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異世界創世記  作者: ねこたつ
4章 植獣世界と巨乳エルフ
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4-13

 数日後。

 虫製道具の評判が広まり、ニイトのもとに欲しいという依頼が殺到した。

 こればかりはこの世界にない素材を使った特注品なのでだれも真似できず、市場はニイトが完全に独占することになる。

 ここぞとばかりにここ数日間で猫娘たちに作り溜めしてもらったものを一気に放出した。


 結果、爆売れである。飛ぶように売れる。

 しかし予想以上に需要が伸びてしまったので慌てて虫世界へ赴いて買い付けを行い、その足で売りに戻ってくる有様だった。

 それでも全ての需要を満たすことはできなかったので、幾人かは入荷待ちしている次第だ。


「こんなに売れるとは思わなかった」


 完全にニイトの調査不足だった。

 農具一つをとっても木製のものが多く、壊れ易く腐り易く、それでいて作るのに手間がかかるしで何気に大変だったようだ。

 そこに軽い、丈夫、腐りにくい、と三拍子揃ったクワが現れれば農民が飛びつくのは必然だった。

 作業効率は何倍にも上がり、空いた時間で副業を始めることもできる。

 ニイトの想像以上に喉から手が出る代物だったようだ。



 さて、この世界では一気に大金持ちになってしまったニイトはお金の使い道に困った。

 このまま自分だけが富を独占するのは経済を冷却してしまうので良くない。

 金は天下の回りモノ。持っているだけではただのゴミに過ぎない。使ってこそ価値が生まれるのだ。


 そこで何でも買い取り屋というものを始めた。

 余った食料。使い道のない木材。何の変哲もない綺麗な花。薬草。毒草。ゴミに至るまで、とにかくいらないものは何でも買い取る。

 たとえゴミだろうとポイント化できるので、ニイトに損はない。


 これがまた住人に大変喜ばれた。

 作りすぎた食料や、壊れた道具、日常の生活で出るゴミや処理に困る危険物まで何でも金になる。

 特に捨てるしかなかったプラテインの死骸を高額で買い取りした際には、お前は神か!? と冒険者たちに口を揃えて言われた。


 んなわけあるか! と返すが、傍にはべるマーシャのご機嫌がすこぶるよろしいので反発しにくい。

 プラテインの死骸は今のところ熱を通せば全て食べられると判定されている。

 ひょっとして、これがむしろ主食になるべきでは? と考えて、プラテインの炭火焼き料理店を開こうかと本気で考えている。


 試しに幾つかの種類を焼いて食べてみたが、思いのほか美味しい。

 見た目が触手で二の足を踏んだものは、骨のないウナギのようなふわふわした肉質で美味だった。

 タコ足のような触手は、見た目通りタコのようなこりこりした食感で、ヒツジのようなタイプはマトン肉、ワニのようなタイプも肉の味がした。きっと食べたことがないけど、ワニ肉の味なのだろう。

 プラテインは肉食に変化したことで、自身も植物から動物に近い味に変化したようだ。

 そして多種多様な種類に応じて、それぞれ味も違う。非常に多様な味の食材を提供してくれる。下手をしたら精肉業としてやっていけそうな気さえする。


 どうしてこんな有益な資源が今まで捨てられていたのだろう。最初に毒にあたったヤツのせいで、今まで誰も試さなかったのが不幸の始まりだった。森で火を使えなかったことも発見が遅れた原因なのだろうな。




 数日もすれば、ニイトの両手には有益な植物がたくさん溢れた。


 まずは四葉大豆。

 集落の主食の一つである大豆なのだが、あーくんで調べると面白い効果が判明した。

 空気中の窒素を根に固定するので、同じ土地で次に育てる作物の実りが良くなる。さらにこの大豆自体に食べた人の幸運を一定時間上げる魔法効果もあるようだ。

 魔法的な効能のある食材は珍しい。さっそくキューブで量産することにした。


 同じ主食である白麦や黒麦の苗も貰った。キューブで【購入】した小麦とも味がちがうので、小麦のバリエーションはさらに広がるだろう。


 ほかにもアブラナの花は菜種油を採れるので極めて有用だ。それからゴマ、ヤシ、ヒマワリなど良質な香りの油が採取できる種がたくさん集まった。

 服の繊維になるカラムシという背の高い草に、紙の原料になりそうなパルプ系の植物の種も手に入った。


 まったくこの世界は資源の宝庫じゃないか!

