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異世界創世記  作者: ねこたつ
1章 幕間
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1-18


「なあ、次の異世界に行く前にポイントを増やすにはどうしたらいいんだ?」

『普通の商売と同じよ。原料を安く購入して、加工して付加価値を付けて、高く売る』

「なるほどね。しっかし俺に作れるものなんてあったかな」

『別にあんたが一人でやる必要はないわ。あの子たちにも協力してもらえばいいじゃない』

「それもそうか。なら種まきが終わったら聞いてみよう」

 マーシャに連れられて少女たちがやってくると、ニイトは種まきの指示をだした。

 手で畝を作り、種を撒き、水撒きと手洗いを兼ねて濁った水を購入して配った。

「土って水をかけるとぐにゃぐにゃになるのね」

「ぎゅっ、ってやると硬くなるニャ」

「叩くとぺちっ、て音がする」

 水と土をこねる経験すらなかったように、少女たちははしゃいでいた。

「こらこら、ちゃんとタネを撒くんだぞ」

「「「はいにゃ~」」」

 とりあえず一通りの作業は終わった。あとは生育するのを待つのみ。

 他にやることもなくなったので、一度庭に戻ってこれからのことを相談する。

 全員で輪になって座ると、ニイトが話題をきり出す。

「ドニャーフ族って何が得意なんだ?」

「「「……うーん、寝ること?」」」

 一斉に返ってきた返答にずっこけそうになる。座っていなかったら危なかった。

「他にないのかよ! 今までに生産的な仕事とかしてこなかったの?」

 ロリカ族長が代表して答える。

「我らは資源も食料も満足にない土地で、ただひたすらに生き延びることだけを優先して生きてきたのじゃ。ゆえに、必要最小限の活動だけをしつつ、それ以外の時間は体力の消費を抑えるために寝ておった。ま、広い意味では人類規模で冬眠していたともいえようか」

「あー、なるほどね」

 極限まで制限された過酷な環境で生存するには、ある意味そうするしかなかったのかもしれない。きっと彼女たちは何かをしたくてもその環境ゆえに何もできなかったのだろう。

何でもできる環境にいながら何もせずにぐーたらしていたどこぞの誰かとは違うわけだ。

 そう思い至ったニイトは、今まで窮屈な世界で押さえつけられていた彼女たちに好きなことをやらせてやりたいと思った。

「じゃあさ、何かやりたいことはある?」

「うーむ、急に聞かれても……、今までに考えもしなかったことじゃしの」

 ロリカは歯切れ悪く唸る。他の少女たちも同じか。

「マーシャは?」

「わたしはニイトさまのお傍にいられるだけで幸せです」

 きゅん♪ ってした。守りたい。いつまでも。

 しかしそれはそうと困ったことになった。要望がないのであれば叶えようもない。

 それではこの子たちに幸せを与えることができない。どうしたものか。

 ニイトは記憶を辿るように目を閉じる。何かヒントはないものかと、思考に耽る。

(なあ、ノア。何か案はないか?)

『やりたいことがないなら、新しく作ればいいじゃない』

(たとえば?)

『そうね、この子たちって複数の種族の血が混じっているのよね? だったら、それらの種族が興味を引きそうなものを考えてみたら?』

 なるほど。

「なあ、ドニャーフ族って珍しい混血だよな。それぞれのご先祖さまたちって何をしてたんだ?」

「わらわが知る限りでは、猫獣人族は優れた身体能力を武器に自由気ままに生きて、ドワーク族は優れた職人を多く輩出したとか。エロルフ族は優れた魔法の使い手として名を馳せ、フェアリー族は草花を愛して自然と共に生きたとか。――しかし残念ながらわらわたちが生まれたときには既に人類は絶滅寸前で、ご先祖さまたちがどのような生活をしていたのかは知らぬのじゃ」

