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異世界創世記  作者: ねこたつ
7章 前半
159/164

7-15


 そんなわけで、一行は迷宮にやって来た。

 新武器と新魔法の試し撃ちをしたくてうずうずしたせいか、テンションがおかしなことになっている。


「イクぞ、みんな!」


 前回入手した転移クリスタルを使用して1階層へやってくると、さっそくモンスター相手に使用感を確かめる。


「おお! いいぞ! 魔法を使いながら振り回せる。しかも先端がスパイクになっていて突き刺し攻撃もできるようになった!」


 ニイトの新しい武器はポール・アックスに近い形容をしている。針のように鋭く尖った刺先。固い殻を打ち砕く槌頭。そして肉を切り裂く斧刃。これ一本で刺突、打撃、斬撃の全てが行える優れものだ。さらに斧刃の鉤爪部分で敵を引っ掛けて転倒させたりと、応用の幅は広い。そして何より、


「イケっ!」


 刺先から飛び出す魔法の光が矢となって、四葉虫の殻に突き刺さる。内部に仕込んだ魔法の杖を通して、杖に持ち替えることなく魔法攻撃が可能になったのだ。


「どや、うちの力作は?」

「最高だよアンナ! こんなにリーチが長いのに驚くほど軽いな。しばらくはこの武器が手放せなくなりそうだ」

「せやろ。軽量化と強度を両立するのにはかなり苦労したんやで。二種類の虫殻を鍛錬して合わせたんよ」


 金属だけでは不可能なほどの軽量さと高い硬度を併せ持つ虫素材の成せるわざだ。ニイトは魔法の錬成技術を覚えたことで、金属と虫素材を組み合わせた合成甲殻という素材を作り出したが、アンナはそこにさらに別の素材も加えて質を高めたようだった。


「さすが元鍛冶職人。何で鍛冶師をやめちゃったんだよ」

「それほど料理の魅力には抗えんちゅうことやろっ!」


 アンナはポールアックスと同時に鍛えたらしい武器で敵を殴りつける。しかしそれはどうみてもフライパンだった。


「それ、フライパンだよな……調理道具だよな?」

「いや、これ鍛冶道具や」

「はぁ!?」

「ニイトはんの武器もこれで鍛えたんやで。その長い柄とか綺麗に伸ばされてるやろ? このフライパンの底で押し付けながら平らに成型したんよ」

「嘘だろっ!? これフライパンで鍛えられたのかよっ!」


 アンナはにししっ、と屈託なく笑った。


「その秘密は、コレや」


 体長2メートルはあるイモムシ型のモンスターにフライパンを押し当てると、たちまち焼き焦げた匂いが立ちのぼり、モンスターは激しく暴れた。


「何をした?」


 見ればフライパンを押し当てられたイモムシの体表が真っ黒にこげて炭化している。


「内部に火石の力を溜め込んどるから、いつでも高温にできるんや」

「それ、言葉以上に凶悪じゃね?」


 フライパンは熱によって赤く変色していた。


「熱耐性の強い虫素材を使うとるから高温でも変形せんし、この熱々の底面で素材を加工するんよ」

「本当に鍛冶道具だったんだ……ネタじゃなかった」

「しかも硬度も高いから側面で叩くとかなり痛いで」


 アンナがフライパンの縁でぶっ叩くとイモムシはからだを折り曲げ、さらに皮膚が裂けて血がふき出す。


「ちなみに縁の一部は研いどるから、包丁のように切れるわけや」

「もう武器じゃん! 熱と鈍器と刃で殺傷して、尚且つ盾にもなるんだろ? 普通に有力な殺傷武器じゃないか」


 近づくと焼かれる炎の盾なんて強すぎる。


「鍛冶道具と調理道具と武器を別々に作る時間がなかったんや。せやから全部まとめたった。いやー、猫耳のちみっ子たちの物作りを見とったら刺激されてな、自然と思いついたんよ。どや、発想の勝利やろ?」

「どうしてこうなった」


 猫耳電波を受信しちゃった結果がこれか。さすがにドニャーフ族だってこんな物は作らないだろう……、いや、そうとは断言できないところが悔しい。

 そんなこんなで新武器の性能が予想以上に優れていたので、この階層をすいすいと進むことができた。今まで戦闘では一歩後ろに下がらざるを得なかったアンナが前線でも戦えるようになったことは大きい。武器性能って思った以上に戦局を左右するんだな。