 さっそくこれらの苗や種をキューブに持ち帰って、広くなった土地をふんだんに使用して栽培を開始した。


 そんな何もかもが順調なある日、ニイトはエルフの長老に呼ばれた。


     ◇


 オリヴィアは北区に戻れないとのことなので、ニイトはマーシャと二人で長老宅に向かった。


「久しいの、孫娘の恩人よ」

「まだ孫娘と呼んでおられるのですね」

「ぬぅ? ま、良いではないか。それで、あやつは元気にしておるかの?」

「生活は安定してきましたし、商売も軌道に乗って充実していますよ」

「そ、そうか。それは何よりじゃ」


 ほっとしたような顔をする長老。根はいい人のようだ。


「それで、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「おぬしの噂は聞いておる。頑強な農具や武器を作り出したり、あらゆるものを買い取って住民にお金を流しているとか。率直に聞くが、なぜそのようなことをするのじゃ? どれもこの集落に住民にとっては大変ありがたいことじゃが、おぬしにとってはさしたる利があるとも思えぬが」


 ニイトは少々返答に困った。


「利ならありますよ。生活や文化が向上すれば、それだけできることの可能性が広がります」

「それはおぬしが財産を手放すよりも尊いことなのか?」

「金銭はそれ自体に価値があるわけではなく、所詮は虚像に過ぎません。真に価値があることとは、安全で快適な生活を誰もが送れるようになることでしょう――」


 世界によっては金銭なんてゴキ○リの翅と同価値だ。そんなものにいったい何の魅力があるのか。


「――そしてそのために必要なのは技術や文化の発展です。生産性を増加させ、品質を向上し、付加価値を上昇させ、健康で豊かな精神文化を育みつつ、自然と調和した持続可能な社会を作ることが何より寛容かと。財産とはそれを実現するための手段に過ぎないのです」


 ニイトの返答に長老は目を鋭く細めて顔つきを変えた。


「……どうやらおぬしは信用できるヒュノムのようじゃ。試すようなことを聞いてすまなかった」

 襟を正して謝罪する長老の目には、決意の色が映った。


「ここからが本題じゃが、この強力な武器を大量に売って欲しい」


 長老の前には虫素材を使った刃や槍やノコギリなどが並べられている。ニイトが売った住民たちから集めたものだ。

 ニイトは少し考えたが、この世界では人間の国家同士の戦争があるわけでもなく、これらの武器を提供したところで悲惨な殺し合いにはならないだろうと踏んで決断した。


「いいですよ。少々時間をいただければ用意しましょう」

「おお、ありがたい。ではついでに製法も教えて欲しいのじゃが」


 やはり来たか、とニイトは用意しておいた返答を返す。


「似たような物を作るには、硬くて光る石を熱しながら叩いて伸ばせばできますよ」

「そうじゃろうな。簡単に教えるはずが――って、えぇぇぇえええええっ!?」

 ニイトがあっさり白状したので長老はたまげた。


「何でそんな大事な情報を簡単に教えちゃうの!? こういうことって門外不出の機密でしょ普通? それを交渉で少しずつ探っていくのが楽しいんじゃん! 最初に答えを教えないでよっ!」

 突然キャラを崩壊させながら逆ギレする長老。


「あの……長老さま?」

「もう! せっかくいろんなカードを用意しておいたのに。全部無駄になっちゃったじゃんか! 最後には「ならば孫娘を嫁に」という流れをちゃんと用意しておいたんだから、今のはなかったことにして、もう一度最初からやり直そうよ!」

「…………言わなきゃ良かったと、これほど後悔したことはありません」


 見たくもなかった長老の豹変ぶりを目の当たりにして、エルフの将来が心配になるニイトだった。

 長老のキャラ崩壊指数が正常値に戻るまで待ってから、ニイトは口を開いた。


「ところで、武器が大量に欲しいということは、近々大きな戦いがあるのですね?」

「おほんっ、う、うむ。おぬしになら話しても良かろう。じつは、集落から少し離れた場所に大型のキメラ・プラントが発見された。すぐにでも討伐せねば、いづれこの集落まで辿り着いてしまうじゃろう」

「なるほど」


 どうやら急いだほうが良さそうだ。アンナにも頼んで武器の量産を手伝ってもらおう。


「できれば、おぬしにも討伐対に加わってもらいたい」

「それは……」


 どうするべきか迷ってマーシャを見ると、


「参加しましょう。ニイトさまのお力があればきっとうまくいくでしょう」

「おぉ! 参加してくれるか! ありがたい」


 まだ返事はしていなかったが、マーシャの後押しで決まってしまった。

 まあいいか。実のところニイトはプラテインはたくさん見たが、まだキメラの方は見ていなかったのだ。一度見てみたい気もする。


「では、まずは武器の用意に取り掛かります」


 ニイトは長老宅を出て虫世界に向かう。武器職人たちを総動員して製作に協力してもらえば一週間以内に用意できるだろう。

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