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異世界創世記  作者: ねこたつ
6章 幕間
139/164

6-10

 収穫した米は古代霊米という珍しい品種だった。肉体だけでなく魔力を成長させる効果も大きい優秀な食材である。さらに【解体】スキルで分別すると面白いことがわかった。

 米は赤・青・黄・緑の四色の玄米があり、それぞれ栄養が違うようだ。しかもそれぞれの色に日本米のような小粒で丸いもちもちした品種の米と、中東や東南アジアのような細長くてさらさらした品種の米があった。よく見るとその二つの中間のような品種も存在する。これは黄金の稲穂に生っていたのと同じような光景である。


 ところどころヒエやアワも生えてきたことを考えると、ひょっとしたらアダムは最初に黄金の稲穂から米作りを始めたのではと推測される。それゆえに多種多様な品種の米や雑穀が同時に存在しているのではないかと。

 ちなみに玄米の部分を全て取り除くと、どの色の米も全く同じ成分の白米になった。このことから胚乳の部分は同じで、外側の色違いの部分に異なる栄養素が含まれていることが判明した。

 何にせよ、念願のお米を食すときが来たのであった。


「お米の試食会~!」

「「「にゃぁ~」」」


 田植えを行ったみんなで採れたてのお米を食べ比べる。

 味の違いがわかるように、極力味付けをせずに軽く塩を振る程度に留める。


「最初は白米だ」


 炊き立てで湯気の立つ純白の銀シャリを、一口サイズに丸めて全員で一斉に頬張る。


「柔らかくてもちもち~」

「ほんのり甘い」

「匂いもすっきり」


 ドニャーフ族の舌に、米は無事に受け入れられた。

 味覚が肥えてきた少女たちの反応が気がかりだったが、ニイトはホッとする。


「うん。うん。これだ」


 癖のない白米は強い主張を持たないが、そのさりげない存在感が持ち味である。綺麗な清水を使ったので口当たりは清涼感に包まれ、まずまずの出来栄えと言えよう。

 正直に言えば品種改良の進んだ日本の米と比べたら少々甘味が物足りない。しかし、間違いなく米の味だった。噛めば噛むほど旨味が出てくる。


「これがニイトさまの故郷の味なのですね。予想していたよりもあっさりとしています」


 マーシャが意外そうに首をかしげる。


「米はメインで食べるものというより、他の濃い味付けのおかずと一緒に合わせて食べるものなんだ。だから米自体の味はそれほど強くない」

「そうでしたか。言われてみればどのような料理と一緒に食べても違和感なく溶け込めそうな気がします。常に他のお料理と一緒に食べられるなら調和の象徴のような存在に思えます」


 良いことを言うじゃないか。何気に深い。

 確かにお米とは絵画に例えるなら白いキャンパスのようなものだ。それだけで完成した絵にはならないが、全ての絵の具をまとめ上げる基盤として必要不可欠だ。


「次は玄米だ。白米は食べ易くする代わりに栄養がほとんど失われてしまうが、玄米は栄養満点だ。少し癖があるからそれぞれ好みの味を探してくれ」


 赤、青、黄、緑と四種類の玄米は一日水に漬けてから炊いたので毒素は抜けているはずだ。


「赤いのはえらいサラサラしとるな」

「青いほうは逆にさっきよりも粘りが強い」


 アンナとオリヴィアは色によって食感が大きく異なることに驚く。

 赤い米は粘り気が少なく、青はもち米のようだ。黄色は普通の玄米に近く、緑は香りに癖がなくてもち米に近い弾力があった。


「へー、ずいぶん食感に違いがあるな。これは予想外だ」


 この結果はニイトも予測できなかった。ここまで味が違うなら、色別に使用する料理を考えたほうがよさそうだ。あるいはブレンドしても面白いかもしれない。


「よし、米料理大会を開こう!」

「「「大会ニャーーっ!」」」


 猫耳たちのテンションが上がる。

 先入観なしで料理したらどんな作品ができあがるのか、今から楽しみでしかたない。







 迎えた大会当日。


「ではでは、一組目の審査を始めます」


 料理の腕が上がり使用する調理器具も増えた猫娘たちは、調理場のスペースを広く使うようになっていた。全員が一度に調理するとスペースが足りなくなるし、審査の順番待ちをする間に料理が冷めてしまうことを防ぐ為に、四人一組で順番に行うことになった。


「ふっ、あたいが一番のようだな」


 最初の料理は山と積まれた米粒だった。しかしただの生米ではない。


「これは、揚げてあるな」


 米の姿揚げ? あるいはフライドライスといったところか。

 米と言えば炊くものだと思っていたニイトはのっけから意表をつかれた。


「カリカリして、意外と美味しい」

「だろ? これをつまみに昼寝をすると最高なんだ」


 シンプルな塩味との相性もよい。ただ、ちょっと硬いか。


「それでは一人ずつ審査場へ参るのじゃ」


 審判を務めるロリカが呼ぶと、一人ずつ部屋の隅へ移動する。そこで渡された五つの小さな木のブロックを中が見えない箱に入れて採点する。ブロックの数がそのまま点数なので満点は5点となる。

 審査するのはニイトと嫁たち、そして同じ組で料理をしている四人を除いた全ての少女たちだ。少女たちは自分と同組の三人以外の全員に採点することになる。多少運によって判定に影響があるかもしれないが、大会を円滑に進行するためにこういう形態になった。


