表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界創世記  作者: ねこたつ
7章 前半
147/164

7-3

 模擬戦。

 相手方はローラが一人後ろに構えて、前線に三人の男が並んだ。対するニイトたちは四人が横一列に並ぶ。

 相手の能力がわからないから迂闊に突っ込むことはしたくないが、ローラの魔法は複数のゴーレムを生み出す魔法。時間を与えるほどこちらが不利になるから、速攻をかけるしかない。


==========


        ▼ローラ

  ▼右翼   ▼中央   ▼左翼


△マーシャ △オリヴィア △アンナ △ニイト


==========


「では、いざっ!」


 模擬戦が始まった。

 開始と同時にニイトらは仕掛ける。

 相手は仮にも試験官。序盤はニイトらの実力を見極める為に受けに回ると読んでの速攻だった。


 一斉に走り出し、射程に入った瞬間にアンナが魔法の連射を行う。相手方の中央と左翼の間から後方のローラを狙う。


 すぐさま▼中央と▼左翼が陣形を引き締めてローラを守る。

 そのタイミングで今度は逆側のマーシャが、▼中央の移動によって生まれたスペースから遠距離射撃でローラを狙う。  狙いはあくまでも一番厄介な金髪ツインテールだ。彼女さえ無力化できればほぼ勝ちだと思って良い。


 すでに土ゴーレムを二体完成させていたローラは、三体目の作製時に射撃を受けて断念。一体のゴーレムを盾にして防ぎ、残る一体を射線に配備して壁を作った。作りかけの三体目は土くれに還って崩れた。


 ニイトらの狙いがローラだと看破した相手方は、左右の前衛が極端に中央によって密集する。通常魔法戦では流れ弾や範囲攻撃の餌食になるので愚策と言われる密集隊形だが、この場合は例外だった。

 間に挟んだゴーレムが盾の役割を果たすので、流れ弾を防いでくれるし、次々にゴーレムを生み出すローラを守っていれば自然と有利になるわけだ。


 そうはさせない。

 ニイトは〔変形〕させた〈魔法の矢〉を放つが、硬いゴーレムの表層を僅かに砕くのみにとどまった。同じ場所にキューブ魔法の《魔法の矢》を連続して当てればあるいは破壊できるかもしれないが、大勢の前でキューブの魔法は使えない。ならば、


「オリヴィア!」

「ウル・ハガル・ジュラ。――〈風刃〉」


 風との相性が良かったオリヴィアがルーンを唱えると、丸ノコギリのように回転する風の刃が飛来し、ゴーレムの足関節を削る。


 土属性は風属性に弱いと言われている。多少の力量差であれば、属性の違いで覆ることも十分にある。

 関節を切断されたゴーレムは地に倒れてもがくが、自ら起き上がることはできないようだ。


 これで再び同数。攻勢に転じたいニイトらだったが、すぐにゴーレムの増援が現れた。


「くっ! 前よりも生成速度が上がっている」

「成長した私の力を見せてあげるわ」


 すぐさま二体のゴーレムが前線に加わり、さらに三体のゴーレムがローラの周囲を守っている。


(ありえない。速すぎる)


 しかしその異常な速度が逆にニイトを冷静にさせる。何か、トリックがありそうだ。

 だが、まずは前線の維持が最優先。

 再度オリヴィアの風刃がゴーレムに迫る。しかし、すかさず▼中央が対応する。


「ケン・アルギス」


 火の盾が現れて、風刃を飲み込んだ。

 風は火に弱い。酸素を喰らう火の性質が、規則的な気流を乱してコントロールを失わせる。

 すぐに分解された風刃は霧散した。


(さすがに二度は通じないか)


 風と相性の悪い火を操って無効化してくるあたり、やはり属性魔法の戦いに慣れていると言わざるを得ない。ならば、


「オリヴィア、もう一度だ!」


 再び風刃がゴーレムに迫り、火盾がそれを迎え撃つ。しかし今度はそこにニイトのルーン詠唱も加わる。


「ラグ・マン」


 水の塊が火盾の前に現れて、消化を試みる。が、


「オセラグル・ニイド」


 アンコウのような平べったい何かが地表を泳ぎ、ニイトの水塊を飲み込んでしまった。


(水を食らう魔法?)


