表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界創世記  作者: ねこたつ
3章 野菜の楽園
53/164

3-2


 しばらくラブラブムードで周囲を歩いたニイトらは遠くに人の集落を発見した。

 ここに来るまで外敵に襲われたことは一度もない。

 以前の世界ではのっけから魔王の使徒だの巨大な虫だのに襲われたが、どうやらこの世界ではそのような目には会わずに済みそうだ。

 そうそう何度もモンスターに襲われてはかなわない。ましてやこんな平和そうな世界なら尚更である。

 だが世界が平和な分、それ以外に危険が潜んでいる可能性はある。たとえば住人が酷く凶暴だとか。この空気ならそんなことはないはずだとは思うが、用心に越したことはない。

 しかしそんなニイトの警戒心も、村人に出会うと一気に薄れた。

「やぁ、見かけない顔だね。それにずいぶんと背が高い。どこから来たのかな?」

 現れたのは少年だった。身長はニイトの胸の高さにも満たない。

「旅をしているんだ」

「これは珍しい、旅人さんか。よろしければぼくたちの村で旅の疲れを癒してはいかがかな?」

 子供なのに、妙に大人びた喋り方だった。だが、ニイトには好都合だったのでありがたくその話に乗った。

「助かるよ。俺はニイト、こっちはマーシャだ」

「村長のピーターだよ」

 驚いたことに、この年端のいかない少年が村長だと名乗った。

 何かの冗談だろうか。あるいは子供のいたずらか。それとも「私が村長です」的なギャグの一種かもしれない。

 それ以上は心に留めずに、ニイトはピーターの後に続いた。

 不思議なことに村の周囲には柵や塀の類がない。外敵に攻められることを全く考慮に入れていない作りになっていた。

 無防備な村の中に案内されると、原始的な生活が目に映る。

 家は細い木の枠組みに、屋根だけ葉を敷き詰めたような簡素なモノだった。壁はなく素通し。強風や地震がが起きればたちまち倒壊しそうで怖い。

 文明レベルはかなり低そうだった。

 家を修理している人が使っている道具は石器だろうか。水を運ぶ入れ物はヤシの実の殻のような器。服は植物の繊維を編んだような粗い作りのものだ。中には大きな葉っぱを綴っただけの者もいるほどだ。

 どれもこれも原始時代から僅かに進んだくらいの文明レベルに驚く。が、ニイトを最も驚かせたのは村人の姿だった。

 全員、子供だったのだ。

「この村って大人はいないのか?」

「おとな? 聞いたことのないモノだね。いるという表現を使うくらいだから、生き物か何かだということはわかるけど」

「そうだな。俺みたいに背が高くて大きな人間のことだよ」

「ふ~む、残念だけど見たことないな。この辺りじゃ旅人さんみたいに大きな人はいないよ」

 それは不思議な回答だった。目の前の少年、ピーターだって成長すれば大人になるだろうに。しかしこの反応から察すると、大人を一度たりとも見たことがないような口ぶりだった。

「ピーターもそのうち大人になるだろ?」

「そうなのかい? ぼくはもう長いこと生きているけど、今以上に体が大きくなったことはないよ?」

 やはりそうか。ニイトの中で疑惑が膨れ上がる。

「この村の人々ってみんな背が小さいけど、ひょっとしてずっとこの状態なのか?」

「そうだよ。何かおかしなところでもあるのかい?」

「いや、いいんだ。ちなみにピーターは何歳なんだ?」

「さぁ、百を越えた辺りから数えるのが面倒になったから正確にはわからないや。今はたぶん六百は越えていると思うよ」

 マジかよ!? とんでもなく年上じゃないか。タメ口聞いてすみませんでした。

「と、年上でしたか。失礼致しました」

「なにを急に畏まるんだい? 生きた年月なんて大したことじゃないだろうに。普通に話してくれて構わないよ」

「で、ではお言葉に甘えて」

 どうやらこの村人たちは子供の姿から年を取っていないようだ。あるいは時が止まっている? それとも実はロボットだとか?

