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投稿したはずが確認画面だったというw;
第2章 食糧問題の救世主
「よし、それじゃ行くぞマーシャ。準備はできてるか?」
「はい。どこまでもニイトさまについていきます」
ついに新たな異世界へのゲートが開けるようになり、ニイトとマーシャは石版の前で手を繋いでいた。
『ちょっと待って』
「何だよノア。今せっかく気分が乗ってきたところなのに」
『あによ、せっかく善意で忠告してあげようと思ったのに』
「忠告って?」
『あんたたちが次に向かう世界が安全な世界とは限らないでしょ? ニイトは短剣を持ってるからまだいいとして、マーシャは無手じゃ危険かもしれないでしょ?』
そう言われれば確かに危ない。転移したと同時にまた魔物に襲われる可能性だってあるのだ。手ぶらでマーシャを連れて行こうとしていた浅はかな自分をニイトは恥じた。
「確かにリスクが高いから、まずは俺が一人で行って様子を見てくるよ」
『それも一つの案だけど、もう一つ耳寄りの情報があるわ』
ノアは光の掲示板にとあるリストを並べた。
「これは?」
『ポイントで買える武器や魔法のリストよ』
ニイトは目を見開いた。
「魔法が買えるのか!? 詳しく教えてくれ!」
『最初からそのつもりよ。そうね、まずは結論から言えば、ある程度のポイントがあれば、回数制限付きの魔法を取得できるわ』
「回数制限ってことは、一度覚えれば魔力の続く限り無尽蔵に撃てるわけじゃないのか」
『そういうことになるわ。一つ例をあげると、最も初歩的な攻撃魔法である《魔法の矢》は、初回に30万ポイント払うことで習得できて、その後魔力の充填を一回1万ポイントでできるようになるわ』
「一回の充填で何発撃てるんだ?」
『それはその人次第よ。魔力適性の高い人ほどたくさん撃てるようになるわ。さらに言えば威力や有効射程や発動速度なんかも適性によって左右されるの』
自分がどれだけ使えるかは購入してみるまでわからないということか。
「ずいぶん曖昧なシステムなんだな」
『ま、多少の不便は仕方ないわ。でもその代わりこの魔法は特別製でキューブ内はおろか、どの異世界に行っても使えるわ』
言われてみてニイトは始めて異世界の環境について考えてみた。漠然と異世界はどこも似たような環境だと思い込んでいたが、ひょっとしたら世界によってまちまちなのかもしれない。
「ひょっとして、魔法のない異世界とかもある?」
『あたりまえじゃない。世界によって魔力の有無も性質も濃度も、何もかも違うわ。そんな多様な異世界を渡り歩くにあたって、どの世界でも安定して使える魔法がこのキューブ魔法なのよ。原理としてはキューブのエネルギーを魔法に加工したものだから、使用するためには必ずポイントが消費されるけど、その代わりたとえ魔力のない世界であっても問題なく使えるわ』
「それなら大きなアドバンテージになるな!」
世界ごとに異なる魔法概念を一々探っていたら時間と労力がいくらあっても足りない。その点、どの世界でも共通で使える魔法があればこれ以上便利なものはない。
「よし、試しにマーシャに覚えさせてくれ」
「そ、そんな高価な魔法をニイトさまよりも先に受けるなんてできません!」
マーシャは大仰に首を振って遠慮するが、
「俺にはマーシャがくれた短剣があるからさ。今度は俺がお返しをする番だよ」
「で、でも……」
「リスクを下げる為に受け取って欲しい。だって、マーシャが大事だから!」
「わ、わたしが、大事……、あぅぅ」
ニイトが肩を掴んで力説すれば、マーシャは顔を紅潮させながら頷いた。
『話は決まったわね。それじゃ紋章を刻むからパネルにタッチして』
マーシャが選択すると、光の球体が弾けてマーシャの全身を包み込む。そして体表面を流れるようにして光が指先に集結し、最後には左手人差し指の爪の中に小さな魔方陣のような紋章となって定着した。
「これは?」
『魔法の発動紋よ。普段は見えないけど、魔力を通すと反応して発色するわ。キューブ魔法は当人にしか使えない設定にするために、体の一部に紋章を刻むことになってるの。それと、いまあなたの魔法適性をざっと調べてみたけど、よかったわね。かなり優秀な部類よ』
ノアは石版の表面に光文字でステータス画面を出した。
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名前 :マーシャ
魔法適性 :B+
MP :D
強度 :A
射程範囲 :B
操作性 :C
消費効率 :B+
発動速度 :C
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「へー、RPGみたいでわかりやすいな」
「あーるぴーじー、って何ですか?」
「俺の世界で流行っていた遊びの一種だよ。このステータス画面を見てその人の得意分野や苦手分野を分析するんだよ。マーシャの場合はパワーもレンジもあるから、中衛や後衛からの攻撃がはまりそうだな。これといった弱点もなさそうだし、唯一スタミナが低いことが気になることろか」
「そんなことがわかるんですね」
ニイトの分析にノアが補足する。
『これはあくまで参考程度のモノだから、正確な情報ではないわ。いちおう魔法が発展している幾つかの世界から取ったデータの平均値に合わせて割り出したものだから、それなりの精度だとは思うけどね。ちなみに魔力のスタミナに該当するMPはキューブ魔法には関係ないから無視していいわ。そうなると本当に弱点らしい弱点が見当たらないわね。強度は攻撃力だけでなく、防御魔法の耐久力や回復魔法の効果にも反映されるから、何をやっても優秀な使い手になれそうよ』
「わたしって、そんなに魔法の才能があったんですか!?」
『でも、いくら才能があっても努力しなければ成長しないわよ。たとえば――』
ノアはステータス画面を変化させた。
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名前 :魔法の矢
ランク :☆
レベル :1
残り回数:80/80
威力 :D
攻撃範囲:E
命中率 :E+
攻撃速度:C
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『さっきのステータスと比べてずいぶん低いでしょ? 魔法は使い続けてレベルが上がるごとに強くなっていくの。だからどんどん使って経験を積むといいわ』
魔法ごとにレベルがあるのなら、そのうち使う魔法を選別する必要が出てくるだろう。
「よし、それじゃさっそく異世界に行って試し撃ちをしてみようじゃないか」
『次はどんな世界がいいかしら?』
「そうだな。とりあえず食糧事情を完全に安定させたい。安価で栄養価の高い食料が豊富に手に入る世界がいい」
『わかったわ。それじゃ検索してゲートを繋げるわね。一応言っておくけど、今はゲートを一度に一つしか開けないから、マーシャの故郷にはしばらく戻れないわよ?』
もともと生存の難しい環境だし、問題ないだろう。ニイトがマーシャの顔を確認すると、静かに頷いた。
『了解。ちょうど繋がったわ。それじゃ行ってらっしゃい。良い旅を』
重そうな石版がゴゴゴと左右に割れて光のゲートが生まれる。
ニイトとマーシャは手を繋ぎながら、その門をくぐった。