 前衛のもう一人が唱えたのは土のオセルと水のラグを使った合成元素魔法。おそらく泥の魚のような擬似生命を生み出して、水系の元素攻撃を防御するものだろう。発動後もすぐには消えずに地面を滑るように泳いでいるから、長い時間維持される魔法なのだろう。

 さらに泥の魚がもう一匹増やされて、火盾を相殺するのが難しくなった。


 相手はニイトがオリヴィアに指示を出した瞬間に、既にここまでの流れを読みきっていたのだろう。さすが魔法戦においては一日の長がある。単純な元素魔法の応酬では勝ち目はなさそうである。


 ニイトはすぐさま別の作戦に切り替えた。

 三日月陣に隊列を組みなおして、ポジションも変更する。


==========


 ■……ゴーレム


      ■ ▼ローラ ■

  ▼右翼    ■    ▼左翼

      ■ ▼中央  ■ 

△マーシャ           △オリヴィア

      △ニイト △アンナ 


==========


 本来は守備的なカウンター狙いの陣形だが、今回は違う。

 相手方の中央にそれほど攻撃力がないことを見越して、ニイトが一人で押える。両翼に攻撃力の高いマーシャとオリヴィアを配置してサイド攻撃を仕掛ける。そして隙間からアンナが荒らす作戦だ。

 高度な魔法戦で叶わないなら、フットワークを加えた総合力で戦うしかない。


 両翼の二人は杖から魔力光を伸ばして武器を模造する。オリヴィアは使い慣れた槍を。マーシャは両手に杖を構えて猫の爪のような武器を作り出した。

 二人は同時に接近戦を仕掛ける。


 対する相手方の両翼もそれぞれ得意な武器を魔力で練り上げて受けて立つ構え。お互いの力量をはかりあうようなデュエルが勃発した。

 剣戟のような音が広がり、魔光が弾ける。


 中央ではニイトも長槌を模造した魔力武器で相手とやり合う。

 三者とも純粋な魔法技術では相手に劣るが、総合的な戦闘経験なら引けを取らない。思いのほか善戦して互角の戦いを演じた。


 中央の男がやや余裕を失ったように言う。


「くっ、接近戦は相当なものじゃないか。どこで経験を積んだんだ?」

「ちょっとした旅先でね」

「まさか、無断で迷宮に入ったりはしていないだろうな?」

「もしそうだったら、今頃試験を受けていないだろ」

「それもそうだ」


 軽口を叩いているようで、ニイトは内心焦っていた。実際、男が話しかけてきたのは僅かな時間だけで、すでに時間稼ぎは十分に果たされたということだろう。


 ローラへのけん制がなくなったことでゴーレムを作り放題になった彼女は、魔力が許す限り量産体制に入っていた。


 頼みの綱はアンナだが、いかに手数の多い彼女とて、複数のゴーレムが立ち並ぶと命中させるのは難しい。貫通するほどの攻撃力もないアンナの乱射はことごとくゴーレムの外殻に弾かれてしまう。


