3-8
翌日、ニイトが村で待機していると、血相を変えた村人の一人が叫んだ。
「――村長! 遠くに野菜の群れが押し寄せています」
「そんな! 何てこった」
ピーターは一目散に村の入り口へ走った。ニイトとマーシャもそれに続く。
村の東門を出るとすでに大挙として押し寄せた野菜魔人の群れが隊列を組んでいた。
先頭の一番目立つツンツン頭の野菜魔人が腕組みをしながら大声で叫ぶ。
「聞けぇ! 愚かな人間共よ! オレ様は野菜魔人の王子、ベジター=ブルだ。お前たちは今までに数々の悪逆非道を繰り返してきた。野菜を食べずに捨てるなんてとんでもない! よって、これより『聖戦』を発動する。お前たちが大事にしている果樹園を根こそぎ破壊し、この世から果物を消し去ってくれる。お前たちはこれから毎日、野菜だけを食べて暮らすのだ、フハハハハハ」
ツンツン頭にM字ハゲという大人の事情的にヤバそうなヤツが出てきて何を言い出すかと思えば、果物を消し去ると言う。
「何てことを!? やめるんだ! そんなことをしたって僕たちの野菜嫌いが治るわけじゃないぞ! もしも果樹園を攻撃したら一生野菜を食べてあげないもんっ!」
負けじとピーターも叫ぶ。600歳を超えている老体のはずだが、言っている内容は年相応の子供にしか見えない。出会った当初の大人びた雰囲気は何だったのか。
ピーターに続いて、そうだ、そうだと、村人たちも声を上げる。全員子供の容姿なので、たとえ実年齢がニイトよりも遥かに上であっても可愛げがある。
それはそうと、この問題はニイトにとっても都合が悪い。まだ虹の実を貰っていないのだ。今消されてしまうと、下手をすれば永久に入手できなくなる。
よって不本意ながら、禁断の樹との約束を別にしてもピーター側に助太刀するしかない。
「不満があるからって、いきなり暴力に訴えるのは良くない。まずは話し合おうじゃないか」
だがニイトの言葉は通じず、
「全員かかれぇー!」
「「「おぉー!」」」
野菜魔人たちはすぐさま攻め込んできた。
「ニイトさまのお言葉を無視するなんて、許しがたいです! 焼きましょうか?」
ぷりぷり怒るマーシャは、さらりと過激なことを言ってのける。しかし放っておけば果樹園が全滅してしまうし、今回は仕方ないとニイトは頷く。
前方に打ち出される《火球》。数秒ごとにボゥン! と音をたてながら爆ぜる。
直撃した一体はもちろんのこと、周囲の敵に乗り移った火によって燃焼範囲はどんどん拡大していく。
「ベジター様、洞窟でおいらたちを燃やしたのはあいつです」
「妙な術を使うのは貴様か」
マーシャの猫耳が不自然な会話を鋭くとらえた。
「どうしてあなたたちが知っているのですか?」
そう、あの洞窟にいた魔人たちは全員仲良く焼かれたはずである。生き残りがいればマーシャが気配に気付く。その場にいなかったベジターが知るはずはない。
「ふん、我ら野菜魔人は怨霊となった野菜の魂が憑依した存在。器である野菜を乗り換えれば何度でも復活するのだ」
大層なチートだった。これが本当の不死というヤツか。
「マズイなこれは」
ニイトは眉間にしわを寄せる。何度でも復活するということは、倒しても無駄ということだ。しかし倒さなければ果樹園が全滅する。
倒す以外の解決策を見つけ出さねばならない。
しかし既にマーシャの火を潜り抜けた野菜魔人たちが村を突き抜けて果樹園に迫ってきている。ニイトも応戦して数十体を討ち取るが、多勢に無勢では成すすべがない。
「ピーター、例の場所に下がれ」
「本当にアレをやるのかい? 僕たちには無理だよ。戦いなんて経験したことないんだ」
「じゃあ、果樹園がめちゃくちゃになってもいいのか!」
「いいわけないよ! でも、できないことはできないよ。人は争ってはいけないんだ!」
昨晩のうちに作戦を説明したのだが、どうにも村人の反応は芳しくなかった。
争いはダメだの一点張りで、埒が明かなかったのだ。平和主義が極まるとこうも現実が見えなくなるものなのか。
「これは戦いではない。避難だ。アレに巻き込まれたら村人に犠牲者が出るかもしれない。だから果樹園の前に集まれ。もしもヤツらが侵入してきたら防いでくれ」
「やってみるよ」
村人は全員で果樹園に向かった。
「ニイトさま、魔法の残数がありません」
「仕方ない。戻るぞ」
世界から消えるところを見られてしまうが、四の五の言っていられない。
キューブに【帰還】して、魔法を充填。
ついでにレベルが上がるとのことだったので、炎の範囲を拡大することにした。
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名前 :火球 → 火の槍
ランク :☆☆
レベル :1 → 2
残り回数:40/40
威力 :D+
攻撃範囲:D+ → C
