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翌日、ニイトとマーシャとオリヴィアの三人は集落の東西を流れる河川の下流域へやって来た。
元々平らな地形だったこの地は、北の大山脈から流れる雪解け水によって徐々に浸食されてできた土地だ。そして集落の南側には大きな大地の亀裂があり、そこに四方から集まった水流が一斉になだれ込むことで大瀑布を形成していた。
その広くて大きな滝付近にやって来た一行は、依頼の掃除を行う。
集落ではゴミを川に流しているので、ときどき下流が詰まって川の流れが悪くなることがある。大事に至る前にゴミの引っ掛かりを取り除いて崖下に流すのが本日の仕事だ。
水に流されて崖から転落すれば命はないので、危険手当込みで高額な報酬となっている。
「なあ、オリヴィアはいまそこそこお金があるんだし、こういう危険な仕事を請けなくても良かったんじゃないか?」
「誰かがやらねばならぬ仕事だ。それにあいつらが新しい仕事になれるまで何かと物入りになるだろう。生活が安定するまでは資金面でサポートしたい」
自分こそ北区から追い出されたばかりだというのに、自身はそっちのけで仲間の生活を優先するのか。真の友達とはこういう関係のことを言うのかもしれない。
「そうか。なら俺に異論はない」
ニイトは納得して、マーシャも頷いた。
流れをせき止める主な原因は流木だ。川底の石などに引っかかって、そこに新たな堆積物が積み重なっていく。これを外してやれば流れは元に戻る。
上流でせき止められていた一つをオリヴィアが外すと、堆積物が一気に下流へ流れる。そして下流でつっかえていた別のポイントに当たると、うまい具合に外れて滝から落ちていく。
「お、今日はついているな! 以前やったときは一日がかりの大仕事だったが、今日は半日もかからずに終わりそうだ」
「よかったじゃないか」
じつはニイトがあーくんを忍ばせて崩れやすく細工をしていたのだが、それは口に出さない。
そして滝から落ちていく堆積物をあーくんで可能な限り吸収する。ゴミはニイトにとって宝に等しいのだ。
機会があったら滝の下にも降りてみようとニイトは考える。きっと長年積み重なったゴミの山が残っているはずだ。根こそぎ頂いても誰も困るまい。
さて、その帰り道、川べりを歩いているとマーシャが敵襲をとらえた。
「きます!」
現れた敵は白いもこもことした毛に覆われたプラテインだった。やや大きく、丸まった大人くらいの体積がある。頭の横には巻き角が生えていて、まるで羊のようだ。
「メェー!」
鳴き声も羊だった。
「まずい、仲間を呼んでいる! 速攻で狩るぞ!」
三人はいっせいに大地を蹴る。
ニイトが直進してナイフを突き出すと、敵は思いのほか素早い動きで横へ逃げた。
しかしニイトの左右にはそれぞれ仲間が備えている。
逃げる方向に先回りしたマーシャが聖短剣を突き立てる。
敵は頭をひねって巻き角で剣先を弾いた。そのまま反撃の頭突きを繰り出そうとしたとき、後ろから回り込んでオリヴィアが虫刃で後ろ足を刈り取る。
バランスを崩して横転したところに、ニイトとマーシャが同時に頭を突き刺した。
緑色の体液を撒き散らしながら、羊のようなプラテインは絶命する。
「すぐにこの場を離れたほうがいい。ヤツはさっき仲間を呼んでいた」
「そうだな」
すぐさま、森の茂みがガサゴソ動く。花の頭にワニのように長いあごを持つ新手が現れた。しかも団体さんだ。
「数が多い。逃げるぞ!」
倒した敵をあーくんに収納して、三人は全力で走った。
ギルドに戻るとちょうど羊型のプラテインの死骸を入手する依頼が出ていたので納品した。
ギルド内にまだ依頼人が残っていたらしく、すぐに受け渡しが行われる。
「あら? あなたは確か」
「ああ、ハープのお姉さん」
誰かと思えば先日エルフの宴で唄を披露した美人のエルフ姉さんだった。
「あなたが入手してくれたのね。ありがとう。報酬は受付で貰ってね」
「わかりました。マーシャ、報酬を受け取ってきてくれるか?」
「了解しました」
マーシャは受付へ向かった。
「そのプラテインは何に使うのですか?」
「楽器の弦をつくるのに必要なのよ。ほら、この前切れちゃったでしょ?」
「そうだったんですか。魔物の素材から作るなんて、不思議ですね」
「そうね。災厄の前は別の素材から作られていたのよ。きっと当時の音色は現在のものとは違うのでしょうね。唄は同じでも、奏でる音色は時代を映すのよ」
なるほど、同じに見えても変化しているものはあると。なかなかに深い話だ。
「そういえば、あなたに聞きたいことがあったのよ。あの子は元気でやっているかしら?」
「オリヴィアのことですか? 大丈夫ですよ。今は自分や友人の生活基盤を作るために奔走しています」
「そう、それは良かったわ。あの子にとっては災難だったわね。冤罪で追い出されてしまったのでしょ?」
「オリヴィアの言葉を信じているのですか?」
「ええ。あの子が嘘をついたことなど一度もないもの。お爺様だって本当はわかっていらっしゃるのでしょうね。あれからずっと後悔しているように元気がないわ。ただ振り上げた拳を降ろせなくなっちゃっているのよ」
「それはまた……、何とかなりませんか?」
「頑固な人ですから、こればっかりは何とも。時間が経ってほとぼりが冷めれば許されると思うわよ」
「そうですか。しばらく様子を見るしかなさそうですね」
そこまで話すとお姉さんは僅かに瞳の色を変えた。
「そうそう、あなたにはもう一つ聞きたかったの」
「何でしょう?」
「ちょっとついて来てくれる?」
「え? あの、ちょっと……」
ニイトは強引な手付きに引っ張られて、人気のない裏路地に連れて来られた。
「ちょっと、どこへ向かうのです?」
「ここで良いわ。それで聞きたいことなんだけど」
美人のお姉さんはペロッと唇をなめると、胸元をはだけさせる。
「ちょっと!? 何してるんですか?」
「わたし、どうしても気になるの。あの真面目を絵に書いたようなオリヴィアがあんなに大胆な発言をするなんて。余程素晴らしいテクニックを持っているに違いないわ。是非とも、わたしにも教えて欲しいの!」
「えぇ~~~~!?」
ニイトは奇声をあげた。
早い話、わたしのおっぱいも揉んで! である。オリヴィアにも劣らないご立派な果実が両腕で押し上げられる。そんなことがあっていいのか!?
「いやいやいや、おかしいですって! エルフは一途で清純だと聞きましたよ」
「表向きは、ねっ。だから、夫には内緒にしておいてくださいねっ。くれぐれも、な・い・み・つ、にね」
ウインクが可愛いお姉さん。まさかの内密返しをされた。あかん。
「お礼に、お姉さんの個人的な唄を聞かせて、あ・げ・る!」
エロい声。このエルフ、エロすぎる。あかん、あかん。
ニイトがしどろもどろになっていると、
「ニイトさま? どちらですか?」
マーシャの声が聞こえたので、これを機に脱出する。
「そ、そそ、それじゃあ、楽器の修理を頑張って下さい。では」
「あっ、お待ちになってぇ~」
甘い囁き声を振り切って、ニイトは逃げ出した。
エルフにもいろんな人がいるようだ。




