2-24
ニイトは石版の部屋でノアと二人で会話していた。
「いやー、それにしても昨日は参ったよ。まさかホルンが地面を掘りつくしてキューブの底にまで到達してしまうとはな」
『でも逆に良かったじゃない。あの子のおかげで隠しスキルを入手できたんですもの。取得条件がキューブの外殻にマスターがじかに触れることだったから、キューブ領域を広げるほどに達成が困難になってたわよ』
「ああ、それは確かに幸運だった。彼女には感謝しないとな。それにしても、ちょっと掘っただけで壁に当たるなんて、意外と狭いよな」
『今は一辺が3エリアだから10メートル掘れば着いちゃうのよね。もう少し広げれば昨日みたいな事態は起こらなかったわね』
「エリアを広げるごとに、地面や天井も広がるってことだよな?」
『ま、そんな感じね。エリアは縦横だけじゃなくて高さも等しく拡張されるのよ。必ず立方体になるって前に言ったでしょ? 今は地上、地下、空の3エリアがセットになった状態ね。でも実際は省エネモードにしてるから、必要のないスペースのエリアはスリープ状態にしてあるわ』
それはどういうことだ?
『たとえば畑は地面も空も必要だから縦に3エリアを常に稼動してるけど、寝室は地下も天井の上の空も必要ないでしょ? だからこの二つのエリアは稼動停止してるの。ただ空間領域があるだけで、維持費はほとんどかからないわ』
「なるほどな。じゃあ、あとでそのスペースを使うこともできるのか?」
『ええ。というか今でも倉庫代わりに使ってるわ。これなら維持費もかからないし、あたし、デッドスペースは作らない主義だから。他には、たとえば住民が使用できる床下収納にしたりできるわよ。作製費と維持費がかかるから必要がないのに作るのはお勧めしないけど』
なら、今はまだいいか。
「それじゃ、ポイントにも余裕が出てきたし、そろそろキューブの領域を拡張するか」
『いい考えね』
ノアは嬉しそうだ。そもそも彼女の目的はキューブ空間を拡張し続けること。ある意味で空間を広げることが一番幸せなのかもしれない。
『今回はどのくらい広げる? 維持費がマイナスにならないのは4エリアまで。5エリア以上だと若干マイナスになるけど、異世界での稼ぎが安定するなら大した支出じゃないわ。思い切った10マス以上にしてもいいかもね』
「そうだな。使い道の決まってない部屋を余らせるのももったいないし、手堅く5エリアくらいにしておくか」
『了解っ』
==========
□ □ □ □ □
□ □ □ □ □
仮トイレ 倉庫 □ □ □
畑 キノコ 作業部屋 □ □
■ 庭 寝室 □ □
==========
■……石版部屋
「結構広くなったな。16エリア増えて、現在の三倍弱になったわけだ。このスペースをどう活用するか」
『そろそろちゃんとしたトイレを作ったほうがいいんじゃない? いつまでの土に埋めるんじゃねぇ』
「それもそうだな。とりあえず一つはそれで決まりとして、あとはみんなの要望を聞いてみるか」
ニイトは石版の部屋を出て聞き込みを開始した。
出会った少女たちに一人ずつ要望を聞いてみる。
美味しいものが食べたい。素材が欲しい、など。一番多かった要望は、クラフトの作業スペースが狭いということだった。ちなみに全員が口を揃えていったしっぽ撫で撫では候補から外した。
これらの意見を持ってロリカ族長の下へ向かう。
一緒に異世界に行くマーシャよりも、一日中少女たちと一緒にいるロリカ族長のほうが現場のことをよくわかっているはずだ。
「――という感じなんだ。ロリカはどう思う」
「とてもありがたいことなのじゃ。作業場が広くなれば、我らはますますニイト殿のお役に立てる。それがドニャーフ族にとって一番良きことじゃ」
嬉しいことを言ってくれる。涙が出そうだ。しかしそれならなおさら、彼女たちに何かを返したい。
「ならば、作業場の増設以外にも自由なスペースがあるといいかな。今はまだ一人に一部屋は用意できないから、四人で一部屋くらいになるけど」
「願ってもない申し出じゃ。あの子たちも喜ぶじゃろう」
なら話は決まりだ。
ロリカのアイデアを元に部屋割りを決めて、さっそく作業に取り掛かる。
で、こんな感じになった。
==========
畑 □ □ □ 個室
畑 トイレ □ 虫材 個室
畑 倉庫 料理 編み物 個室
畑 キノコ 広間 木工 個室
■ 庭 寝室 石工 個室
==========
まずは左側を畑地にまとめた。【エリア連結】スキルを使って四つの畑地を一つにした。これで作物の収穫量や生育速度が1.4倍に上がった。さらに作物の質も同様によくなるらしい。
その過程で仮トイレが消滅したので、代わりにちゃんとしたトイレを設置。
――【トイレ作製】スキルを使用しました。
古代ローマのような水路の上に穴の開いた石の蓋を被せたようなタイプの共同トイレだ。中には水が流れていて、押し流された排泄物は自動的にポイント化される優れもの。
一度に十人以上は座れるし、よく育つ柔らかい葉の草を一緒に植えているのでトイレットペーパーの代わりになるだろう。
そして中段には料理部屋や寝室や大広間などの生活空間をまとめた。あとで風呂も作る予定だ。
左から四列目は少女たちの作業場だ。
石材加工、木材加工、織物・編み細工、虫材加工と、ジャンル別に分けてすっきりさせた。それぞれの部屋の四隅には作業場を設けて、中央は素材の保管場所になっている。
いずれ専門化した職人が登場したら専用のスペースを新設するつもりだ。
最後、一番右の列は少女たちの個人部屋だ。
ニイトは愛すべき家族である少女たちに何かをしてあげたかったのだが、性格も好みもバラバラな少女たちが一律に喜ぶものなんて思いつかなかったので、いっそのこと彼女たち自身に自由に使ってもらおうと考えて個室を用意した。
一つの部屋を四人で分割することになるが、最初はこの広さで我慢してもらうしかない。
ゆくゆくは一人につき一部屋を用意するつもりだ。
ニイトは区割りだけを済ませた個室に少女たちを案内した。
「今日からここがキミらの個室だ。何をしてもいいぞ。好きなように使ってくれ」
何もない殺風景な場所だが、予想外に少女たちは狂喜乱舞した。
「にゃぉ~~! ここがわたしだけのスペース!」
「縄張りキター!」
「誰にも渡さないにゃぁー!」
颯爽と駆け出す少女たち。壁から壁まで10㍍の距離を走り抜けては、けらけらと笑う。
そのテンションの上がり具合に、ニイトのほうがたじろいだ。
そういえば猫は縄張り意識の強い生き物だったことを思い出す。
ひょっとしたら彼女たちは心のどこかで自室を望んでいたのかもしれない。
「壁紙や内装はある程度自由にできるから、同じ部屋の四人で相談して決めてくれ。それと中央の十字路は通り道だから物を置かないでくれよ」
「「「にゃぉ~~~~んっ!」」」
何にせよ、喜んでもらえてよかった。




