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その後、屋台を開く為の調査と準備を始める。
まずは商品の打ち合わせだ。
それぞれのアイデアを披露すると見事に三者が一致する。
「やっぱり串焼きが一番だろう」
「私もそう思います」
「せやな」
皿や器を必要とする料理だと経費が嵩むし、最初に手を伸ばすものではない。その点串焼きなら串を卸している業者に注文すればすぐに手に入る。
「次は串に刺す順番だな」
「順番なんて何でもええんとちゃう?」
「ふぅ、甘いなアンナ。そうだな……、マーシャ、この中でどれを最初に食べたい?」
串に刺す予定の具材を並べた中からマーシャが選んだのはミニトマトだった。
「これがいいです」
「どうしてそう思った?」
「最初に食べるときは口の中が乾いていることがあります。いきなりメインの揚げ物を食べると歯にくっついて美味しさが半減するかもしれません」
「なるほど。言われてみればその通りや」
アンナも同意する。
「俺も同じ意見だ。最初に水分の多い食材で口内を潤したほうが、後の食材を美味しく食べられる。だから最初はトマトやキュウリ、ズッキーニなどの水分の多い野菜を食べてもらう」
ほどよく酸味のある食材であれば唾液の分泌を促して食欲を増進させる効果もあるだろう。
「で、次だ。食欲にスイッチが入ったこの瞬間に一気に勝負をかける。メインであるアンナの揚げ物料理の登場だ。そういえば名前はなんて言うんだ?」
「まだ決まっとらんよ。ニイトはんが名付けくれる?」
「じゃあ、コロッケでいいか? 中身の具材は違うけど、俺の故郷に似たような料理があるんだよ」
「よし、決定や。うちの子供にニイトはんが名前をつけるなんて、もううちら夫婦みたいやん」
「……」
上目使いでまばたきを繰り返すアンナをさらりと流して話しを進めるニイト。
「ちょっと、何か反応してや! 無言を返されるのが一番恥ずかしいんやで」
「ニイトさま。私もそろそろ子猫が欲し――」
「ちょっ! マーシャまでのって来ないのッ!」
二人でボケ倒されるとニイトのツッコミレベルでは対応しきれない。
「で、話しを戻すけど、コロッケは大きさを一口サイズに小さくしよう」
「何でや? メインなんやから大きく目立たせんとあかんやろ」
「理由は三つ。まずは大きすぎると重さで串からこぼれ落ちる。二つめ、小さく一口サイズにすることで揚がるまでの時間が短くなって、客に早く提供できるようになるのと同時に燃料の節約にもなる。三つめ、具材の消費量を抑えることで粉末やペーストにする労力と人件費を節約する。そしてその分だけ商品の単価を下げられるから売り上げは伸びる」
「……お、おお!? 何か、すごく良いことのように聞こえてきた」
「さすがニイトさま。よく考えられています」
「だろ? で、一口大にするとさっき食べさせてもらったものの三分の一くらいの大きさになるから、最後にもう一度コロッケを出せるわけだ。足しても三分の二だから、大幅にコストを下げられる。客からすれば序盤に食べたコロッケに満足して、最後にもう一度食べたいなと思ったタイミングで出てくるから二度おいしい。少ない量でも満足感を演出するわけだ」
「何でやろ。えらいケチ臭い話しをしているはずなのに、とても理に適った正しいことに聞こえる」
「コストパフォーマンスを最大化させるのは基本だろ。人件費を削らないだけむしろ褒めて欲しい」
こうしてアンナ特性串焼きバーベキューの全容が決まった。
1.初手はミニトマトやキュウリなどの水分の多い生野菜。
2.次にメインの虫コロッケ。
3.季節の焼き野菜1。(ナスやズッキーニなど)
4.皮ごとポテトフライ。(日によってカボチャやサツマイモやトウモロコシに変わる)
5.季節の焼き野菜2。(タマネギやピーマンなど)
6.ラストに再び虫コロッケ改。2のコロッケをベースに味に変化を加えたもの。日替わりで味が変化する。
「これ、売れるで! 間違いなく売れるで!」
「野菜は常に同じ種類のものを出すのではなく、日や時間帯によって変化させていこう。客に好きなのを選ばせてもいい。何種類かある野菜のうち一部しか一度に選べないから、客は選ばなかった残りの野菜が気になってまた買いに来るかもしれない。あるいは全種類制覇したくて何本もまとめ買いするかもしれないしな」
「何でやろ? あくどく聞こえるのはうちだけ?」
「串の長さに制限があるからな。全種類の野菜を刺すことは不可能。それに値段が上がりすぎても消費者に優しくないだろう。あくまで消費者の立場に寄り添った気遣いだと捉えるべきではないかな?」
