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さて、この日のニイトは新設した作業場の様子を見学することにした。
いままで一部屋だった状態から四部屋+自室に拡大されたことで、程よく分散した少女たちが広くなったスペースでクラフトに熱中していた。
ざっと見渡すと大きな作品を作っていう子が多かった。
以前は少ない資源と狭いスペースのせいでできなかったが、今は広いスペースと大量の資源があるので彼女たちを阻むものはない。
今まで果たせなかった大きなモノを造りたいという欲求を果たすように、彼女たちは嬉々として物作りに励んでいる。
そんな中、編み物部屋でニイトは興味深いものを発見した。
「ついに完成しましたの!」
それは木材や虫材を組み合わせた器具の中に、細い糸が何本も直線状に並んだものだった。
「まさか、機織り機かっ!?」
そのまさかだった。
少女は縦糸の隙間に横糸を通してトントンと隙間を詰める。その作業を何度も繰り返すことでどんどん布地ができていく。
「オリカ、何それ?」
「らくに服を作る道具ですの」
「すごい! わたしにもやらせて」
自力で機織り機を発明した少女オリカのもとに、少女たちが群がっていく。
「へー、これを引っ張ると糸が交互にずれるんだ。この隙間に通せばいいのね」
「こんなに早く編めるんだ」
「たくさん服を作れるね」
実のところニイトはオリカが糸を作っていたことは知っていた。木の棒に円形の石を取り付けた紡錘車をコマのように回して、その回転力で綿花のようなわた虫のわたを糸状に加工していた。
しかしそれからすぐに機織り機まで自作してしまうとは驚きだ。
「面白いものを作ったみたいだね、オリカ」
「ニイトさまっ」
気になったニイトはその機構を見せてもらうことにした。
硬い木や虫の殻で作られた胴部。細い糸を規則正しく配列させるためにはギザギザな部位が使われていた。どこかで見たことがあると思えば、カマキリの腕の第二関節じゃないか。あのギザギザがちょうどいい感じに嵌って、縦糸の上下を入れ替えるレバーの役割を果たしていたのだ。
あのときはまさかこんな場所で活躍することになるとは思いもしなかったニイトである。
「よくできてるね。これで何を作るの?」
「服をたくさん作りたいのです。前にニイトさまが見せてくれたときにいろんな模様の服があったので、自分でも作れるようになりたくて」
「楽しそうだね、応援しているよ。もしも服の材料になりそうな素材を見つけたら持ってくるね」
「はいですの」
これで服飾文化も発展するだろう。
少女たちがオシャレになるのはいいことだ。
◇
次にニイトは石工部屋を訪れた。
どうもこの石工はいまいち人気が薄いらしく、ほぼ毎日作業しているのは一人だけのようである。
「メイどうだ。頼んでいたものはできたか?」
「うーん、もう少しでできそうなんだけどな……」
メイに依頼したのは石臼だ。小麦を短時間で挽くためにどうしても必要な代物である。
「上手くいかない箇所があるのか?」
「小麦をすり潰すまではできたんだ。けど、中で詰まったり、うまく排出されないときがある」
ニイトも詳しい構造までは知らない。ただ円形の石臼を回すと小麦が削れるくらいの認識だ。
「ちょっと見てみようか」
上臼を外してみると、下臼の半ば辺りで小麦が詰まっていた。
「溝が浅いのかな?」
「これ以上彫ると小麦の粒が大きくなっちまうぜ」
「なら溝はちょうどいい深さなんだな。だとすると……角度を付けたらどうだ?」
「どの角度のことだ?」
「石臼の設置する面をさ、ちょっと山なりにするんだよ。そうしたら自然と高いところから低いところへ落ちていくだろ?」
「それだぜっ!」
メイは謎が解けたようにスッキリした表情で修正作業に埋没した。
「それじゃ、頼むよ。石工はメイだけが頼りだからな」
「おうっ! ニイトさまがあたいを頼ってくれたんだ、必ず期待に応えるぜ」
もの作りに関してはドニャーフ族に任せておけば大丈夫だろう。ニイトは短い付き合いながらもそう確信している。
◇
さて、今度は木工部屋にやって来たニイト。ここへ来たのはあるものを受け取るためであった。
「キティ、例のものはできてる?」
「できてるニャ。こんな感じでどうニャ?」
キティは木工細工大会で優勝した少女だ。そしてドニャーフ族の中で一番ネコっぽい女の子でもある。
「おう! いい感じだな。俺のイメージとピッタリだ。さっそく貰っていくよ」
「いいけど、何に使うニャ? かなり大変だったかからとても気になるニャん」
「まだ成功するかわからないから、実験が済んでから教えるよ」
ニイトは満足顔で、キティに作ってもらったものをあーくんに吸い込ませた。【売却】ではなく【査定】にすることで、後でキャンセルするためだ。こうすれば重い荷物の持ち運びも楽になる。
空き部屋にやって来たニイトは、売却をキャンセルする。
――木製の湯船 1据え 査定額……3万9300ポイント。キャンセル。
もうお分かりだろう。風呂作りである。もと日本人としてこれだけは譲れないのだ。
しかし電気もガスもない状態なので、今は原始的な石焼き風呂しかできない。それでも久しぶりの風呂にニイトは心を躍らせる。
薪を燃やして石を焼く。その間に井戸から水を汲んできて湯船に満たす。
いい感じに石が焼きあがったら服を脱ぐが、この状態で少女たちに乱入されると困る。
「ドアってロックできないのか?」
『【施錠】スキルを取得すれが可能よ』
すぐさまニイトはスキルを買う。
覚えたての【施錠】スキルで四方向のドアをロック。
「これでよし」
虫材で作った火鉢で赤く熱せられた石をはさみ、湯船の中に設けられた石置き場に投下。
じゅぅうううううううう! と石にたくわえられた熱が水に移動して勢いよく沸騰する。
「さて、湯加減は?」
少々ぬるい。なので石を追加する。
「いい温度だ!」
今度こそニイトは全裸になって、湯船に浸かった。
「ぁはぁ~~~~~~~~」
今までの疲れが全て出てくるような深い吐息が自然と漏れ出た。
じんわりと、からだの芯まで熱が浸透してくる。目を閉じて全身を脱力すれば、ここが極楽であることに疑いはない。
「これだよ~。これなんだよなぁ~~~」
久しく忘れていたこの感覚。失ってから初めて気付く風呂のありがたみ。
素晴らしい文化じゃないか。
「入浴を最初に考えた人は天才だと思う」
心の底からそう思った。




