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異世界創世記  作者: ねこたつ
3章 野菜の楽園
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3-9



 ニイトたちは一度【帰還】してすぐさま火の海を越えたあたりに【再帰還】する。

 そのままどうどうと歩みを進めると、野菜魔人たちの石垣が左右に割れて道を作り出した。その間を悠々と進むと、四天王と呼ばれた野菜魔人たちが腕組みをしながら待ち構えていた。

 ベジターは後方に陣取り、部下を組み体操のように積み重ねた台座の上から見下ろしている。

 ニイトは視線を目の前の敵に戻した。

「異臭四天王が一人、タマネギ戦士である」

「同じくニラアーチャー」

「拙者はニンニンニクでござる。にんにん」

「初音ネギだよぉ~」

 あきらかにザコ兵とは異なる風格の四人組だった。

「異国の者よ、ベジター様の命により、貴兄らに決闘を申し渡す」

 野菜魔人たちが大きな円を作り、ニイトたちを囲む。

 この範囲内が決闘場ということだろう。

「お前たちに勝てば兵を引くのか?」

「それはベジター様がお決めになる。万が一にでも我らを倒せたら話しをするがいい」

 旨味のない条件だがやるしかない。少なくとも多勢に無勢で襲われるよりは少数との決闘のほうが組しやすい。

 ニイトたちは直径20メートルほどの円陣の中央で対峙する。

「では、いざ!」

 四天王は素早く隙のない陣形を完成させた。その様子から、かなり戦い慣れているのがうかがえる。

 中央にタマネギ戦士。左右にニンニクとネギ、後方にニラが控える。

 ニラはアーチャーと名乗っていたからおそらく遠距離攻撃タイプ。タマネギが前衛で壁になり、ニンニクとネギが側面から挟撃を仕掛ける構えだろう。

「マーシャは俺の斜め後ろに」

「援護します」

 ニイトとタマネギは同時に駆け出した。まずは前衛同士、お互いの力量をはかるように打ち合う。

 ニイトの長槌を、タマネギ戦士は真正面から体で受け止めた。カンッ! と鉄を打ったような音が響く。

「硬いっ!?」

「そんなものか!」

 直撃を受けても動じなかったタマネギ戦士は、利き手に握った緑色の棒を振り下ろす。

 先端にネギ坊主が付いたトウ立ちしたタマネギの芯のような変わった武器だが、おそらく棍棒の一種と考えてよい。

 ニイトは長槌を引き戻し、両手で握った柄の間で受けた。木刀で殴られたような衝撃。重くはないが、当たれば無事では済まない。

 武器性能だけを見ればリーチの長いニイトが有利。しかしタマネギ戦士には硬い皮膚がある。

 柄を短く持ったニイトは槌を回転させながら小刻みに攻める。敵の武器を槌の腹で押さえつけ、反転させた柄尾で打つ。

 幾度となく攻撃を成功させたニイトだが、タマネギ戦士にさしたるダメージは見られなかった。表皮が僅かに凹んだのみである。

「技量はある。だが、軽い攻撃だな。そんな威力では我が鎧を貫くことはできぬ」

 言葉に表れる自信が示すとおり、タマネギの表皮は異常なほど硬かった。まるで金属の鎧だ。巨蟲をも圧殺してきた槌をもってしても、ほとんどダメージが通らない。

 攻撃が通らずに徐々に押されるニイトに、タマネギ戦士の後ろからニラが弓を引いた。

 束になった自分のからだを一本ちぎり、ニラの矢とする。撃つたびに自らの体積が小さくなっていくが、かまわずに捨て身の射撃を繰り出した。

 鋭く尖ったニラの矢が大気を切り裂き、ニイトに迫る。

 長槌を傾けて、連射されたニラ矢の軌道を反らせたニイトだが、その隙に逆側からタマネギの棒で打たれる。

「長棒では同時に二つの攻撃は防げまい」

 痛みに耐えるニイトも言い返す。

「お前らこそ、攻撃と同時に防御はできまい」

 ニイトの斜め後ろから飛び出したマーシャが、タマネギ戦士の伸びきった腕を短剣で斬り落とす。

 ニイトが前衛で敵を引きつけ、最も攻撃力のある聖短剣でマーシャが隙を突く。始めから二人の間で決められていた作戦だった。

