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異世界創世記  作者: ねこたつ
7章 前半
158/164

7-14

 先日の発見により、魔法でビニールハウスを再現する術式は完成に近づいた。

 二層の水膜を作って農園を密閉。その際の魔法エネルギーには農園内の冷気を魔力に変換しつつ、足りない分は魔石で補うハイブリッド仕様になった。これで農園内の気温が上がる。


 また内側の水膜には光のエイドスも加えることにしたので発光し、さらに外側の水膜には光を反射するように設定した。これで農園内は二重に明るくなるだろう。


 内部の気温が上がり過ぎないようなセーフティーや、水膜が破れたときの自己修復機能、全体の統制を行う制御術式などを全て一つにまとめれば、理論上はこの夢のようなビニールハウスもどきが実現できる。しかもかなりの低コストで。


 だが、一つ問題が起こった。

 あまりに複雑な術式を組み上げてしまったせいで、描くのが大変だ。紙のようなペラペラなものに描こうものなら、少しのシミや汚れで正常に機能しなくなることも考えられる。作製に何時間もかかるような大掛かりな術式を、こんなちゃちな素材に委ねることはできない。


 そこで大事な術式は魔石に直接刻み込むのが一般的だ。

 魔力の塊である魔石を正多面体などの綺麗な形に成型したクリスタルに掘り込む。ついでに土台となる魔石の魔力を使って、術式の一部が崩れそうになっても自動で修復してくれる機能も付ければ、長い年月も維持することが可能になる。


 しかしそうなるとまた問題が。

 複雑で多量の術式を刻むとなると、核となるクリスタル魔石の大きさに制限が付いてしまう。

 大きくて、しかも質が良いものでないと、全ての術式を刻むことができない。そして必要とされる条件を満たす大きさの魔石は、一般には流通しないのだ。


「弱ったな……。ここまできて、素材がないのかよ」


 魔石は大きければ大きいほど良いというわけではなく、むしろ手ごろな大きさの方が寿命も長く使い勝手が良い。

 たとえば100℃の熱を10分間維持できる火石が10個あったとする。これと同質量の大きな魔石が一つあったとするが、その効果は900℃の熱を9分間というような感じになる。もっともこれはあくまで例えの話であって実際の数値ではないが、おおよそ大きいまま使用する魔石は効率が悪いとされる。

 そういうわけで、最も燃費の良い大きさに揃えられた魔石しか流通していないのだ。

 規格外の魔石を調達するには、自力入手するか魔石合成するしかない。


「魔石合成だと壊れやすくて質が悪くなるんだよな……」


 小さな魔石を魔力で合成すると、どうも継ぎ接ぎしたような割れやすい魔石になってしまう。できれば質の良い天然モノを入手したいところ。


「よし、採りに行こう」


 大きな魔石は2階層よりも下に潜らないと手に入らない。

 そのためには戦力を強化する必要がある。


     ◇


「ノア、新たな魔法を覚えたい」

『そう来ると思って既にリストを用意してあるわ』

「さすがだな」

『でもそれより先にステータス確認ね』


 ニイトは嫁を集合させて、【扉ワープ】スキルを使って石版の部屋に戻った。そして光文字で石版に映し出されたステータス画面を凝視する。


==========

名前   :ニイト マーシャ アンナ オリヴィア

魔法適性 :C    B+   C    B+


MP   :C    D    A    F→E+

強度   :C→C+ A    D    B

射程範囲 :C    B    D    C

操作性  :C→C+ C    D→D+ B

消費効率 :C    B+   D+   A

発動速度 :C    C→C+ B    B


(消費効率は魔法の安定性・発動確率・持続時間・応用性などを含む)

