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異世界創世記  作者: ねこたつ
7章 前半
162/164

7-18

怪我をしてしまってしばらく更新できませんでした。

キーボードを叩ける時間が短くなっているので、もうしばらく更新速度が遅れそうです。

楽しみにしていてくれた人には申しわけないです(≧л≦;)

「それにしてもずいぶん広い階層だな」

「ピラミッド型拡張説って説明したでしょ? 忘れたの?」

「覚えているけど、頭の中で計算した広さと、実際に自分の足で歩いた実感はまったく違うな」


 0階層の25倍の広さ。一つ前の1層からしても3倍弱もある広さだ。わかっていいても広く感じてしまう。なんたって諏訪湖2つ弱に匹敵する面積だもの。

 全体的にゴツゴツした礫砂漠を思わせる風景は、なだらかな丘陵が続いて歩きやすいものの、ひとたび起伏の激しい山岳地帯に入ると進軍速度は大きく遅れる。

 飛行の魔法で飛んだほうが早いのだが、岩陰に隠れていたモンスターに不意打ちを受けたらたまらない。《索敵》を行いながらの慎重な探索となった。


「――!? 風の音が変わりました。注意してください」


 マーシャが何かを感じ取り、緊張が走る。

 ゆっくりと進むと山の斜面に大きな穴が開いていた。


「大きな洞窟だな。敵の反応はあるか?」

「いや、我の《索敵》には引っかからない」

「どうしよう。入ってみようか?」


 危険かもしれないが、敵の反応を感知したら戻れば良い。調べないことには何があるのかわからない。

 光石のランプを掲げて、下り坂を下りていく。

 数分歩き続けてもまだ行き止まりが見えない。むしろ内部に降りるごとに広くなっているような気さえする。

 なおも進むと、地面の感触に違和感を覚えた。規則的で人工的な感触だった。


「なあニイトはん。これって中間層の壁と同じとちゃう?」

「本当だ。ここって2層だよな? どうしてここにこんなものがあるんだ?」


 ローラに視線を向けると、特に驚いた様子はなかった。


「別に不思議なことじゃないわ。大転動の際に交換されたのよ。中間層のブロックって、それぞれの階層に移動するとどういうわけか地下に埋まっていることが多いのよね。でもま、実際に地面に穴が開いていて階層の中で見るのは珍しいかもしれないわね」


 なぜだろう。景観を良くするためだろうか。


「あ、入り口もあるな。中に入れるで」

「敵の反応もない」


 ならば入ってみるか。

 見慣れた中間層のブロックを通ってさらに地下に降りる。

 するとそこにはさらに広大なドーム状の地下空間が広がっていた。

 壁面に天然の光石がむき出しになっていて、地下だというのに明るい。透明なクリスタルのような石が互いに反射して色合いを変化させるので、いっそ幻想的とすら言える。


「ねえ、見て。天然の魔水よ。このあたりの魔石に含まれる魔力が水に溶け出て再結晶化しているわ」


 ローラが指差す先には天井からは鍾乳石のようなつららが何本も垂れ下がっていて、そこから雫がこぼれ落ちていた。地面に落ちた雫は固まって天然の魔石となり、長い年月をかけて成長した魔石はかなりの大きさになっている。


「マーシャ、あの大きさの魔石ならいけるんじゃないか?」

「十分すぎるほどです」


 オレンジ畑をビニールハウス化するのに必要な大きさの魔石がようやく見つかった。

 すぐさま入手に向かう。どういう原理なのか綺麗な卵型になった大玉の魔石に手をかけて、土台部分の細い支柱を割って切り離す。


「立派な魔石だ。もう一つくらい採っていくか」


 その瞬間、オリヴィアが叫んだ。


「敵だ! 複数いるぞ!」


 場に緊張が走り、一斉に杖や武器を構える。

 さっきまでは全く《索敵》に引っかからなかったのに、突然現れたのはどうしてか?