 いずれにせよ、ニイトは異世界ギャップに慣れるまでにしばらく時間がかかりそうだった。


     ◇


 ピーターは葉を綴ったカゴに果物を盛って運んできた。

「よかったらリンゴでもどうだい。旅の疲れを癒すにはもってこいだよ」

「ありがたい。頂こう」

 小ぶりなリンゴは酸っぱかった。しかし渋みは少なく、酸味の中にもほんのり甘さがある。

 まあ、好意で貰った手前、マズイとは言えない。

「みずみずしいな」

「甘酸っぱくて美味しいです」

 さすがに品種改良が進んだ日本のブランド物リンゴとは比べ物にならないが、自然で素朴な味だった。

「気に入ってもらえたら嬉しいよ。ところでニイトさんたちはどうして旅をしているんだい?」

「俺たちは食料を探しているんだ。野菜や果物なんかを」

 ニイトの話しを聞くとピーターはやや嬉しそうな顔をした。

「それなら東へ行くといいよ。野菜が沢山なっているから、好きなだけ採って食べるといい。西の方へ行くと果樹園もあるけど、こちらは数が少ないから取り過ぎに注意してね」

「勝手に貰っていいのか?」

「食べきれないほどたくさんあるからね。野菜はいくらでも持っていって構わないさ。果物はほどほどにね」

 ありがたい情報を貰ったのでさっそくニイトは東へ向かう。

 果物と情報のお礼にドニャーフが作製した道具を渡す。

「これは?」

「木を切ったり削る道具だよ」

「珍しい形をしている。少し試しても良いかな?」

 いそいそと木材で使い心地を確かめたピーターは、すぐさま走り寄ってきた。

「すごいねこの道具! とても使いやすいよ」

「気に入ってもらえて何よりだ。また機会があったら持って来るよ」

「それは是非ともお願いしたい。次に会うときはもっと美味しい果物を用意しておくよ」

 商談もまとまり、ニイトたちは村を出立した。


 東へ一刻ほど進むと、確かに大量の野菜が無秩序に生えていた。

 野菜と言えば畑かスーパーでしか見たことのないニイトは、こうも野生の野菜が乱雑にひしめき合っている光景は異様に映る。

 幾つかもいであーくんに査定してもらうと、

 ――野生のナス(低級)   1つ 売却額……98ポイント。

 ――野生のピーマン(粗悪) 1つ 売却額……87ポイント。

 ――野生の枝豆(低級)   1房 売却額……125ポイント。

 ちゃんとした野菜だった。それぞれ詳しく鑑定してみたが毒もなく食用可能だった。

「良かった。全部食べられるぞ」

「たいへん喜ばしいです。どのように食べるのでしょうか?」

「生でも食べられるぞ。ただ、火を通したりして調理したほうが美味しいけどな」

 試しにマーシャと二人でミニトマトを食べてみる。

「ん! 甘酸っぱいです。さっきのリンゴよりも味が濃いですね」

「意外と悪くない味だな」

 低級と表示されていたが、マズイというわけではなさそうだ。特別美味しいわけではないが普通に食べられる。

「よし、これをみんなに持って帰ろう」

 ドニャーフの生活に新しく野菜が加わった。


     ◇


 キューブに戻ってくると、ニイトはさっそく猫娘たちを調理場に集めた。

「みんな。今日は変わったお土産を持ってきたぞ」

 料理室の中央に設けられたテーブルの上に、収穫してきた野菜を山盛りにする。

「何かしら。食べ物みたいよ」

「綺麗な色をしてるの」

「じゅるり」

 さっそく興味津々でテーブルを囲む少女たち。

「これは野菜って言って、植物の実だ。ただし、今までの食材と違ってそのまま食べても美味しくない物も含まれるから注意してく。たとえば――」

 ニイトはミニトマトを全員に配る。

「これはそのまま食べてもそれなりに美味しいと思う」

 一斉に食べ始める少女たち。

「甘い! けど酸っぱい!」

「でも、じゅるじゅるしてて気持ち悪いわね」

 やはり反応は真っ二つに割れた。

「次に、これは生のままだとかなり食べるのがきついと思う」

 ニイトが小さく切って分けたのは小粒なタマネギだ。手渡されて匂いを嗅いだ瞬間に顔をしかめる者が続出した。

「鼻が痛いっ」

「涙が出てきたわ」

「味もからいのぉっ!」

 評判は最悪。ペッペッ、と吐き出す子も出た。

「タマネギは生だと辛くて目に痛くて酷い味だろ? でも、火を通すと途端に美味しくなるんだ」

 ニイトは刻んだタマネギを胴虫の殻で作ったフライパンで炒めていく。

「あれ? 何か良い匂いがしてきたの」

 小麦色に色づくまで炒めてから、再び少女たちに試食してもらう。

「ん!? 甘い! 美味しいわ!」

「さっきと全然違う! 辛くないし、目も痛くならない」

「香ばしくて良い匂いがするの」

 あれだけ不味かったタマネギが劇的に変化したことに驚きを隠せない少女たち。もっともっととフライパンの近くに迫る。

「な? 美味しくなっただろ? 野菜は手を加えることで味が変わるんだ。そしてそのまま食べるよりも、別の食材と合わせた方が美味しくなる。ただし、どんな食材とでも合うわけじゃないから、いろんな組み合わせを試して美味しい料理を作ってくれ」

 少女たちはさっそくそれぞれの野菜の味を調べ始めた。

 みんなの表情が物語っているように、今度の野菜料理は今までよりも難易度が高い。

 明確な正解があるわけではなく、組み合わせは膨大。さらには個人の味覚によって同じ料理でも美味不味が分かれるときた。

 非常に曖昧な味覚センスの狭間で輝く組み合わせを模索せざるを得ないので、根気と柔軟な発想が求められる大変な挑戦だ。しかしだからこをやりがいがあると、ほとんどの少女たちは息巻いていた。

 今後の食事が楽しみである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