「ものは言いようやな。しかしなるほど。ラストのコロッケの味を変えるのも常連客が飽きないようにするための工夫やね」
「ああ。ただし最初のコロッケの味はあまり変えるな。ここは逆にずっと変化しない味を貫いて、客に安心感を与える部分でもある。人間には同じことを長期間続けて習慣化すると安心する性質がある。この味を気に入って長期のリピーターになる人間を囲い込むんだ」
「うーむ、そう言われると、うちのコロッケはもっと改良する余地があるような気がしてきた。ずっと変わらんくても人気が出る味にせなあかんと思うと、責任重大や」
「そうだな。できればもう少し安価に作れたほうがいいな。そして味はもっとシンプルにしてもいいかもしれない。複雑で深い味わいは最後のコロッケで表現できるから、最初はシンプルで安定感を重視したほうが全体のバランスが整う」
「よっしゃ。ほなもう一肌脱いだるで!」
アンナはコロッケの改良に取り組むことを決めた。
その後、必要な要件を詰めていく。販売場所、食材加工場、バイトや従業員、仕入れルートの確保、調理器具や設備投資など、やることは山積みだ。
ニイトもできることを分担する。
薪は安く提供できる。木材を養殖場に格安で卸すのと引き換えに、食材の幼虫を大量に安く購入させてもらう。これで材料費はさらに安くなるはず。
さらにキューブに戻って猫娘たちに依頼を出す。
「メイ、また石臼を作ってくれないか」
「いいぜ。今度はどんな感じのだ?」
「少し大きめで一度に大量に挽けるやつ。あと、野菜とかをすり潰せるような感じのってできるか?」
「うーん、たぶんできるんじゃないかなー。いつまでだ?」
「なるべく早く頼む。ダメだったら使いやすいすり鉢とかで妥協するよ」
するとメイはちょっぴりムッとした顔をした。
「心外だな~、このメイっちには荷が重いって? そう言われたら逆に引き下がれないな。必ず希望の品を作ってみせるぜ!」
挑発したつもりはないのだがメイのやる気に火がついたのでよしとする。
お次は串作りだ。
「キティ、竹串を作って欲しいんだけど」
「いいにゃ。長さと太さはどのくらいにゃ?」
「長さはこんぐらい。で、焼いた野菜を串刺しにするんだ。丁寧な作りのものよりも、大雑把で大量に作れそうなほうがいいな」
「それは良い品を作るよりも難しそうだけど、やってみるにゃ」
すぐに作業を始めたキティはものの数十分で沢山のサンプルを作り上げた。
「こんな感じでいいかにゃ?」
「早いな。やっぱり木工はキティが一番上手いな」
「にゃはっ、褒められたぁ~」
作ってもらった竹串を一本ずつ確認するニイト。
尖り、肌触り、ささくれのなさ。
一通り問題がないことを確認して【査定】していく。
――竹串(上質) 一本 査定額……19ポイント。
――竹串(良質) 一本 査定額……16ポイント。
――竹串(普通) 一本 査定額……8ポイント。
「あった!」
キティに作ってもらった竹串はどれも15ポイント前後はした。雑に作ってもらってもそこそこできの良いものができてしまうあたり、物作りの才能に恵まれていると言える。
が、今回ばかりはそれが仇となってしまう。品質が低くても安いものが欲しかったのだ。
「ありがとうキティ。欲しい条件のものが手に入ったよ」
「にゃぁ~」
ニイトは声に出さずにノアに話しかける。
(これでいいんだよな?)
『ええ。それじゃ始めるわよ』
ニイトは新しく覚えた【買い戻し】スキルを使い、8ポイントの竹串を【売却】してすぐに40ポイントで【買い戻し】することを繰り返す。
空中に浮いた透明な光学掲示板には、下スクロールを押しっぱなしにしたように高速でログが流れていく。
無駄にポイントを浪費しているようだが、何度も同じ商品の売買を繰り返すことでノアのシステム深部に特定の商品の需要が高まっているサインを出す効果がある。
するとリストアップされる品揃えに変化が現れる。
今までは平均で一本100ポイント前後だった竹串のリストが、50ポイント以下のリストに変化していく。
――竹串(普通) 一本 査定額……20ポイント。
(あっ、これいいんじゃないか?)
『そうね、強度も長さも十分足りそうね』
ようやくお目当てのものを検索できたニイとは、【お得意様】と【大口購入】のスキルを使って、一本5ポイントまで値引きした竹串を大量に購入した。
『この商品は常にリストアップされるように記憶しておくわね』
(頼む)
これでいつでも安い竹串が手に入るようになった。一応虫世界の職人にも依頼は出しておくが、万が一串が足りなくなった場合は必要な分だけ補充できる。
「さて、あとやるべきことは……調理器具の製作も依頼しておくか」
何気に開店準備を楽しんでいるニイトだった。




