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異世界創世記  作者: ねこたつ
4章 植獣世界と巨乳エルフ
86/164

4-15

「「「オォオオォオオオオ!!」」」


 長老の掛け声に合わせて討伐隊が一斉に駆け出し、キメラを四方から取り囲んで攻撃をはじめた。

 緊張、不安、恐怖、信念、使命感、覚悟。

 あらゆる感情を吐き出すように雄叫びを上げて脳内をアドレナリンで満たす。


 勝利条件はキメラの根を全て切り倒すこと。根から切り離されれば幹より上は自動的に枯れて死ぬ。よって、幹や枝葉には目もくれずに、一目散に根を狙う。


 ニイトも大地を駆けて、挨拶代わりに『擦火鋸刃』で一太刀いれる。

 ブィイイイン! とチェーンソーのような摩擦音と振動が生まれて、太いキメラの根に縦線が深く刻まれた。

 傷跡から僅かに焼き焦げた臭いが広がる。三日月形に湾曲した刀身は、敵と接触する時間が長くなるように設計されていた。


「はぁぁあああ!」


 左右から幾度も撫で斬りにし、一番外側の根に深い切れ込みを入れて蹴り倒す。

 完全に切断された根からは、血液のように樹液が染み出てきた。


「まずは一本!」


 一番槍を取ったニイトは鋸刃を掲げた。「「「おぉおおおお!」」」と面々が雄叫びを返す。

 すると、キメラ・プラントが眠りから覚めたように活発化する。

 根の傍の地面から、突如として天に突き立つように生えてきた無数の触手。

 3メートルはある長い身の丈をヘビのようにくねらせて、それでいてムチのようにしならせて大地を打つ。

 バシン! バシン! と地表を打ち叩く乾いた音が、全方位から聞こえた。砂塵が舞い上がり、振動が地面を伝う。

 触手は休むことなく、ひたすらに周囲の冒険者を攻撃し続ける。

 決して闇雲に振るっているのではない。明確に人間を狙って攻撃しているところを見ると、敵を探知する能力があるのは明白。


 その一本がニイトを狙う。

 触手の先端が空中で旋回し、遠心力を乗せた一撃が上空から振り下ろされる。

 ニイトは前方に飛び込んで回避しながら地面を転がり、その勢いを利用して触手の根元まで接近。

 無防備な根元を横一文字に斬り抜ける。

 ブシューーーーッ! と、血しぶきのような体液が傷口から噴出し、弾力を失った触手がしおれて大地へ横たわる。


 なおも油断なく、ニイトは触手を根元から切断し、次の触手へ向かう。

 瞬間、足元から新たな触手が槍のように突き出てくる。

 緊急回避。

 横に跳んで逃げるニイトに、別の触手が迫る。


(くっ! 避けられない!)


 とっさの判断で、刃を盾にして凌ぐ。

 しかし予想外に重い衝撃。威力を殺しきれずたたらを踏む。


「くっそ! ひょろ長いからだをしているくせに、異常に重い!」


 体勢を整える間もなく、背後の触手に襲われて後ろに飛ぶ。するとまた別の触手の攻撃範囲に入ってしまう。


(間合いが悪すぎる!)


 二本の触手に挟撃を受けて防戦一方のニイト。

 その状態でさらに三本目の触手が生えてきて、ニイトを囲む。


「ちっ! 隙がない!」

「ニイトさま!」


 援軍に駆けつけたマーシャが一本の触手を聖短剣で受け流す。


「後ろを頼む!」


 背後をマーシャに任せて、ニイトは二本の触手を相手取る。

 今までの攻防で敵の攻撃には一定の法則があることがわかった。

 触手は攻撃の威力と手数を最大にするために必ず8の字に近い円軌道を描く。敵が懐に潜り込もうとすると身を縦に伸ばして、侵入を拒むように軌道を小さくして横薙ぎの動きに変わる。

 そのタイミングを見極めれば間合いに入り込むのは難しくない。

 横薙ぎの攻撃は辛抱強く避け続け、縦に振り下ろされる攻撃にタイミングを絞る。


(きた!)


