えさせる効果もあり良質な大豆も収穫できる四葉大豆のおかげで、いつの間にかノーフォーク農業が勝手に成立していたのには笑うしかない。

 最後にアブラナ、ゴマ、ヒマワリなどの植物油を栽培する区画を設けた。


 もはやうちの農業に死角はない。ほとんど自給自足を達成したと言ってもいいんじゃないだろうか。

 しかし、これらは全体の土地面積のたった100分の1に過ぎない話なのだ。

 上記の面積を■にして図にすると全体像はこんな感じ。


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■……ドニャーフ村

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「……広いよ。広すぎるよ。初期の地区だけでもまだ余ってるのに、これと同じ面積の土地が全部で100エリア、地下も合わせればその倍もあるんだぜ。何に使うよ?」

『好きに使ったらいいじゃない。土地が狭くて困ることはあっても、広くて困ることはないでしょ?』

「そりゃ、そうかもしれんが……」


 日本では道路の隙間に無理やり作ったような狭小物件に細々と住んでいる人たちだって大勢いるというのに、ネズミの国の遊園地が二つも入るほどの土地を貰ってどうすればいいのか。元日本人としての感覚が、逆に広すぎる土地に困惑してしまっている。


『あんたは考え方が小さすぎるわ。もっとでっかく構えてなきゃダメよ。二十人以上の長なんだから、大きな器になりなさいよねっ』

「プレッシャーだな。ま、できるかぎり頑張るよ」


 とりあえず余った土地は猫娘たちに一人エリア(1ヘクタール)ずつあげるとして、残り79ヘクタールもある土地をどうするか。

 既に一部で栽培が始まっている果樹園やハーブ園は規模を大きく拡大するとして、他にも有用な植物をじゃんじゃん増やすか。

 竹は炭や素材として有用なので1ヘクタール使い竹林にしよう。

 服の素材として有用な麻や青苧などの植物もまとめて一区画に植えて、さらに綿花畑もつくる。

 紙の素材になるパルプやパピルスなんかを育ててもいい。

 炭焼き場と燃料に使うアカマツ系の森をセットに。他には森や池でもつくろうか。もうこの際だから、湖とか雪山とか砂漠とか、世界中のあらゆる地形を模倣して観光地のように造り込むのも良さそうだ。

 そう考えると土地って幾らあっても困らないな。ふひひ。


     ◇


 キューブ内農業の一幕。


 一般的にトマトの栽培カレンダーは以下のとおりである。

 3月に種をまき、苗作りを始める。4月に土作りをし、5月上旬までには植え付けを済ませる。5月は風除けを作ったり支柱を立てたりし、6月からは追肥やわき芽摘み、摘果などを行う。

 そして6月の中旬から7月、8月、9月あたりまでが収穫の時期となる。

 およそ半年を少し越えるくらいが年間スケジュールだ。

 ところが、キューブにおいては違う。


「はい。今日からまた新しくミニトマトを作りまーす」

「「「にゃー!」」」


 まずは種まき。小さな鉢に種を撒いて苗を作る。ここまでは通常の栽培と同じ。

 しかし種を撒いた種は5~10日もすれば立派な苗になる。通常なら1~2ヶ月はかかるところだが、エリア連結したキューブの畑では成長速度は6倍なので、恐るべき速度で生育するのだ。


「すぐに畝を作るぞ。一人10メートルな」

「一番しんどい作業だにゃ。確か他の作物より高い畝にするんだったかにゃ?」

「そうそう。トマトは水が少ないほうが甘くなるからな。それと肥料を混ぜるのを忘れるなよ」


 この5日~10日間は同時に畑を耕す期間でもある。そうしないと植え付けに間に合わないからだ。

 畑には50メートルの畝が2メートル間隔で並び、全部で50畝ある。耕運機がないので大変だが、丈夫な農具もあり20人も戦力がいるので一人当たりの作業量は意外と多くない。一日に30分~1時間程度耕せば十分にノルマを達成できるので、この時期の猫娘たちは朝のラジオ体操のような感覚で土を耕すのが日課になっている。

 苗に一番花が咲いた頃のタイミングで植え付けを行う。だいたい11日目前後くらいになることが多い。


「一番花はちゃんと“こちょこちょ”したか?」

「あっ、いけない。忘れていたわ」


 こちょこちょ、というのは人工授粉のことだ。一段目の花が咲いたら指ではじいたり筆で擦ったりして花粉を飛ばす。虫がいないキューブの畑では人工授粉が必要になることがある。

 特にトマトの一番花は重要だ。


「どうして“こちょこちょ”しなきゃいけないの?」

「トマトは一番花がちゃんとに着果しないと、実付きが悪くなるんだよ」

「そういえば前に実をあまり付けなくて葉や茎ばかりが成長した苗があったわね。ああなっちゃうってこと?」

「そうそう。一番花が着果しないと、トマトはこの土地では安心して実をつけられないと思って、葉や茎の成長を優先するようになっちゃうんだ。だからトマトに安心してもらうために、こちょこちょは大事なんだよ」


 ちなみにトマトは雄しべと雌しべの両方を備えた『両性花』なので、一株だけで受粉できる。


「ニイト殿の言う通りじゃ。そこで、わらわたちドニャーフ族も安心できるように“こちょこちょ”をするべきかと……その、子沢山的な意味で……チラッ」


 しっぽをふりふりするロリカ族長を華麗にスルーしながらニイトは作業を続けた。


「トマトは寝かせて植えるといいのよね?」

「そうそう。そのほうが多く根を出せるんだ」


 トマトは茎から根が出やすい植物なので、茎の部分を多く土に埋めると吸水力や吸肥力が上がって収穫量が増える。

 もともと原産地では横向きに茎を伸ばして成長していたので、トマト本来の性質に合うのだ。(ただし接木苗の場合は、この方法は厳禁)

 キューブ内では強風など吹かないので、風除けは作らない。

 細い竹などで支柱だけを立てる。ミニトマトは主枝を二本にして収穫量を倍に増やすので、支柱が二本必要になる。

 植え付けを行ってから一週間ほど経つと、早くも収穫が始まる。


「んんっ! 甘~い! 苦労したかいがあったわね」

「初物は特別に美味しいにゃ!」

「こらこら、あまり食べ過ぎるなよ。今晩は恒例のトマトパーティーを開くから、そのときまで楽しみは取っておけ」

「「「にゃぉ~~~ん!」」」


 エリア連結ボーナスによって品質はかなり向上していて美味しい。そして収穫量は脅威の6倍だ。ミニトマトなんて房が地面に届きそうなくらい長く成長して、ちぎれそうになるほどだ。


 これから10日間~20日間は毎日二回、朝と夕方に収穫を行う。朝に収穫しても夕方になる頃には苗にとって既に三日近い時間が過ぎている計算になるので、一日一回の収穫じゃとても追いつけない。最盛期には一日に三回も収穫する必要がでてくる。


 収穫した農作物は食べる分を残して、あーくんに時間が停止した倉庫へ【転送】してもらう。保存に冷蔵庫など必要ない。そしてそこから毎日決まった分量をノアがアンナの店へ【転送】するのだ。


 こんな感じで、およそ30日から40日ほどで一サイクルが終わってしまう。もちろんトマトだけではなく、全ての農作物が二ヶ月以内に収穫を終える。

 こうしてハイペースなキューブ式チート農法に支えられて、貧困知らずのドニャーフ村には、今日も食料が溢れています。

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