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異世界創世記  作者: ねこたつ
1章 幕間
22/164

1-21

 二日目。

 早起きな少女たちにせかされて、ニイトは眠気まなこのまま廃材を購入。

 少女たちはクラフトに目覚めてしまったようで、水を得た魚のように生き生きと物作りに励む。

 しばらくその様子をうとうと眺めていると、一人の少女が近づいてきた。

「にいとさま、これ」

「ん? くれるの? どうやって使えばいい?」

「頭の下に敷くと、楽に眠れる」

 木の樹皮をまとめて縛ったような形状だが、たしかにこれは枕のようだった。

「おお、ありがとう! ちょうど欲しかったんだ」

 ニイトは枕を受け取ると、少女の頭を撫でた。気持ち良さそうにはにかむ少女。

 瞬間、他の少女たちが一斉に視線を向けた。ギロリと、獲物を見つけた狩人のような鋭い視線だった。

「わたしも、つくる!」

「もっと大きいのつくる!」

「にいとさま、他に何が必要?」

 一斉に詰め寄ってきて質問攻めにされる。

「ちょっとみんな、落ち着いて。そうだな。寝るときに床に敷く柔らかいものがあったら嬉しいかな」

「「「それ、つくる!」」」

 やる気が漲っている少女たちの迫力におされて、ニイトは柔らかそうな素材を追加で購入した。繊維質な草、藁、綿花に近い植物。そりゃ、もうたくさん。

 あっという間に素材の山が消えていく。数時間もすれば完成品の第一号がやってきた。

「できた。これに乗る」

 藁束を編みこんだ『むしろ』のような形状をしていた。

「これはたしかに地面よりも柔らかくて、束ねた藁が体重を支えてくれる。寝やすいよ、ありがとう」

 少女は嬉しそうに微笑むと頭を傾けてくる。

 撫でろ、ということだろうか。

 ニイトが撫で撫ですると、猫耳がプルプルと震えた。嬉しいのかな?

「次はわたしのなの!」

 続いて第二号。

 今度は柔らかい樹皮を剥いでひっくり返したような見た目だ。内側の綺麗な部分を表にすることで肌触りがよい。さらにその下には細かく裂いた植物繊維が敷き詰められているので、想像以上のふかふか感が得られる。

「これも柔らかくて気持ちいいな。木の香りが心を落ち着けてくれる」

 少女は誇らしげに頷くと、頭を差し出す。

 撫でり、撫でり。

 そんな感じで次から次へと自作の寝具を持ってくる少女たち。ニイトに頭を撫でられると幸せいっぱいの表情になる。

 何この子たち、可愛い、天使過ぎる。

 広場はあっという間に寝具でいっぱいになった。

 しかし、そんな幸せなひと時は、一人の少女の無邪気な発言によって唐突に終わりを向かえる。

「誰のが一番寝やすかった?」

 瞬間、しん……と静まり返る広場。

「わたくしのに決まってますわ」「みゃーのだよっ!」「わたしだって……」

 ああ、まずい。どんどん雲行きが怪しくなっていく。どういうわけか、キューブの天井もどんよりとした暗雲が立ち込める。

(おいっ! ノアてめぇ! 余計な演出をするな!)

『あら、何のことかしら?』

 イタズラを企てた子供のような口調で言われれば、鈍感なニイトでも本意に気付く。

(お前、面白がってるだろ!)

『いいじゃない。正直に言えば』

(そんなの言えるわけないだろ! こんな愛らしい天使たちが傷付く姿など見たくない)

 しかしこのままでは少女たちの間でケンカが起こってしまいそうでもある。そんな光景もまた見たくない。

 ニイトは助けを求めるようにマーシャを見た。

「マーシャ、どうしよう?」

「ニイトさまの御心のままに」

 それが一番困るんですよー! 元ニートにとって責任を背負うことほど苦手なものはない。

 すると、一人の幼女の声が響いた。

「みなの者、静かにするのじゃ」

 族長のロリカだ。よく通るロリ声で場を静める。

 さすがは族長様だ。ここは一つ、穏便に治めてください!