 ロリカが集計して総合得点と満点を入れた人数を記録する。


「次の人」


 次の料理はパンだった。見た目は焼き目のついた丸いパン。黒と白の二種類がある。

 一口食べると、表面はカリッと中はふわっとした食感。


「あっ、米のようなパンだ」


 味付けも塩や砂糖や発酵用の干しブドウなどで、完全にパンの材料だ。


「お米を粉末にして豆粉などと混ぜてパンと同じように焼き上げました」

「面白い味だ。色の違いは?」

「白は白米。黒は四種類の玄米を粉末にしました」

「なるほど~」


 まさか米をパンにするとは思わなかった。しかし少女たちにとってはむしろ自然な発想なのだろう。最初に覚えた食文化の違いから、このように異なる方向性の発想が生まれたのだ。


 お次は竹筒に包まれたものだった。

 中に詰められたものを取り出して食べると、


「甘いっ!? これは何だ?」

「サトウモロコシやココナッツミルクなどと一緒にお米を蒸し焼きにしたものですわ。携帯できるおやつを目指してみましたの」

「スイーツだったのか!」


 お米をデザートの具にする。その発想はなかった。

 やはり少女たちの発想は面白い。そもそも米料理を知らないので、自由な発想で創作できる。

 米料理といえばチャーハンくらいしか思いつかないニイトにはとても楽しいひと時だ。


 一組目最後はまた変わった見た目の料理だった。

 葉っぱに包まれた何かだ。


「これは?」

「米、野菜、ひき潰したプラテイン肉を、塩漬けにしたブドウの葉で包んで煮込んだものなの。添えてあるレモンソースをかけてなの」


 食べた瞬間、ニイトは思った。これ、ちまきに似ている。

 もち米のような青米だけを使い、この食感を出したのだろう。具材の充実した味がもっちり感によって引き立てられて、それをブドウの葉とレモンのサッパリとした爽やかな香りで引き締めている。うん。これはレベル高い。


 ニイトは満点を投票した。

 一組目の審査が終わり、続いて二組目。


「赤米と野菜のトマトソース炒めニャ」

「お? これチキンライスに似てる!」


 タマネギ、ニンジン、グリンピースなどの野菜と鶏肉風味なプラテイン肉をトマトソースで炒め、そこに炊いたお米を加えて混ぜ合わせたのだろう。赤い色合いで統一したことで色取りも良く、味にも一体感が生まれている。

 惜しむらくはここに卵さえあれば完璧なオムライスになったことだろう。もちろんこれでも十分に美味い。これも満点。


 続いて、

「細米とパイナップルのぴり辛炒めはどうでしょう」


 パイナップルの器に入った焼き飯だ。粘り気の少ない細米の特徴を存分に活かした米はパラパラとほぐれて軽やかだ。塩漬けにした豆。パイナップルやレーズンが程よい甘味と酸味を加え、油に染みこんだトウガラシのピリッとした辛味が食欲をそそる。これも満点。


 さらに、独創料理は続く。

 炒めた米を炊いたピラフ、生米を炒めながらだし汁を加えて煮込むリゾットなど、調理方法の違いで様々な異なる食感を生み出す猫耳料理人たち。

 ニイトはいつになく上機嫌で満点を連発した。


「これはお餅のような!」「今度は米の麺!?」「さらにおかきのように揚げたお米のあんかけソース!」


 次々に出てくる料理に舌鼓を打ちつつ、気付けば全ての審査が終わっていた。


「それではみなのもの、結果発表にうつるのじゃ」


 ロリカが厳正に管理したポイント表を公開する。


「優勝はエリンのキノコご飯!」

「みゃっ!? わたし!?」

「おめでとう! 久しぶりの優勝だね」


 以前にも優勝したことのあるエリンは今日で三度目の晴れ舞台を飾る。優勝回数トップのもも、二位のショコラに続く好成績だ。


 もふたけのだし汁で炊き上げたシンプルな炊き込みご飯。具材もキノコに合うものを厳選した少数精鋭。余計な組み合わせを排除した洗練された一皿だった。


「やっぱり優勝はこれしなないニャ」

「ドニャーフ族の故郷のもふたけと、ニイトさまの故郷のお米が融合した一品。歴史の新たな一歩なのんっ」

「ニイトさまと一つになる……にゃふっ!」


 圧倒的大差による優勝だった。満場一致と呼んでも差し支えない。


「我の故郷の四葉大豆もはいっているな。この場に居合わせたことを誇らしく思うぞ」

「オリヴィアの故郷の味も入っているのか。めでたいな」

「あれ? うちの故郷の食材だけ入っとらんやないか!?」

「それでは表彰式を始めるのじゃ」

「ちょっとぉ~!?」


 一人取り乱すアンナだったが、エリンが一言。


「おダシの中にアンナ姉さまから頂いた何かの粉末が入っています」

「ほっ……よかったわ。さすがエリンちゃん。うちだけ仲間はずれは嫌やもん」


 胸を撫で下ろすアンナに顔を背けて、エリンがボソッと一言「味が濁るのでできれば使いたくなかったのですが……」と言ったのは空耳だと信じたい。


「では気を取り直して、褒賞の授与を」


 ロリカに促されてニイトはエリンのしっぽに手を伸ばす。


「今回は少し強めにするよ」

「ひゃん! みんなの前でしっぽをシコシコされるの恥ずかしい……」


 真っ赤になった顔を覆い隠すエリンのしっぽを握って激しくしごくニイトであった。


「さらに今大会は特別賞として、満点を多く獲得した作品にも特別褒賞が授与されるのじゃ!」


 ニイトが満点を連発したせいで、参加したほとんどが受賞に預かることになった。というかなし崩し的に全員が……。

 審査会場にはしっぽを撫でられて気持ちよくなった少女たちがゴロゴロとのどを鳴らす音がこだました。

 てか、なぜにノアさんがちゃっかりしっぽを生やして混じっているんですか!?

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