 マーシャとオリヴィアも新しい魔法の使い勝手を確かめて概ね満足した様子。

 仏頂面なのは一人ローラだけだった。


「あなたたち……、いつの間にかまた妙な魔法を使うようになったわね。いったいいつ修行しているのよ?」

「ま、いろいろわけありなんだよ、俺たち」

「またそれ! もう、いい加減にしてよねっ」


 ローラのご機嫌がどんどん斜めに傾く。


「ごめんごめん。今日のお昼は新作のサンドイッチをご馳走するからさ、このことは内密に頼むよ」

「新作っ!? しょ、しょうがないわね。私は心が広いから許してあげるわ」


 ふんわりと焼き上げた白パンを割ってプラテインの燻製ハムのスライスと新鮮な野菜を挟んだところに、焦がしタマネギをベースに作った特性ソースをかけた一品が今日のお昼ご飯だ。

 これを食べれば傾いたローラのご機嫌も直角に上がること間違いなし。





 休憩を挟みつつ、1層と2層を繋ぐ中間層のゲートまでやって来た。


「準備はいいな?」


 この先にはまた複雑に入り組んだ迷路が広がっている。しかも前の中層よりもはるかに広い規模のものが。

 それでも嫁たちは躊躇なくニイトに続いたが、ローラは一人足踏みする。


「やっぱり、この先はまだダメよ」

「何でだ? 1層とたいして変わらないはずだろ?」

「決まりなのよ。新しい階層へは経験者が一人は随伴することになってるの。私はこの階層までしか入れないわ。モンスターの情報もこの階層までしか集めてないもの」

「それだとおかしくないか? 5階層以上の経験者なんていないんだから、誰もその先に進めないことになるぞ?」

「前人未到の最深部には、迷宮科のランキング上位者で構成されたパーティーが挑むことになっているわ」


 限界まで安全性を高める為のルールだろうが、ニイトは面倒くさいと感じた。


「しかしそれだと未知の階層に挑戦する経験が乏しい探索者ばかりになってしまう。やはり前情報なしに未知の領域を探索する経験は積んでおいた方がいい」

「危険だわ!」

「迷宮は元々危険と隣り合わせじゃないか。何を今さら。それに前情報なしで5層に挑戦するのと2層に挑戦するのなら、2層のほうが遥かにリスクが少ないだろ? 低層のうちに経験したほうが長い目で見て効率的に成長できるはずだ」

「よく口が回る男ね……」


 ローラは考える素振りを見せながら唸る。


「でもやっぱりダメよ。これより先にイクのはまだ私たちには早いわ」

「ならローラを1層のゲートまで送るよ。そこから帰還してくれ。この先は俺たちだけで進むから」

「ダメよ! あなたたちだけでイカせるわけにはいかないわ」

「じゃあ、一緒にイクか?」

「どうしてそんなにイキたいのよ」

「そこに穴があるからだ」

「意味わかんないわよ!」

「真面目に言うと、正直俺たちの適正階層はもっと先だと思うんだよ」

「一つ前の穴は何だったのよっ?」


 ローラのオレンジ畑に必要な魔石が2階層より下じゃないと手に入らないから。でもそれを言ったら自分のために危険を冒させるわけにはいかないと、ローラは今以上に否定的になるだろう。だからそのことは伝えずに、あくまで自分たちの都合であると強調するしかない。

 もちろん1階層もそこそこポイント的には良かったが、もっと下層には何があるのか知りたい、自分の力がどこまで通じるのか試してみたいと思っていることは事実だ。だから嘘はない。


「もう、しかたないわね……強引なんだから」

「危なくなったらすぐに帰るから大丈夫さ。ローラ一人くらいならちゃんと俺が守るから」


 するとローラはみるみる顔を赤くした。


「調子に乗らないでよっ! 別にあなたに守ってもらわなくても、自分の身くらい自分で守れるわよっ! そもそも私はあなたたちの先生なんだから、魔法で負けるわけがないわ!」


 先日の模擬戦の件はすっかり記憶から閉め出しているローラだった。

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