 刃を頭上に構えながら突進。触手を受け流しつつ、斜め前に走り抜ける。

 一気に間合いを詰めて刃を一閃。

 すっぱりと両断された触手が地に落ちる前に、マーシャのサポートへ向かう。


(マズイ!)


 いつの間にかもう一匹生えた触手に、マーシャの逃げ道が潰された。


 ――《肉体強化》!


 視界の変化が急激に速くなり、マーシャの逃げ道を塞いだ触手の背後から斬りかかる。

 マーシャの背面を狙った触手が届くよりも、ニイトの刃が根元を斬り裂くほうが早かった。

 間一髪、触手の軌道はマーシャからそれた。


「マーシャ、俺の後ろへ!」

「はい!」


 マーシャと前後を入れ替わり、そのまま前方の触手へ突っ込む。

 攻撃の準備動作を終えた触手がスナップをきかせて伸縮した瞬間、マーシャの《魔法の矢》が当たる。


 事前情報どおり、魔法が当たった瞬間に光の膜のようなものが現れて触手を守った。

 魔法耐性、あるいは魔法の盾だろうか。通常の魔法攻撃が効かない。

 だが、それで十分だった。


 魔法自体のダメージは防げても、衝撃までは殺せない。

 軌道がずれた攻撃はニイトの横へ大きくそれる。

 それは致命的な隙。

 易々と間合いを制したニイトが触手を刈り取った。


「ナイス、アシスト!」


 魔法は効かないから意味がない。そこで思考を止めていたニイトは己の無知を反省する。たとえ対策されていようとも、使い方次第で武器になるのだ。

 ならばとニイトは自身もまた《魔法の矢》を射る。敵の攻撃を邪魔して間合いを詰める算段だったが、それ以上のことが起こった。


 触手に当たって魔法壁が攻撃を防いだ瞬間、間髪いれずにもう一発の光矢が同じ場所に刺さった。

 瞬間的に脆くなった魔法の防壁を貫き、触手は半ばに穴が開いてちぎれ落ちた。

 こんな芸当ができるのは一人しかいない。


「やるじゃないか、マーシャ」

「にゃんっ」


 得意げに鼻を鳴らすマーシャ。

 ニイトは自身の想像を超えた戦いぶりを見せたマーシャに触発されて奮起する。

 今度は自分が想像を超える番だ。


 ニイトは防御するしかないと決め付けていた横薙ぎの攻撃にカウンターを仕掛ける。

 刃を腰溜めに構えて、敵の動きとは真逆の方向に回転する。

 凄まじい火花が散って、触手は真っ二つに裂けた。

 二股に分かれた触手は、断面から火の粉を撒き散らしながら地に伏せると、すぐさま燃焼し始める。


「おぉ! すげぇ!」


 ニイト自身がその効果の大きさに一番驚いた。

 何せニイトがしたことは、敵の攻撃軌道に合わせて刃を押し当てただけなのだ。

 触手の攻撃は素早くて重い。ならば自らの攻撃力で自滅してくれないかと考えた作戦だったが、まさかここまで決まるとは思いもしなかった。

 攻撃は自らが攻めるだけではない。相手の攻撃を逆手にとって守ることも、立派なカウンターに成り得るのだった。


 焼けた触手の周囲から慌てて別の触手が伸びてくる。そして自らのからだを犠牲にして鎮火しはじめた。

 この行動、プラテインたちも同じことをしていた。極端に火を嫌う性質。それだけヤツらにとって火は脅威なのだろう。

 戦局を見渡すと、触手の数は徐々に減っている。

 いくつかは自ら地面の中に戻っている。撤退だろうか? いや、その答えはすぐに判明する。

 ニイトの周囲から、複数の触手が一斉に生えてくる。


「何か俺のところだけ多くね!?」


 囲まれてはまずい。強化された脚力で一気に突き抜ける。

 すると、一度飛び出た触手は地面に穴を残したまま引っ込み、再びニイトの周りから飛び出す。