==========


「おおっ!? 成長してるじゃないか!」

「私も速度が上がっています!」

「うちも操作性が上達しとるで!」

「我のMPが、二段階も上昇しているぞ!」


 四人はそれぞれの成長を喜んでハイタッチをかました。


『魔法世界に行ってからずいぶん魔法を使うようになったから、成長率も高いわね』

「ドニャーフ族の料理も一役買っているようだぞ。我のMPが伸びたのはほとんど彼女らのおかげと言っても過言ではない」


 猫娘たちの料理スキルが上がったこともあり、成長ボーナス付き料理の効果はますます上がっていた。


『次に魔法の成長率ね』


==========

     ニイト  マーシャ   アンナ オリヴィア

名前  :魔法の矢

ランク :☆

レベル :3→4  5→7    1→3 1→4

残り回数:50/50  320/320 40/40 90/90

威力  :D+   D+     E+  D

攻撃範囲:E(単体)E      E   E

命中率 :E    E+     E   E+

攻撃速度:C    C+     C   C

==========


『順調に成長しているみたいね。そろそろ自分の戦闘スタイルが確立して来た頃でしょうから、魔法のカスタマイズを教えようかしら』

「カスタマイズ?」

『ええ。たとえばこんな感じ』


 ――《強化弓》他の能力一つを1ランク下げる代わりに、威力を1ランク上げてクリティカル率を高める。威力C以上が必要。

 ――《連射弓》一撃の威力は分散されるが、一度に複数の矢を放てる。

 ――《長弓》発動時間が2倍に増えるが、射程範囲が2倍に伸びる。

 ――《弩弓》射程距離が半分になるが、威力が倍増して貫通属性が付く。

 ――《速射弓》発動時間が半分になるが、威力か残り回数のどちらかが半減する。


「いろいろあるな。それぞれの戦い方に合わせて必要な能力を強化するわけだな」

『ええ。ただし気をつけないといけないのは、射程範囲や発動速度は素の魔力適性に依存するから、自分のステータスをよく見て考えないと効果的な強化にはならないわ』

「つまり発動速度Eの人が《速射弓》を覚えても、実際はせいぜい発動速度Dくらいの効果しか得られないが、発動速度Bの人が覚えると鬼のような速さで撃てるようになるわけだな」

『そういうことね』


 さて、これは重要な決断になりそうだ。長所を伸ばす選択か、短所を補う選択か。


「我は素の魔力量が少ないからな、できるだけたくさんの魔法が撃てるほうがいい」

『そうね。オリヴィアは手数の少なさが弱点だから、そこを補うのが急所になりそうね』

「うちは逆にスタミナだけがとりえみたいなもんやからなぁ……。強力な一撃が欲しいんやけど」

『アンナの場合は素の強度が低いから威力を強化してもたいした効果は得られないわ。それよりも良い方法があるわ。【魔法合成】スキルって言うものよ』

「何や、その心躍る名前のスキルは!?」

『文字通りよ。複数のキューブ魔法を合成して、一つの魔法にするスキルよ。たとえば《魔法の矢》に《毒手》を合成して《毒矢》にするとかね。アンナは直接ダメージで倒すよりも、こういう搦め手を攻めるような戦い方のほうが向いているわ』

「ほんなら〈スパイダー・ネット〉との相性も良さそうやな」

『ならニイトに覚えてもらいましょう。いいわよね?』

「もちろんだ。それができれば一気に戦略が広がるからな」


 ――ニイトは【魔法合成】スキルを覚えました。


『ただし合成するにはレベルを消費するから、その分魔法の基礎能力は伸ばせなくなるわ。使いどころをよく考えることね』


 オリヴィアとアンナはそれぞれの方向性が固まったようである。


「わたしはどうしましょう?」

『マーシャは正直何をやっても良いわ。素の能力が高いからどんな方向性に進んでも成功しそうね。スタミナがやや低いけど、キューブ魔法の回数も多いし身体能力も高いから問題ないでしょうね。しいて言えば、可能性が広すぎて決断に時間がかかることね。複数の戦術を鍛えることもできるけど、成長が鈍化するから悩みどころね』

「うぅ……悩ましいです。どうしたら良いでしょうか?」

『あんたがどうしたいか、よ』

「わたしは、ニイトさまのお役に立てればそれで……」


 マーシャは決断を委ねるようにニイトを見上げる。瞳がうるうるしていて可愛い。


「そうだな。可能性としては三つくらいか。最大の攻撃力を生かしてダメージディーラーになるか、最長の射程を生かしてスナイパーになるか、戦場を駆け巡って味方の回復や支援を行うコマンダーになるか」


 考えれば考えるほどに悩ましい。贅沢な悩みだ。


「俺もアンナもオリヴィアもどちらかと言えば接近戦タイプだから、チームの戦術を広げる為にもマーシャには遠距離魔法を充実させてもらいたいかな。攻撃・回復・支援と全てをこなせて、なおかつ接近戦でも強いのが理想だけど、さすがに無茶だしな」