 ついにローラは全方位の守りを完成させて、余剰戦力を前線に回し始める。

 まずは押され気味の両翼にゴーレム部隊を派遣し、優位を取り戻す。

 ゴーレムに左右をがっちり固められては、さすがのマーシャとオリヴィアも手が出せない。こう着状態になってからは、徐々に押し戻されてしまう。

 正面にはゴーレムのスクラムが組まれて、ネズミ一匹通さぬ構えを見せる。


==========


       ■ ▼ローラ ■

      ■  ■  ■  ■    

 ■▼右翼■  ■▼中央 ■  ■▼左翼■

   ■   ■■■■■■■■    ■   

  △マーシャ  △ニイト    △オリヴィア

            △アンナ 


==========


 こうなってしまっては勝負あり。

 鉄壁の防御に守られたローラ陣は、攻撃用のゴーレムを逐次投入して殲滅態勢に入る。


 完全に勝負は決した――――かに思われた、そのとき、


「――鋒矢ほうし!」


 ニイトがその陣形の名を呼ぶと、すぐさま両翼が中央に戻り異なる陣形になる。

 対峙していた相手方の両翼も二人に引きずられて中央に寄ってくる。


「何かくるぞ! 備えろ」


 ▼中央が指示を出すが、両翼の動きが遅い。


「おい! どうした!」

「ゴーレムが邪魔で!」

「何っ!?」


 相手陣がもたついている間に、ニイトらは陣形を完成させる。


==========


    ■ ▼ローラ ■

▼右翼■■■    ■■■ ▼左翼      

 ■■■  ▼中央   ■■■

    ■■■■■■■■ 

       △オリヴィア 

   ニイト△ △アンナ


       △マーシャ

==========


「矢陣――だと!?」


 敵陣に動揺が走る。

 矢陣は攻撃的な弓陣の中でも特に突破力に特化した陣形。中央の一点に攻撃力を集中させて正面突破する戦術だ。反面、側面からの攻撃にめっぽう弱いので、よほど中央突破に自信があるときにしか採用されないハイリスクな陣形なのだ。


 間違っても正面の守備をガチガチに固めたこの状況で使うようなものではない。そんなことをすればただの自殺行為である。が、


「いけぇええええ!」


 ニイトは突撃を指示。


「バカなっ!?」


 鉄壁のスクラムに、自ら突っ込んだのだった。


「何をしている! 正面はオレが食い止めるから、お前らは両翼から攻めろ!」


 慌てて指示を出す▽中央だったが、


「くそう! 邪魔だ!」

「ゴーレムの攻撃範囲に巻き込まれる!」


 両翼の二人は味方であるはずのゴーレムが邪魔で、最短距離で移動できない。

 ゴーレムは人間のように細かな動作はできない。単体ならまだしも、複数のゴーレムを遠隔操作するとなると、腕や武器を振り回すときに近くの人間が巻き込まれないように配慮することなど不可能。

 よって、人間の側がゴーレムの攻撃範囲に入らぬように注意するしかない。


 結果、ローラ側の両翼はもたついた。その僅かな時間でニイトらは正面のスクラムに突撃。

 それでも中央の男は動じない。これだけの数のゴーレムが防波堤となっているのだ。両翼が回り込むまで時間を稼ぐことなどわけない。そのような自信が表情から透けていた。


 しかし、突然、正面のゴーレムた同士討ちをした瞬間に、その瞳は驚愕に染まった。


「なッ!?」


 腕を振り回したゴーレムに、隣のゴーレムが引き寄せられて攻撃の範囲に巻き込まれる。

 誤って味方を殴りつけたゴーレムはバランスを崩し、さらに隣のゴーレムにぶつかる。ぶつかったゴーレムがまたバランスを崩し、陣形が乱れた。


「〈スパイダー・ネット〉」


 その正体は、アンナの粘着魔法だった。ここまで温存しておいた切り札をここできる。

 前線は一瞬にして大混乱に陥った。

 動けば隣のゴーレムに当たるような極度に密着した状態になり、動くたびにお互いが連鎖的にぶつかり合うゴーレムは身動きが取れなくなる。

 隊列の乱れたゴーレムの隙間をすり抜けて、ニイトらは中央の男に肉薄する。


「くっ、どんな手を使った!?」

「勝ってから教えますよ」

「ぬかせッ!」


 ニイトとオリヴィアが二人がかりで相手取る。その脇を抜けてアンナが迫ってくるゴーレムに〈スパイダー・ネット〉を絡めていく。

 ようやく両翼が遅れて正面に回りこんだが、そこには一人残ったマーシャが待ち構えており、ゴーレムの死角から先制攻撃を浴びせる。

 一人が被弾し、後退を余儀なくされる。

 残りの一人にはけん制球を打ち続けて、侵入を阻む。


「くそっ! 近づけねぇ!」


 気付けば、味方を守るはずだったゴーレムが、味方を邪魔する壁になっていた。


==========


    ■ ▼ローラ ■

  ■■     △アンナ■■      

   ■ ニイト△▼中央  ■■

   ■■  △オリヴィア■■■

    ■■ ■    ■■   ▼左翼(被弾)