命中率 :D
攻撃速度:D
特殊:命中すると周囲に燃え広がり、消火するまでダメージを与え続ける。
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攻撃範囲が1ランク上昇したことで名前が変化した。
ニイトも武器を短剣から長槌に変更した。多人数を一度にまとめて薙ぎ払うにはリーチの長さがあるほうが有利なのだ。聖なる剣である聖短剣はマーシャが装備する。
すぐさま戻った二人は戦闘を再開。
さっそくレベルの上がった魔法を放つマーシャ。
――《火の槍》。
指先から飛び出したのは彼女の身長ほどもある長槍だった。槍身から炎が揺らめき、熱波が大気を歪ませる。
一直線に突き進んだ火の槍は前面の野菜魔人を貫き炎上させる。なおも突き進んだ槍は真後ろにいた二体目をも貫通。敵に当たるごとに威力は弱まるものの、最終的に火の槍は直線状にいた何体もの敵を一度に燃やし尽くした。さらにその火線から周囲に燃焼が広がっていく。
攻撃範囲が縦に拡張された新たな魔法によって、それまで安全だと思って後方に下がっていた野菜魔人たちに動揺が広がる。
歩みが鈍った敵に対して、マーシャは間断なく発動を繰り返す。
気付けばマーシャを中心に直線状の燃え跡が幾筋も地面に刻まれた。その隙間から突撃してきた敵は、ニイトの長槌によって粉砕される。
「ベジター様! ヤツらの妙術が強力で近づけません!」
「数の力で押しつぶせ! 捨てられた野菜の恨みを知らしめろ!」
死を覚悟した野菜兵士たちが怒涛の突撃を敢行する。
「マーシャ、引け」
それを見てニイトたちは後方へ走った。マーシャが左右に魔法を連発して、野菜魔人たちの進路を中央に限定させる。
そして敵を十分にひき付けたから、罠を発動させる。
炎が勢いよく地面を一直線に滑った。そして素早く左右に分かれて、幾層にも掘られた溝に繋がり、中の可燃物に引火する。
一瞬にして辺りに火の手が回って、突撃してきた野菜魔人たちを包み込み、逃げ場を奪う。
「何だこれは!? 突然足元に火が!」
「こっちも、あっちも! だめだ、囲まれている!」
「ダメだ! 後ろにも火が回った! 逃げ場はどこにもないぞ!」
大混乱に陥る軍団。
そして、
「行け、あーくん!」
二体のあーくんが火の海に飛び込み、霧状の油を噴射して回る。
瞬く間に引火した油は爆炎に変わり、火炎放射の渦が敵を根こそぎ焼き尽くす。
「「「ぐわぁああああああああああああああああああああ!」」」
火の海の中で火達磨になった野菜兵士の群れが死のワルツを奏でる。
力尽きて倒れた兵士は、この地獄絵図の中で唯一自由に走れるあーくんによって吸収されてていく。
――巨大ナスの姿焼き(上質) 8個 売却額……23万6000ポイント。
――巨大ピーマンの丸焼き(高級) 14個 売却額……55万2980ポイント。
――巨大トマトのこんがり焼き(レア☆)1個 売却額……12万7000ポイント。
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みるみるポイントが貯まっていく。
大掛かりな仕掛けに使ったぶんは回収できそうだ。
十分に力を見せ付けたところで、ニイトは高らかに宣言する。
「野菜魔人の王子ベジターよ! 我はさすらいの旅人、ニイトである。我々はこれ以上の争いを求めない。速やかにこの地から立ち去るが良い。さもなくば、この煉獄の釜が口を広げ、汝らを焼き尽くすであろう」
やや火力が弱まった炎の壁を挟んでベジターが叫ぶ。
「さすらいの旅人ニイトよ。妙な術を使いオレ様の先兵を倒したことは褒めてやろう! 下級戦士には荷が重かったようだ。よかろう、次はオレ様の親衛隊が相手をしてやろう。来たれ! 異臭四天王!」
「「「「はっ!」」」」
タマネギ、ニラ、ニンニク、ネギの魔人が現れた。
ニイトは小さく舌打ちをした。敵はあくまで交戦を望んでいる。
「知っての通り、野菜魔人は何度でも蘇る。貴様たちがどれだけ抵抗しようとも、オレ様の勝利は揺るがない! フハハハハハハ」
敵は何度でも復活できるようだし、このままではジリ貧になるのはこちらだった。
「だが、チャンスをやろうではないか。もしも貴様が戦士として戦うというのであれば、決闘の舞台を用意してやろう」
これは火の海の危険地帯からニイトを誘い出す為の罠だろうか。どうすべきか考えを巡らせていると、マーシャが不機嫌顔で言った。
「あの人、ニイトさまに向かってなんて無礼な口の聞き方をするのでしょう! ちょっと行って焼いてきます」
「待て待てマーシャ、落ち着け」
ぷんぷんと唇をアヒルのように突き出して前方を睨むマーシャに負けて、ニイトは話に乗ることにした。
やむを得ない。決闘を受けてやろうじゃないか。