「みなも知っている通り、ニイト殿には物の価値を判断する力がある。それで白黒付けようではないかっ!」

「「「にゃおぉー!」」」

「何で煽るんだよっ!」

 くそう、合法ロリめ! 逆に厳しい立場になっちゃったじゃないか。

 もう、こうなったら仕方ない。やけくそだ。

「そんなに言うならやるけど、だったらみんなにも協力してもらおう」

 ニイトはあーくんの売却価格と合わせて、全員に一人一票を投じてもらうことにした。

「言っておくけど、自分の作品に投票するのはなしだからな」

「「「――ビクッ!」」」

 一斉に猫耳をぶるっと回す少女たち。わかりやすい。

 そういうわけで寝心地を確かめる為にごろ寝大会が始まった。

 ちなみに作品は全部で18種類。マーシャとロリカ族長は審判役に回った。

 ライバルたちの寝具を一通り試した少女たちは、一人ずつロリカに投票者の名前を告げた。そしてそして集計はマーシャが管理する。

 次にニイトが一つずつ【売却】していき、売値を計測する。売値が低い順に1から並べて、その順位の数字をそのままポイントとして加算する。

 そうして全ての判定は終わった。

「結果発表! 第3位、エリン。第2位メイ。そして、第1位は…………キティ!」

「ニャぁああ! やったニャ!」

 わぁーー! っと歓声が広がり、一位に選ばれた少女が飛び上がって喜ぶ。

 勝者には名誉が与えられなければならないので、ニイトはたくさん頭を撫でた。

「しっぽも、撫でるニャ」

 少女がご所望なので、しっぽを握って引っ張るように撫でる。

「にゃぅッ! ふにゅぅ~~」

 熱いと息を漏らしながら、少女は腰が砕けたようにへたりこんだ。

「あぁー!? しっぽをなでなでしたっ!」

「ずるい!」

「しっぽは反則なの~!」

 少女たちは猛抗議した。

「え? 何かまずかったのか?」

 理由がわからずに慌てるニイトは教えてくれそうな人に顔を向ける。

 マーシャは口元を押さえながら頬を染めて、

「い、いえ。素晴らしいことだと思います!」

 ロリカのほうは目をギラギラさせてもっと興奮した様子で、

「はぁはぁ、何の問題もないのじゃ! むしろもっと握ってほしい。わらわを含めたみんなのしっぽを! はぁはぁ」

 本能的によくない雰囲気を感じ取ったニイトは、その提言を退けた。

 しかしこのまま素直に引いてくれない少女たちによって、次からも品評会を行うたびに優勝者のしっぽをなでなですることを約束させられた。

 その言質をもって、何とかこの場は収まった。

 すると少女たちはすぐさま自分の作品に足りなかった要素の分析を始めた。

「柔らかさではわたしの方が上だった。何がいけなかったのかしら?」

「柔らかいだけじゃダメ。程よい反発もないと」

「表面のささくれをもっと丁寧に取っていれば……」

「継ぎ目のぶつかりが気になる。もっとなめらかにしないと」

 落ち込む子や悲しむ子が出るかと思って心配していたが、どうやら杞憂だったようである。少女たちは前向きでたくましく、向上心の塊だった。

 そんな少女たちに慕われて、ニイトは言いようのないじんわりした幸せを感じた。




 その日の午後は、優勝したキティのアイデアをもとに、寝室の床一面に全員でむしろを敷くことになった。せっかく生まれたアイデアなのだから、即座に全員の利益の為に還元する。幸せは、みんなで分かち合うものなのだ。

 というわけでその日の夜、寝具の寝心地を確かめる為にニイトも一緒にみんなと雑魚寝した。

 たくさんの猫耳に包まれて寝るなんて、犯罪的な贅沢だ。――が、

「スー、スー、――ガッ!?」

 脇腹に鈍い衝撃を受けてニイトは夜中に目を覚ます。横で寝ていた少女のかかとがめり込んでいた。

 しかし相手は爆睡中の少女で怒るわけにもいかず、ニイトは寝返りをうって反対を向く。すると、

「グホッ!」

 こんどは顔面に裏拳を叩き込まれる。鼻頭を押さえながら涙を滲ませるニイト。気持ち良さそうに寝息をたてる少女にもちろん害意はない。

 たまらずに戦線を離脱しようと立ち上がるが、

「ギャッ!」

 足首を刈られて転倒。さらに絶妙なタイミングで後頭部に膝蹴り。

 本能がヤバイと告げているニイトは四つんばいになって出口に向かうが、判断が遅れた罪は大きく、――――股間を強打。

「――ッァァァァァアアアアアア!!」

 泡を吹いて悶絶し、のたうちまわる。さらに右から、左から、容赦なく少女たちの追撃が飛んでくる。悪意ゼロの滅多打ち。

 何を隠そう、ドニャーフ族の少女たちは、恐ろしく寝相が悪かったのである。

 そういえば猫はありえない格好で寝る生き物だったと、遅ればせながら思い出した。

 ほうほうのていで逃げ出したニイトは、結局石版の部屋に退避して一人で寝ることになった。

『ご愁傷様』


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