表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界創世記  作者: ねこたつ
7章 前半
160/164

7-16


 1-2階層の中間層はやはり魔法の模様が刻まれた壁に囲まれた小部屋が連続していた。0-1層のときと違うのは土のある面が多いことと、生息しているモンスターの種類がまるっきり違うことだ。

 0-1層ではおもにスカルやゴーレムが幅を利かせていたが、ここでは四葉虫やトゲミミズなど1階層のモンスターが多い。鉤爪のついた足で天井にぶら下がっているものもいるので、油断していると落下してきた毒針に刺されることもあり、気が抜けない。


 しかしニイトらは被害らしい被害を受けることなく順調に進んだ。

 新しく取得した《索敵》と《罠感知》のおかげである。キューブ魔法はこの世界のモンスターやトラップの類を見逃すことなく探知したので、奇襲を受けることも巧妙なトラップにかかることもなかった。加えてマーシャの高性能猫耳が離れた位置の物音を聞き取るので、安全度は更にあがった。


「ニイトさま! そこにトラップがあります」

「どこだ? ――ああ、これか。壁の土と同化していて見えにくいな」

「ほんと! よく発見できたわね。私には見えなかったわ」


 常人には見えにくい難易度の高いトラップだった。《罠感知》がなかったら引っかかっていたかもしれない。


「これは後に来る探索者もはまりそうだから、俺たちで解除しておくか。アンナ、手伝ってくれ」


 ニイトとアンナで土の壁にゆっくりと向かう。本来は地面だったようだが、大転動によって部屋が回転して壁になっていた。逆に、剥がれ落ちた土が本来壁だったはずの床の隅に降り積もっている。

 慎重に地面だった土を削って作動装置を探す。


「あった。落とし穴系のトラップだな。おそらく奥にスパイク系の罠が張られているはずだけど、これって本来床にあるものだし、今作動したらどうなるんだろう?」

「誤爆させてみる?」

「そうだな。ローラにお願いするか」


 万が一に備えて隣の部屋に退避し、ローラの土人形だけを近づかせてトラップを作動させる。すると1メートルほどの厚さの土壁が崩れて、隣の部屋まで開通した。


「罠はないみたいよ。おそらく大転動前に作動しなかった罠がそのまま残っていただけでしょう。たとえ針山の罠が下にあったとしても、その部屋も転動でどこかに移動しているわ」

「なるほどな。心配して損した」


 土壁に開いた穴から向こうの部屋をのぞいていたアンナが足を踏み込んだとき、


「待ってください! まだ罠の反応が消えてません!」


 念のために再度《罠感知》の魔法を使ったマーシャが叫んだと同時に、壁に開いた穴の側面からギロチンのような刃が飛び出た。


「アンナッ!?」


 ――《緊急回避》


 瞬間、アンナの体が無理やり引き寄せられるようにして、地面と水平に跳んだ。僅かに遅れてアンナの立ち位置だった場所を刃が通過する。


「ぐえっ!」


 アンナは急激な動作による重力がからだにかかって、カエルがつぶれたような声を漏らした。


「大丈夫か!?」

「危なかったわぁ。もう少しで足がなくなるところやった。魔法のおかげで助かったわ」

「さすがにヒヤヒヤしたよ」


 まさか二重トラップになっているとは思わず、油断していた。キューブの魔法に助けられた。


「ずいぶん性格の悪いトラップだな。誰がこんなたちの悪いことを考えるのか」


 ニイトはあーくんで土の壁を丸ごと吸収してみた。すると、


 ――迷宮罠ギロチン 一つ 査定額……30万ポイント。

 ――ゲノーモス(別名、闇ノーム)によって作られた罠。非力だが手先が器用な彼らはダンジョン内に罠を張り巡らせて隠れ住む。ときおり他種族のモンスターから依頼されて罠を作製することもある。対価には魔石が払われることが多い。極稀に人間と友好的なはぐれ者もおり、対価を払えば罠の解除をしてもらえる。