「俺を追ってくるのか!?」


 ヘイトを稼ぎすぎたのか、触手の群れはニイトを最優先に排除する構えだ。

 やや離れた位置からピンチを悟ったオリヴィアが駆けつける。


「ニイト! お前は狙われている。そのまま引きつけてくれ。我が背後から狩る」

「了解! マーシャ、援護してくれ」


 さすがに全方位から無数の触手に攻められては、さすがのニイトも攻勢には出られない。回避に専念し、ダメージを受けないことを最優先に立ち回る。

 横薙ぎの触手をバックステップで逃れ、すぐさま後ろを振り向いて新たな触手を剣で受け流す。

 足を狙ってきた触手を跳んで避けると、地面から足が離れて動けないニイトを二匹の触手が襲ってくる。

 ニイトは落ち着いて対応する。空中で剣の持ち手を入れ替えて一匹の触手を防ぎつつ、二匹目の触手に魔法の矢を放つ。さらに弾かれた勢いを利用して、魔法を当てた触手の間合いに入り込み、その身を切断しながら斬り抜ける。

 触手の死骸を盾にして敵の攻撃範囲を狭め、前掛かりに攻めてきた触手にあえて突進。

 チャンスとばかりに力を溜める触手だったが、それはニイトの罠だった。無警戒になった触手の背後から、オリヴィアが槍で貫いた。


 見事な連携で敵の包囲の一画を崩す三人。

 しかしそれすら織り込み済みと言わんばかりに、触手たちも連携を見せる。

 仲間を一匹犠牲にして得た隙を突いて、オリヴィアの背後から生えた触手。

 突き刺した槍を引き戻す瞬間のオリヴィアを狙って、ムチのような身体をしならせる。


 しかし、攻撃が繰り出される前にマーシャが魔法を撃ってバランスを崩し、逆に生まれた隙を突いて、風のように大地を舞ったニイトが横から胴回し斬りで両断する。


「マーシャは俺の後ろに! オリヴィアは敵の背後に回りこめ!」


 すぐさま陣形を整え、密集する触手の群れの中を駆け巡る三人。

 連携の深さでは人類のほうに軍配が上がった。

 ニイトたちは互いの動きを目端に確認しながら立ち位置を調整し、一匹ずつ的確に狩り取っていく。


 植物の弱点はある意味機械的とすら言える行動パターンだ。それぞれの局面において、常に最善の選択を取り続ける。逆に言えば最善の行動以外してこない。

 その性質が逆にニイトらに行動を先読みされる原因となっていた。

 もしも植物が人のようにあえて最善の行動を取らずに、フェイントを織り交ぜて相手を迷わせるような高等戦術を使ってくれば、戦局はまた違ったことになったであろう。


「よし、ここはもう大丈夫だ。オリヴィアは本体の攻略に向かってくれ」

「わかった。ニイトは?」

「俺はここで触手たちをひきつけておく」


 オリヴィアはキメラ・プラントの根に向かっていく。

 残りの触手ならニイトとマーシャの二人でどうにかできるだろう。

 もちろん、油断はできない。

 植物は人と違い痛みや恐怖で動きが鈍ることはない。そして無尽蔵と言えるスタミナと物量。集中力が切れた瞬間に、網にかかるように絡め取られるだろう。


 敵は始めから持久戦の構えだった。

 よってこれは自身の精神力との戦いでもある。

 普通の人間には厳しいかもしれない。

 人は必ずミスをする生き物であるが、この戦いの勝利条件はミスをしないことなのだから。


 だが、ニイトには【帰還】という反則的な切り札がある。オリヴィアをこの場から移動させたのは、そのための布石でもあった。


(この勝負、勝った)


 このときのニイトはそう信じて疑わなかった。

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