 その正体は地下空洞に散在している無数の魔石だった。

 地面に落ちていた魔石の破片や、壁に埋まっていた魔石がひとりでに浮かび上がり、魔力の渦が集まっていく。


 おろらく魔石を奪ったことがトリガーとなって眠っていたモンスターを呼び覚ましたのだろう。

 すぐさま辺りには火の玉のようなモンスターが無数に現れてニイトたちを取り囲んだ。


「ウィスプよ! 物理攻撃はほとんど効かないわ!」


 ローラがモンスターの情報を教えてくれたので、ニイトはポール・アックスを収納して杖を二本構えた。


「退路の確保を優先しろ!」

「ダメや! 後ろはいの一番に塞がれてもうた!」

「くっ……、閉じ込められたか。相手はこの地形で戦い慣れているな」


 ニイトらだけなら【帰還】すれば全ての問題は解決するが、ローラを置いていくわけにはいかない。


「まずは敵の数を減らす。方円陣を組め」


 ローラを中心にそれぞれが背中合わせで円周状に並び、全方位を警戒する。背後からの奇襲を受けない代わりに、こちらから積極的な攻撃もできない。


「ローラ、レギオンを」

「わかったわ」


 ――〈ロック・レギオン〉


 地面の岩肌が溶けるようにローラの足元へ集まり、液体のように揺れ動きながらゴーレムを形作る。


 空中を揺ら揺らと漂うウィスプは、ローラのレギオンが完成する前に先制攻撃を仕掛けてきた。ニイトらはローラを守る為に密集して防御を固める。

 ウィスプが撃ってきたのは野球ボール大の魔法球だった。単発で終わることはなく、何発も連続して撃ち出す。


 ニイトらは杖に集めた魔力で障壁を展開して防いだ。下手に避けると背後のローラに被弾する可能性があるから、今はこのまま魔力を盾にして受けきるよりない。


(攻撃力はそれほどない。動きも早くはない。ただ、手数が多い)


 敵の連続攻撃が切れたタイミングでニイトは反撃の魔法を放つ。

 狙い済ました一撃は見事に直撃。

 火の玉のように魔石の周囲を覆う魔力のうねりが、一瞬かき消えそうに弱まり、ストンと落下して高度を落とす。が、地面に墜落する前に持ち直したようで、再燃して上昇していく。


(一撃では沈まない)


 追撃を仕掛けたいが、別のウィスプがその隙を狙っていて撃てない。


「我に任せろ。――《範囲魔力障壁》」


 オリヴィアが五人を覆う範囲に障壁を張る。


「ナイス、オリヴィア」


 攻撃に専念できるようになったニイトは、一匹のウィスプを狙い撃つ。

 二発、三発と連続して当てると、魔力の渦が消え去って、残った魔石が地に落ちた。しかし、その魔石の内部にはまだ魔力の光が宿っていた。数秒ほど経過すると復活して、再び魔石の周囲を魔力で覆った。


「しぶといな」


 完全に復活する前に追い討ちをかける。再び魔石がむき出しになった状態で、さらに攻撃力を強化した

〈魔法の矢〉で射抜く。


 すると魔石の中の光が靄のように蒸発して霧散した。

 しばらく様子を見たが復活する気配はない。どうやら魔石内部の魔力が本体のようだ。


「魔石の中に本体がいるぞ」

「「「了解」」」


 攻略法はわかった。

 オリヴィアが全員分の障壁をはっている間に、ニイトたちは猛攻を仕掛ける。

 マーシャが三匹。アンナが二匹。ニイトも二匹を討ち取る。しかしウィスプの群れは五分の一も減っていない。


「くっ! もう障壁が持たない」

「よくやったわ、オリヴィア。あとは私に任せて!」


 オリヴィアの障壁が消えると同時に、ローラが壁役のゴーレムを作り終える。すぐさまニイトらの前に岩のゴーレムが立ち塞がり敵の射撃を防ぐ。

 大きな盾を得たニイトは攻勢を強め、徐々に前進して戦線を押し返す。流れ弾に当たらず、仲間の援護もできる距離感に方円陣を広げて、徹底抗戦の構え。


 ニイトはゴーレムの背後に身を屈めて敵の射撃をやり過ごしてから、一瞬だけ脇から杖を伸ばして射撃。

 腕の横を敵の魔法弾が掠めて背後の地面が爆ぜるが、こちらもお返しとばかりに〈魔法の矢〉を連射した。頭上ではゴーレムに魔法弾が被弾した破裂音が響き、外殻が削られてボロボロと砂礫が舞い落ちる。


 撃っては隠れ、また撃っては隠れる。

 現代の銃撃戦のように中距離から激しく撃ち合う展開になり、無数の弾幕が戦場を飛び交う。そこらじゅうから射撃音がひっきりなしに鳴り響き、削れた砂の匂いが風圧に乗って辺りに充満する。

 球数は数に勝る敵軍が圧倒している。だが、射撃の腕はニイトらに軍配が上がる。キューブの射撃場で毎日のように特訓をして来たのだ。そんじょそこらの火の玉ごときとはAIM技術が違う。

 的確な狙いと効率的な立ち回りで、一匹ずつ数を減らしていった。


 マーシャ、アンナ、オリヴィアも同じく着実に敵を撃破していく。

 するとウィスプに変化が訪れた。

 魔石を包む魔力が白色に変化した。

 その状態で魔法の攻撃を受けると、今までは吹き消されそうな火のように弱まっていたのが嘘のように動じなくなった。それどころか、火力を増すように体積が大きく成長した。


「魔法を吸収しているわ!」


 中央から戦局を見渡していたローラの声に反応して、ニイトたちは一斉に射撃をやめた。

 ゴーレムとの戦闘と同じだ。魔力を吸収するようになった。


(どうすれば? 接近して物理は弾幕が多すぎてリスクの方が高い。魔法で物理攻撃? 属性攻撃か!)

