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異世界創世記  作者: ねこたつ
1章 猫耳少女を救え
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1-8


「救世主? 俺が?」

「はい。今日、この場所で出会うことが大昔から予言されておりました」

 ニイトは困惑した。いきなり予言などと言われてもはいそうですかとはならない。自分がここにいるのだってキューブから偶然やって来たに過ぎない。そもそもこの世界の住人でない自分のことが予言されていること自体がおかしいのだ。

「何かの間違いでは? 俺はそんな大層な人物ではないよ」

「いえ、そんなはずはありません。この大地に刻まれた紋章は、間違いなく予言にあった印です。この紋章が現れてからすぐに救世主様が降臨されるのです」

 猫耳少女が指差した先にはニイトがあーくんで土や石を売却したさいにできた跡があった。確かに目線と脳内イメージだけで動かしていたから、あーくんの走る軌道は規則的だった。離れて見渡すとどことなく幾何学模様に見えなくもない。

(マジかよ……。何という偶然)

 さらに猫耳少女は続けて、

「それに、この瘴気に汚染された世界でその年齢まで生きていられるはずがありません。そのお姿で存在しておられることが何よりの証拠」

 猫耳をピキーンと元気よく立てて力説した。髪の毛と同じ、大海原のような蒼い猫耳だ。

「あ、申し遅れました。わたしはマーシャと言います。ここは危険ですから、どうぞわたしたちの隠れ家へおいでください。それと、お名前をお聞かせ頂けませんか?」

「ニイトだ」

「ニイトさまっ!? やはり、伝説の救世主さまのお名前と発音が非常に似ています!」

「え? そうなの……?」

 そういえばノアが、ニートという名はどこかの異世界では勇者みたいな意味合いを持つといっていたな。まさかこの世界がそうだったとは。

 俄然キラキラした視線で見上げてくるマーシャに、落ち着かなさを覚えたが、ここに留まるとまたあの魔物に襲われるかもしれない。それは困るので、ニイトはマーシャの申し出を受けて隠れ家に向かうことにした。

 その前に、倒した化け物を【売却】できないかと、あーくんに食べさせてみる。するとあーくんは体を大きく引き伸ばして化け物を丸呑みにした。

 ――闇の使徒(最下級) 1体 売却額……11万6025ポイント。

「高っ!?」

 思わぬ高額買取にニイトは興奮した。

 それとは逆に、猫耳少女マーシャは驚く。

「――ッ!? 闇の使徒が消えた!? まさか生きていた!? 救世主様! お隠れくださいっ!」

「ああ、大丈夫だよ。俺が消したから。それと俺のことはニイトでいいよ」

「そ、そのようなことが!? さすが救世主様、いえ、ニイトさまです! いったいどのようなお力を使ったのでしょう?」

「別に力なんて大層なものじゃないよ。ただ箱に放り込んだだけだし」

「箱とは?」

「これ、見えない?」

 ニイトはあーくんを動かして見せたが、

「残念ながら、わたしには見えないようです」

 どうやらあーくんの存在はマーシャには見えていないようだ。

 一応、闇の使徒とやらも検索しておく。

 ――闇の使徒。暗黒粒子を長期に渡って摂取し続けて死亡した生物が、魔王の手先となって蘇った姿。通常の攻撃は意味を成さず、聖剣などの対魔王用の武器でしか倒せない。

(通常攻撃が効かないだって!? 危なかった。下手に戦いを挑んでいたらやられていたわけか。そして闇の使徒を倒したこの短剣は聖剣だったのか。どうりで豪華な装飾が付いているわけだ)

 ニイトは冷や汗をかきながら、マーシャの隠れ家へ向かった。


     ◇


 隠れ家は岩場をくりぬいた先にひっそりとあった。そこにはマーシャと同じく猫耳としっぽを生やした美少女達が20人近く身を潜めていた。平均すると小学生くらいの体格だろうか。中には園児っぽい子もいれば、やや大人びた中学生くらいに見える子もいるが、総じて背が低く幼い容姿だった。中高生くらいに見えるマーシャがこの中では年長だと思われる。

 いや、ひょっとしたら背が伸びにくい種族なのかもしれない。そうすると見た目通りの年齢だとは限らない。

 着ているものもみすぼらしく、毛クズをのりで固めたような、妙なローブのようなものを纏っている。

「お待ちしておりましたのじゃ、救世主様。我らは人類最後の生き残りであるドニャーフ族。そしてわらわがその族長であり、名をロリカと申しますのじゃ」

 族長と名乗る人物が出迎えてくれたが、どういうわけか彼女もまたとても若かった。ぶっちゃけ十代半ばくらいに見えるマーシャよりもさらに幼く見える。合法ロリ? のじゃロリというやつか。

「俺はニイトだ。畏まらないで普通に喋ってくれるとありがたい」

「救世主様にそのような……」

「堅苦しいのはなれないんだ」

「では、善処しますのじゃ」

 それはそうと不穏な言葉があった。

「てか、人類最後の生き残り?」

「う、うむ。我ら以外の種族は全て、魔王の瘴気により汚染されて絶滅してしまったのじゃ」

「なんと……」

 さらっと信じがたいことを言いのけやがった。人類が滅んだだと?