「ふっ、やるではないか。だが、腕一本落としたくらいで図に乗るな」

 短剣を振りぬいたマーシャの足元が爆ぜる。飛び出したのは弾丸と化した小型のニンニクだった。

 ニイトは長槌を割り込ませてマーシャを助ける。しかし柄に当たった瞬間にニンニクは反射し、今度はニイトに向かって飛ぶ。

 回避は間に合わない。

 腕に突き刺さったニンニク。さらに何かの液体を注入された。

「くっ!」

「ニンニクは一株が複数の球根に分かれている。一片だけ取り出して地面に潜らせることも可能。これぞ《土遁 ニンニク分身の術》だ、ニンニン」

 語尾や技名からニンジャを意識しているらしい。

 今まで積極的な動きを見せなかったニンニクはひっそりと地下に罠を仕掛けていたのだ。

 だがそれよりも気になるのはニイトの体内に入れられた液体。

「俺のからだに何を注入しやがった?」

「今にわかるさ。できればおなごに中出ししたかったが、男でも良いのだニンニン」

 すぐにニイトの体温が上昇する。そして、

 ――――疲労が回復した。

「あれ? 何か、からだが軽い?」

 元気が湧き上がってくる。さっきよりも調子が良い。タマネギに打たれて痛んでいた筋肉も痛くない。

「ふっ、ニンニク注射は疲労回復に加えて筋肉痛や神経痛などの炎症も即効性をもって改善する、たいへんに素晴らしい注射でござる」

「へぇ……、何か悪いな、ありがとう」

「ふっ、礼には及ばん。副作用もないから疲れたときには頼るといいでござる」

 お互いにウインクをしてアイコンタクト。戦場で何をしてるのだ自分たちは?

 なぜか敵に塩を送られたニイトは果敢に攻撃に出る。

「バカヤロウ! 敵を強くしてどうする!」

 タマネギが怒鳴る。

「ハッ!? 拙者としたことが、ニンニクの素晴らしさを布教したくて、つい……だが、問題ないでござろう」

 ばつが悪そうなニンジャニンニクが顔を向けた先には、ネギがいた。

「充電完了! いくよぉ~! 《ねっぎねっぎにしてあげるっ♪》」

 ネギを中心に人工合成した歌声のような音波が広がった。

 瞬間、斬り落とされたはずのタマネギの腕が復活する。さらに捨て身で矢を放っていたニラまでもが元の状態に回復する。

「ネギは最強の回復食材よ。免疫を高め、疫病すら殺菌・解毒する。さらに古代の文献には死者の鼻に突っ込めば蘇生したとすら書かれているのよ。失った腕を取り戻すことくらいわけないわ」

「何だよそれ、反則だろっ!?」

 からだの一部が欠けていたニンニクも元に戻り、敵は全員完全回復。勢いを取り戻して襲い掛かってくる。

 くっそ、どうしたらいいんだ!

 一人ずつ倒すしかない。しかしマジで蘇生などされたらたまらないので、最初にネギを討たねばならない。

 しかし能力が露呈した瞬間、ネギは最後尾に下がり、ニラアーチャーの護衛を受けている。そして常にタマネギ戦士が壁となり、行く手を阻む。

 くそう、やりにくい。マジで戦い慣れしてやがる。

「マーシャ、地面に火を!」

 《火の槍》を地面に向かって斜めに放つと、そこから直線状に火柱が立ち上った。一瞬だけ現れる炎の壁。すぐに火の勢いはなくなるが、しばらく下火は残る。

 何度も繰り返すことで、足元に炎の直線が幾筋も刻まれて移動の範囲を制限する。

 ニイトは【購入】した廃材薪を投下してどんどん火力を上げていく。

「くっ、やっかいなマネをしやがる」

「熱くて近寄れないでござる」

 炎が大きく巻き上がった瞬間に、ニイトとマーシャは【帰還】する。

「消えたっ!? 火の影に隠れたのか?」

「地中にもいないでござる! よもや現世(うつしよ)から消えたなどということはあるまいな」

 野菜魔人が戸惑う姿を石版越しに眺めながら、マーシャの魔法を補充する。

 そっちが反則技を使うなら、こっちだってチートを使ってやるぜ。

 ニイトは狙いを定めるようにゲートをネギの背後へ移動させた。



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