「元素魔法に切り替えて!」

「「「了解!」」」


 ローラに指示を任せて、ニイトは新しく覚えた《属性付与》の魔法を使う。

 右手に構えた杖が青く光り、左手の杖は緑に光る。


「さあ、どんなものか、見せてもらおう!」


 それぞれ水と風の属性を付与した杖で撃ちまくる。効果時間は僅かなので、時間いっぱい撃ちまくるつもりだ。


「危険よ、ニイト! 出過ぎないで!」


 一瞬だけローラの指示を無視して、ニイトは全弾撃ちつくす勢いで連射する。

 攻撃に全振りしたので、敵の射撃は避けるしかない。杖先は敵に向けながら、ゴーレム同士の間を走り抜ける。目の前やからだの脇を敵の射撃が通り抜けていくが、最小の動きで回避。完全に射線に入ってしまったときは、全身のバネを使って筋肉をしならせ、かなり無茶な体勢になりながらも避けきる。

 最後は地面を転がりながらゴーレムの影に隠れた。


「ニイトっ! なんて無茶なことをするのよ!」

「男には突発的にスリルを味わいたくなる本能があるのさ」

「バカな生き物ね! 一発頭に穴が開けば、そんなバカな考えも治るんじゃない?」

「そのときは優しく看病してくれよ」

「バカっ!」


 しかしさすがに無茶だったか。よく見ると腿の外側に掠っていた。


「ニイトさま、すぐに回復します。――《快癒》」


 戦場の反対側にいたマーシャが回復魔法を飛ばしてくれた。レベルが上がったことで遠くの味方をも治療できるようになったのだ。


「ありがとう。そっちはどうだ?」

「ウィスプの色がまた変わりました」

「何!? どんなだ?」

「青と緑が多いです!」

「我のほうもだ! 緑が多い!」

「うちのほうは赤ばっかりや!」


 全方向でウィスプたちが一斉に変化し始めた。原因はおそらく自分たちが属性攻撃を始めたからだろう。ニイトのほうも青と緑のウィスプが増えてきた。杖に纏わせた属性と同じ色。ということは、多く受けた属性攻撃の耐性を得たと考えるのが自然か。


「あかん! うちの〈火球〉が吸収されてもうた!」


(マズイな。吸収能力持ちか)


「赤いヤツだけか? 緑のはどうだ?」

「やってみる。――お! めっちゃ良く燃えたで!」

「属性の弱点を突けば良いみたいだな」

「よっしゃ! どんどんいったるで。って、うちの周りに赤いのと青いのがめっちゃ集まってんねんけど!?」


 緑ウィスプが多い現状で最も警戒すべきは火。そのせいでアンナの周囲に相性の良い色が集まってきたのか。


「今援護に行く」


 駆け出そうとしたニイトは、緑ウィスプが奇妙な動きを見せたことに気付いた。

 緑だけが一箇所に集まっていく。そして魔力の光を空中の一点に集めて、若葉色の魔光をどんどん強める。


「まさか!? 全員、攻撃に備えろ!」


 ニイトが叫んだのとほぼ同時に、暴風の渦が吹き荒れた。十数匹の緑ウィスプが、協力して大魔法を放ったのだ。


(合体魔法なんて使ってくるのかよ!)


 盾となった岩のゴーレムは重い体重が嘘のように砂煙となって消し飛んだ。

 防波堤を失って暴風を直接受けたニイトは、これがただの風でないことを感じ取る。


(魔力が練りこまれている)


 どうにか《魔法障壁》で耐え切ったが、防ぐのがやっとで反撃の準備はできていない。


「ローラ、大丈夫か!?」

「私は何とか。でもゴーレムはダメ。土属性は風属性に弱いの」


 再びレギオンを展開するには時間がかかる。


「くっ! ローラを中心に距離を詰めろ! 一度立て直す!」


 ゴーレムを失ったことで防御力が大幅に低下した。攻撃の機会も半減。一度最初の状態に戻ってローラの詠唱が完成するまで時間を稼がなければならない。

 くそう、厄介だ。

 結局戦局はふりだしに戻ってしまった。


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