2-18
その日、ニイトはハンターギルドで変わった依頼を見かけた。
「穴掘り?」
街の外に大きな穴を掘ってい欲しいという依頼だった。あーくんを使えば楽勝だろう。
しかし目的がわからず気になったので、その依頼人に会ってみることにした。
「何のための穴なんだ?」
「ゴミを埋めるんだよ」
依頼人は街中のゴミを回収して処分するゴミ処理屋さんだった。
広い倉庫のような部屋から溢れたゴミが、隣の空き地に山のように積まれている。
「いつも穴を掘って埋めてるのか?」
「まさか。そんな危険なまねはしないよ。いつもは再利用できるものだけ分類して、後は燃やしているんだよ。でもここのところ森が危険だっただろ? 燃料が高騰して燃やしきれなかったゴミが溜まりに溜まっちまっってよ」
木材不足がこんなところにまで影響を及ぼしていたようだ。
「最近になってからまた森方面に遠征するハンターも増えてきたから木材の価格は下がっていくと思うけど、その前にこの保管場所がいっぱいになっちまう」
「それで苦肉の策として、急場しのぎに埋めることにしたのですね」
「そういうこった」
ならば依頼の本質は穴掘りではなくて、ゴミの処分。
――ハッ!?
そのとき、ニイトは天啓を感じた。邪魔でしょうがないゴミの山。困っている業者さん。何でもポイント化できるあーくん。無限に吸収できるあーくん。ポイントが増えたら猫娘たちの生活もよくなる。全てがうまくいく。
(天職じゃないかっ!!)
これこそ自分に最も相応しい役目だとニイトは確信する。
「よし、整理すると依頼内容は穴を掘ることじゃなくて、処分に困ったゴミの廃棄なんだな?」
「ん? まあ、そういうことになるな」
「ちなみにこの倉庫内のゴミと隣のゴミ山は全部廃棄していいのか?」
「そうだ」
「なら、ここにある全てのゴミを廃棄できたらどのくらい報酬をもらえる?」
「おいおい、何言ってんだよ? このゴミの量が見えねぇのか? もしもそんなことができるなら、銀殻20枚、いや30枚出しても構わねぇよ」
結構高いな。
「ずいぶん高いな」
「そりゃ切羽詰まってるからな。それに穴を掘ったら次は輸送する人を雇わなけりゃなんねぇ。高騰した薪を買うのと比べても、この値段ならむしろ安上がりだろうよ」
「よしわかった。銀殻20枚で請け負おう。このゴミの山を綺麗さっぱり消してやるよ」
「はぁ!? あんた正気か?」
まあ、いきなり言われても信用できないだろうさ。
「まあ、普通は信じられないよな。だが、俺には秘策があるんだ。企業秘密だから内容は教えられないけど、勝算はある。だから前金はいらないよ。もしも失敗したら軟殻1枚も要求しない。完全に成功した場合のみ報酬が発生する。これならあんたにリスクは何もないだろ?」
「そこまで言うなら……」
胡乱な視線を向けながらも、ゴミ業者はニイトの話に乗った。
そしてその日の深夜。
人々が寝静まり人気のなくなったゴミ山で、あーくんが大活躍する。
――壊れた土器 129個 査定額……1408ポイント。
――腐った虫の死骸 3091個 査定額……3863ポイント。
――破損した虫の殻 2万7159個 査定額……9万6210ポイント
――サソリのしっぽ 2390個 査定額……69万1072ポイント。
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「ぅぉっほっほっほ!」
笑いが止まらないニイト。
ゴミの山は宝の山だったのだ。
いつだか、酒場の商人にアドバイスを受けたことを思い出す。ビジネスチャンスは自分の足で探せと。その通りだったな。いろいろ動いているうちに天職を発見したよ。
最終的に、一晩で400万近く稼げた。そして堆肥や使えそうな素材も多数入手できた。うん、おいしい。
翌朝、目を点にして棒立ちになるゴミ収集業者にニイトは言う。
「支払いの準備はしてきたかい?」
「う、嘘……だろ?」
すぐには用意できないとのことなのので、後でギルドに振り込んでもらうことになった。
「それと相談なんだけどさ、これから定期的に俺に仕事を回してくれない? 今回みたいにさ、使える素材を全て抜いた燃やすしかない本当のゴミだけでいいから、俺に処理させてよ。引き取り料金も安くしておくよ。薪を買う金よりは安くするからさ。あんたは薪代が浮いて時間と労力も節約できるし、悪い話じゃないだろ?」
「そりゃ、願ってもない話だよ」
ニイトたちはがっしりと握手をした。
まさしくwin winな関係だ。しかも木材資源の節約にもなり、環境にも優しい。素晴らしいシステムだ。