「罠も売れるんだな……。ゲノーモスって知ってるか?」

「聞いたことのない名ね。それが一体何なの?」

「いや、何でもない」


 ローラも知らないこととなると、ここよりももっと深層のモンスターなのだろう。





 一行はなおも中間層を進む。


「待て、隣の部屋に複数の敵の反応がある!」


 今度はオリヴィアが《索敵》の魔法で敵の存在をとらえた。

 幅4メートルほどの入り口から中をのぞき込むが、敵の姿はない。


「見えない。どこだ?」

「上だ」


 視線を上げると、この部屋は天井がかなり高い。40~50メートルはあって、手前に松明が集中しているせいで天井の様子が見えにくい。が、よく目を凝らすと遠近法によって小さくなった何かが無数に蠢いているのがわかる。


「どうされますか?」

「進もう。おそらく人が下を通ると落ちてくるはずだから、ローラのゴーレムを囮にしよう。地面が土だから、念のために〈泥沼〉をかけておくよ」


 ニイトは〔変質〕と〔融合〕を使って土を液体状態に変える。敵が踏むと魔力が崩れてもとの地面に戻るが、その過程で泥沼のようになって足が埋もれたまま固定されてしまう。


「準備はいい? ゴーレムを歩かせるわよ」


 ローラのゴーレムが〈泥沼〉を避けながら進む。すると天井からモンスターが次々に落下してきた。


「トゲミミズだ。撃ちまくれ」


 ――《強化弓》

 ――《連射弓》


 マーシャとオリヴィアは杖を両手に構えて、強化されたキューブ魔法と、〔変形〕で矢型にした通常魔法の両手撃ちを繰り出した。両手から絶えず放たれる魔法が弾幕となり、〈泥沼〉で身動きの取れなくなったトゲミミズを次々に打ち抜いた。

 しかし、予想以上に数が多く、仲間の死骸を盾にしては魔法の途切れた隙を狙って跳躍して接近してくる。


「こっちに近づけさせるな!」


 毒に特化したモンスターに接近されるのはマズイ。ニイトはあーくんを走らせて、壁となっている死骸を【売却】してまわる。壁を失った無防備な敵は次々に討ち取られていくが、依然として落下してくる数は衰えない。


「どんだけいるんだよっ!?」


 撃ち漏らしをローラのゴーレムが潰し、さらにこちらへの接近を阻む。それでも潜り抜けてきた固体はアンナの〈スパイダーネット〉がからめ取る。


「オリヴィアさん、わたしが風でまとめますから、一気に叩いてください」

「了解した」


 マーシャが合図をすると、二人は《魔力強化》を自身にかけてタイミングを計る。

 まずはマーシャが新しく覚えた《突風》の魔法を放つ。前方に突き抜けた風のうねりが接近してきた小柄なモンスターを巻き上げて壁際にたたきつける。

 山のように積み重なったトゲミミズの群れは、お互いの長い毒刺が絡まってもがいている。


「全員、ゴーレムの影に隠れろ!」


 退避すると同時に、オリヴィアの《ショートボム》が炸裂。トゲミミズの山が爆散した。

 飛び散った毒針はローラのゴーレムが防ぎ、その隙間を埋めるようにニイトとアンナが《物理障壁》を張って防いだ。


「毒を受けたヤツはいるか?」


 念のために、アンナがニイトから買い取った《解毒》で調べるが、毒になった人はいなかった。


「大丈夫やな。全員無事や」


 ようやくトゲミミズの群れはいなくなった。


「凄まじい数だったな」

「ここが絶好のポイントだったのね。たくさんの獲物を狩って大繁殖したんでしょう」


 ゴーレムを解除したローラの推測どおり、落下が最も有効な攻撃手段のトゲミミズにとっては、ここが最も理想的な地形だった。その地の利は大きく、広い一フロアの1層よりも天井のある中間層のほうがはるかに手ごわい強敵となっていた。


「よし、先を進もう」


 大量の死骸をポイント化しつつ、ニイトパーティーは進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