「やりますっ! ニイトさまに求められたら、必ず応えてみせます!」


 むふーっ! と息巻いて猫耳をピンと突き立てた。

 無理筋だとわかっていて口走ってしまったニイトは、マーシャの気合が入ってしまったことにたじろいだ。もう引っ込みが付かない。


『さあ、あとはあんただけよ』

「俺はどうするかなぁ……」


 マーシャとは逆に、何をやってもいまいちなニイトは別種の悩みを抱えていた。


「接近戦が主体だから、魔法は威力を削ってでも敵の動きを阻害する系統が良さそうだな」

『そうね、それが無難なところね』


 これでだいたい全員の方向性が決まった。


『それじゃ、お楽しみの新しい魔法のリストよ。画面を人数分出すから、それぞれの戦闘スタイルに合った魔法を選んでね』


 半透明なディスプレイが空中に四つ現れてそれぞれの手元にやって来ると、目を凝らしてリストを見つめた。


「すげーたくさん魔法の種類が増えたな」

『そろそろキューブ魔法の扱いにもだいぶ慣れたでしょうからね。いろいろな種類の魔法を揃えてみたわ』

 戦闘に関する魔法がジャンル別に見やすく纏められている。


 1.攻撃系 2.防御系 3.強化系 4.弱体系 5.回復系 6.補助系・その他。


「六種の系統に分かれているのか」


『実際は他にもあるといえばあるけど、わかりやすさを重視したのよ。一応説明しておくと、攻撃系は敵に直接ダメージを与える系統。基本の《魔法の矢》やオリヴィアが覚えた小範囲攻撃魔法の《ショートボム》、他には火や水などの属性攻撃なんかね。

 防御系は魔法障壁や物理障壁などの身を守る系統。他にも毒などのステータス異常を防いだり、属性攻撃を防御したりする魔法が揃っているわ。

 強化系は自分や仲間の身体能力や魔法能力を一時的に底上げしたり、スタミナや自己治癒力の強化、それと攻撃に属性効果を付加したりダメージを追加したりする系統よ。

 弱体系はその逆で、敵の能力を弱体化させたり、毒や混乱などのステータス異常を付与したりするわ。ほかにも動きを鈍化させたり、移動を邪魔したりする魔法もこの系統に含まれるわ。

 回復系は言わなくてもわかるわね。怪我や毒などを治療する系統。アンデッドの浄化やアイテムに憑いた呪いの解除などもできるわ。ただし、失ったMPを回復させることはできないからね』


「ま、それができたら無限に魔法を撃ち続けられるからな。補助系というのは?」

『補助系は少し特殊ね。索敵や罠感知、足場作製や罠作製など、戦闘に直接役立つというよりはダンジョンの探索や敵の奇襲を防ぐのに有効な魔法の系統よ。五つの系統に分類できなかった魔法の寄せ集めになるかしら』

「よし、みんな好きな魔法を買っちゃえ」


 最終的にこうなった。


==========

ニイト

固有技 〈魔槌〉〈泥沼〉

攻撃系 ☆2《スタン・アロー》Lv4

防御系 ☆1《魔法障壁》Lv3《物理障壁》Lv3 ☆2《毒耐性》Lv1

強化系 ☆1《魔力強化》Lv2《肉体強化》」Lv5 ☆2《活性》Lv1《クリティカル上昇》Lv1《属性付与》Lv1 ☆2《剛腕》Lv1



マーシャ

固有技 〈魔爪〉〈水弾〉

攻撃系 ☆2《火槍》Lv4《突風》Lv1 ☆3《強化弓》Lv7

防御系 ☆3《物・魔障壁》Lv1

強化系 ☆1《魔力強化》Lv4《俊敏上昇》Lv1《ダメージ追加》Lv1

回復系 ☆2《快癒》Lv5《解毒》Lv4

補助系 ☆1《罠感知》Lv1


アンナ

固有技 〈スパイダー・ネット〉〈火球〉

攻撃系 ☆2《毒矢》Lv3

防御系 ☆1《物理障壁》Lv2《魔法障壁》Lv3 ☆2《緊急回避》Lv1

弱体系 ☆1《煙幕》Lv1

回復系 ☆2《解毒》Lv3

補助系 ☆1《足場作製》Lv1 ☆2《罠作製・槍》Lv1《罠作製・落石》Lv1《罠作製・逆さ吊り》Lv1


オリヴィア

固有技 〈魔槍〉〈風刃〉

攻撃系 ☆1《連射弓》Lv4 ☆3《ショート・ボム》Lv2

防御系 ☆2《範囲魔法障壁》Lv1《範囲物理障壁》Lv1 ☆3《魔盾》Lv1

強化系 ☆1《魔力強化》Lv2 ☆2《不動》Lv1

弱体系 ☆1《スタンショック》Lv1

回復系 ☆1《治癒》Lv2

補助系 ☆1《索敵》Lv1

==========


 育てたキューブ魔法は売ることもできるようで、売却と買い戻しを使って仲間内で魔法の交換などを行いながら組み立てた。

 キューブ魔法は指の爪の中に普段は見えない紋章を刻むので、両手の指の数だけ10個ずつセットした。やろうと思えば体中に紋章を刻むこともできるが、管理がめんどくさい。


「これで準備は整った。さっそく向かおう」

「あ、待ってやニイトはん。例のもんできてるで」

「おぉ!? ついに完成したか!」


 アンナに頼んでいた武器がついに完成したようだ。杖を仕込んで魔法を使いながら戦えるようにした長槌。これで戦いにくさが大幅に緩和されるはずだ。

 楽しみだ。

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