 ▼右翼 ■■××■ ■ 

      ■▲マーシャ

==========


 ゴーレムの処理を終えたアンナが戻ってきて、オリヴィアと挟撃する。その際にスイッチしたニイトは一人ローラのもとへ走った。


「い、いったい、これは、何が起こったの?」


 混乱するローラの杖を魔法で弾き飛ばすと、幾つかのゴーレムは崩れ去り、残りの多くも動きが目に見

えて悪くなった。

 崩れたゴーレムを見ると、中は空洞のスカスカ状態だった。


(なるほど。素早く作り出したゴーレムはハリボテ同然のブラフだったのか。それとオートではなくセミオートで動かしていたゴーレムは、魔力の供給が立たれて動作不良を起こしたと。ようやくカラクリがわかったよ)


 疑問が晴れてすっきりしたニイトは目に力を溜めて言う。


「さて、このままお姫様を攫ってしまおうか」

「な、にゃにゃ、にゃにをっ!?」


 ローラの前髪をかきあげてチュッとおでこにキスをする。


「ひゃわぁあああっ!」


 瞬間、真っ赤に茹だったローラは両耳から蒸気を噴出しながら気絶した。


「お前たちのお姫様は頂いた!」


 ニイトは眠り姫を抱えながら高らかに勝利宣言をする。


 戦闘の行方を鑑賞していた観客たちから割れんばかりの歓声が巻き起こった。


「……マジかよ。必勝の状態から逆転されたよ……」


 試験官たちのショックは大きかった。




 その後、ローラが気絶して終わるかに思えた模擬戦だったが、残った三人の男たちのプライドに火が付いてしまい、むしろ二回戦が始まってしまった。

 新人になめられてたまるかと、マジモードになった先輩たちが鬼の形相で猛攻を仕掛けてくるもので、さすがにニイトたちは押し切られた。

 アンナとオリヴィアがダメージを受けたところで、たまたま通りがかった戦技教導官が怒鳴り散らした。


「コラぁああああ! 貴様ら、何をしておるかぁあああああ!」


 ビクッ! と震えて動きを止める先輩たち。

 何を隠そう、戦闘科で一番厳しい鬼教官として有名なかの御方だったのである。


「迷宮の試験はいつからこんなに派手になったのだ!」

「す、すいません。こいつら結構強くて、それで試験官が一人やられまして、そしたらついカッとなってしまって……」

「バカもん! 新人相手にムキになるヤツがあるかっ! 無駄に魔力を消費しおって! そもそも新人に遅れを取るなど何事かッ! たるんでおるッ! わしが直々にしごいてやらねばならぬようだな、覚悟せぃ!」

「「「ひぃいいいい!! どうか、それだけは、それだけは何とぞぉッッッ!!」」」


 尋常ならざる形相で土下座をする三人の試験官だったが、その願いは聞かれずにドナドナと屠殺場に引かれる牛のようにひきずられていった。

 あの自信に満ちていた彼らの変貌振りに、ニイトは心の中で思った。


(あの鬼教官には絶対逆らわないようしよう……)




 かくして、鬼教導官のおかげで、なんとかその場は収まった。ニイトらも実力は十分に示せたということでめでたく合格が言い渡されて、ついに迷宮探索を行えるようになった。

 秘密も守られたし、全てがうまくいった。……はずだったのだが、






「で、どうしてお前がいるんだ?」


 後日。

 迎えた初の迷宮探索の日。

 付き添いで現れた先輩の顔を見て、ニイトは天を仰いだ。


「新人が迷宮に入るには経験者の同行が必要だって知ってるでしょ? 学院から指名されたんだから、仕方ないわよね。さあ、今日こそ全てを話してもらうわよっ」


 ローラが実にいい笑顔で言った。

 ニイトはこの少女と妙な腐れ縁で繋がっている気がして嘆息するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