「キミたちはどうして助かったんだ?」

「我らにはフェアリー族の血が混じっておっての、それゆえ魔王の瘴気が体に回りきる前に新卵転生を行うことで、汚染死を回避できたのじゃ」

 フェアリー族は寿命が短命であるかわりに、記憶の大部分を保持して転生する能力を持っているらしい。新しい卵に魂を移して生まれなおすことから新卵転生と呼ばれる。とてもファンタジーですこと。

「不思議な生態ですね。では、どうして俺が来るとわかったんだ?」

「予言によって言い伝えれてきたのじゃ。そしてわらわが未来予知で見た光景とも一致する。二つが重なる物事は必ず起こるしくみなのじゃよ」

 ニイトは予言などと聞いて胡散臭く感じていたが、こう何度も当たり前のように話題に上ると、そういうこともあるかもしれないと思い始めた。何せ魔王とかいるっぽい世界だ。魔法や予言があったとしても不思議ではない。

「なるほど。それで俺は何をしたらいいんだ?」

「そこまではわらわにもわからぬ。わらわが導かれた未来は、結界が寿命を向かえる直前に、この地方に救世主が現れるということのみ」

「結界とは?」

「この集落を闇の使徒から隠している、いにしえからの魔道具じゃ。ついでに案内するのじゃ」

 ロリカに案内されたのは崖に挟まれたような広場だった。一応空まで抜けているとはいえ、生憎の曇天ゆえに景色は悪い。

 崖幅は広くなった広場の真ん中に、その結界装置とやらが鎮座していた。

「大きい」

 高さは4~5メートルはあるだろうか。ノアの石版といい勝負だと思われる。

 そして全体の印象は高度な機械仕掛け。金属の支柱やメタリックな歯車などが光沢を発していて、アナログ時計のように複雑な機構が組み合わされて動き続けている。

 中央部には発光している石や液体を入れられたビーカーのようなガラス盤があり、そこから伸びたチューブに変色した液体が流れている。

「この結界はもうすぐ寿命を迎えて停止する。見るのじゃ、上空へ注がれる光の柱が、もうあれほどに細く弱っておる」

 たしかに結界装置の頂上からは天に向かって白い光線が飛び出しているが、電池の切れかかった懐中電灯のように光が途切れ途切れで不安定だった。

「直せないのか?」

「既に失われてしまった古代の魔法技術が用いられておるゆえ、我らには直すことはおろか、機構を理解することすらできぬ」

「では、この結界が機能停止したときには……」

「我らは魔王の使徒によって根絶やしにされるじゃろう」

 急に重くなった話にニイトは頭を抑えた。

 何とかして助けてあげたいが、自分に魔道具の知識などない。しかし本当に予言の救世主とやらが自分ならば、何らかの手段が残っているはずだ。

「みんなで戦うことはできないのか? 俺もここに来るときに一匹倒している」

 最下級の使徒であることは伏せて、ニイトは保持したままだった豪奢な短剣を掲げるが、

「残念じゃが、聖剣はそれが最後の一振り。しかも闇の使徒は大群じゃ。多勢に無勢では勝ち目がなかろう」

 どうやら正攻法で生き残ることは難しそうだ。

「どうか、我らをお救いくだされ」

 族長のロリカが地に膝をつけて頭を下げると、猫耳美少女たちが一斉にそれに習う。

「どうかお願いしますニイトさま。わたし、何でもしますからっ!」

 覚悟を決めた瞳でマーシャは宣言した。

 ニイトは心にぐっと来てしまった。超絶可愛い猫耳美少女の「何でもします」発言だ。この魔法の言葉に打ち抜かれない男などいるはずもない。

「……くっ、わかった。俺に出来る限りのことはやってみる」

「おおっ! ありがたや! ありがたや!」

 言ってしまったからにはもう後には引けない。

「少し、対策を考えるから時間をくれ」

 そういい残してニイトは【帰還】と念じる。

「き、消えた!?」

 残された猫耳たちはキョロキョロ辺りを見回すが、ニイトの気配は既にない。


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