 話しを聞く限りではドニャーフ族とはかなりのサラブレッドのようだった。何をやらせても非凡な才能を発揮しそうではある。

 そのとき、一人の上品そうな少女が恐る恐る手を挙げた。

「服を作ったときが、嬉しいですの」

 そういえば資源もない世界で彼女たちが服をこしらえていたことを思い出す。

「貴重な意見をありがとう。ところで服はどんな繊維で編んだんだ?」

「しっぽの抜け毛を使いますの」

 驚愕の事実だった。そういえばやけに薄くて珍しい手触りのローブだとニイトは思い出す。売っちゃったよ、もったいない。

「一着作るのにどれくらいの時間がかかるんだ?」

「う~ん、一生?」

「へ?」

 予想外の長期計画。理解が及ばずに固まっていると、ロリカ族長が補足する。

「我らは十年から二十年くらいの周期で転生を繰り返すのじゃよ。そのたびに、以前の一生で抜け落ちた猫毛を使って新しく服を編むのじゃ」

 一生に一着かよ。時間の感覚がおかしくなりそうな話だった。

 しかし、突破口は見えた。

(ノア、何でもいいから、安く手に入る素材を買ってくれ。できるだけ量が多いものがいい)

『ちょうどいいのがあるわ。木や石などの廃材を集めたセットが』

 ――廃材セット 50kg 購入額……2000ポイント。

 みんなで輪になって座っていた中央に、多量の廃材が現れた。

 少女たちは猫耳をピクピクと向けて、興味しんしんといった面持ちだ

「みんな、これで好きなものを作れ!」


     ◇


 たくさんの猫耳たちが廃材の山に群がる。その姿はまさしくおもちゃを与えられた猫。

「見たことのない石だわ」

「いろんな色があるわね」

「ザラザラした木と、つるつるした木があるよ?」

「木って、こんなに種類があったんだぁ」

 狭い結界の中に閉じこもっていた彼女らには、こんな廃材でも興味を引かれる珍品に映るのかもしれない。

 ニイトはそれらの山から手ごろな石を取ると、

「ほら、こんな感じに叩くと石の端が鋭く尖るだろ? これを使うと木の皮を簡単に剥がせるぞ」

 一度実践して見せれば、少女たちは「私もやる」と次々に真似をする。

 人類が初めて作った道具といえば石器だろう。さらに石の斧やナイフで植物を様々な用途に加工していたに違いない。

 庭の中で石と石がカンカンと叩かれる音が無数に生まれる。

 ニイトは剥いだ植物の樹皮を縦に細く裂いて強度を確かめると、二本の繊維をよじり合せて紐にしていく。

 完成したものを左右に引っ張れば、それなりの強度があった。

「にぃとさま、それなに?」

 年端も行かない少女が尋ねてきたので編み方を教える。

「こう持ってねじるんだ。それでこうやって交差させて――」

 幾つかアドバイスしただけで、少女はすぐに紐を編めるようになった。そしてすぐ友達に覚えたばかりの編み方を広めて行く。やはり手先が器用で物作りに向いた種族のようだ。

「はぃ、にぃとさま、あげる」

「お、くれるのか。ありがとう」

「あたしのもあげる!」

「わたしも、わたしも!」

 ニイトのそばに、次々と加工物が積みあがっていく。

 気付けば購入した廃材はほとんどに手がつけられていた。

「もう石ないの?」

「木は?」

 そしてまだまだ遊び足らないと、天然素材を求めてくる。

 しかしポイントの少ない今は無尽蔵に与えられるわけではない。そこで、

「次の材料を買うために、前の材料は売ってもいいか?」

「「「いいよ~」」」

 了解を得たところで売ってみると、

 ――――売却額 合計 1640ポイント。

 う~む。少し赤字になってしまった。

 だが、次の材料を求めて瞳をキラキラさせる猫耳少女たちの誘惑に負けて、ニイトは再び廃材を購入した。

「「「にゃぁ~~~ぉ!」」」

 一斉に群がる少女たち。

 たぶん、作製技術が上がれば商品価値も上がるはずだと、今は少女たちのポテンシャルを信じるしかない。


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