表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界創世記  作者: ねこたつ
5章 幕間
129/164

5-34

 魔法世界とのゲートが開通して以降、ドニャーフ村に新たな光景が生まれた。


「マーシャ、みんなの様子はどうだい?」

「はい、もうすっかり魔法の基礎を身に付けました」

「さすがだな。成長が早い。それもとマーシャの教え方が良かったのかな?」

「ニイトさまのおかげです」


 ニイトは魔法世界で子供の練習用の杖を大量に購入して、猫娘たちに一人一本ずつ与えた。そしてマーシャに魔法の先生をしてもらうようにお願いしたのだが、たった一ヶ月でこれだ。少女たちは持ち前の成長力を発揮して、すぐに魔法の基礎を覚えてしまった。


「見て見て、あんなに遠くまで魔法の球が飛んだよ!」

「おお、すごいな! 10メートルは飛んだな」


 ある少女は何メートルも先で魔法を維持してみせる。〔放出〕の能力が高い証拠だ。


「こっちも見て! 長いハサミができた」

「おお! これなら高いところにある果物も挟んで採れるな」


 またある少女はマジックハンドのように先端が物を挟めるように魔力を加工した。〔変形〕の技術を上手に使いこなしている。


「これなら石を運ぶのも楽になるぜ」


 別の少女は自身の体重よりも重そうなレンガの山を魔法で持ち上げてしまった。強力な〔維持〕によって多量の魔力を一度に練り、さらに〔操作〕の技術も高いのだろう。というか、既に応用技術の〔融合〕まで使いこなしているじゃないか。


 天才しかいねぇのかよっ!?


 ニイトはショックを受けて膝をつく。


「ニイトさま、いかがされましたか?」

「いや、何でもないんだ。それより、もう既にみんな魔力を自分のからだの一部みたいに操っているな」

「ドニャーフ族はエルフ系の血筋が入っていますので、魔法適性はそれなりにあるのです」


 うらやましい限りだ。


「それなら射撃場をみんなに開放するか。魔法の練習にもなるし、自分の得意不得意を把握しやすい」

「わかりました。ではそのように伝えますね」


 競争が目的ではなく、あくまで自分の成長を可視化するためのもの。ついでに魔力もポイント化できておいしい。





 射撃場に一行を連れて行くと、さっそく目新しい的の描かれた壁に興味を持つ少女たち。


「お姉ちゃん。ここは?」

「ここは魔法の練習場です。的に魔力を当てるとどの程度の強さだったのかを数字で教えてくれます。ためしにわたしがやってみますね」


 マーシャが1メートル先の的に魔力球をぶつけると、『46』と表示された。1~2ヶ月前は『28』が最大だったのに、この成長力である。だが、これが本気ではない。


「今度はもっと強く撃ってみます」


 次は『96』ダメージをたたき出した。もう《魔法の矢》とほとんど遜色ない威力になっている。下級の巨蟲やプラテインならワンキルできるレベルだった。


「面白い! わたしもやるっ!」

「次はあたいな」

「ニャっ!? 先を越された!」

「はいはい、みんな順番ですよ」


 魔法のパンチングマシーンはそこそこ好評だ。個人ごとにデータを残すので、自分の実力を客観的に把握することができる。それがまた少女たちの成長を早めるのだ。

 この分だとオールCのニイトはすぐに追い抜かれそうである。どうにかして魔力を高める方法を早急に考えねば。





「ノア、相談事があるのだが……ぐすんっ」

『わかってるわよ。あの子たちの前で尊厳を保ちたいんでしょ? そんなしょぼくれた顔をしないの』


 人化していないときにノアと話すとテレパシーでの会話になるので、はたから見たら独り言を喋って涙ぐむ痛い人間に見えてしまうのが難だ。


『新しい訓練場を作りましょう。もう設計はできてるわ』


 猫娘たちが射撃に夢中になっている間に、ニイトは新しい訓練場の製作に取り掛かった。

 今度は四方を取り囲まれた部屋の全面が魔力吸収壁になっていて、全ての面に直径1メートルの的がびっしりと埋められている。

 気分を入れ替えて奮起するのみ。


「よしノア、始めてくれ」

『了解、いくわよ』


 前後左右の四方向に敷き詰められた的の一つがランダムで光ると、それを魔法で打ちぬく。

 中心を射抜けば3点。中心から外れれば1点。的に当たらなければマイナス1点。別の的に誤射したらマイナス5点。

 次々に光る場所を素早く発見して迎撃する訓練だ。注意力、動体視力、反射神経、命中力、素早い魔法の発動と、様々な能力が一度に鍛えられるトレーニングとして考案された。


『見逃し! マイナス1点』

「うぉっ! 光が消えるの早すぎじゃね?」

『3秒も光ってるんだから、遅すぎるくらいよ。あんたがもっと早く発見しなさい』


 首を小刻みに回して常に死角を少なく状況を把握する。杖には常に魔力を込めて、即座に発動できるように準備。


「少し慣れてきたな」

『それじゃ、難易度を上げるわよ。今度は消える間隔を2秒に短縮して、光る的を同時に二つまで出すわ』

「うわっ、一気に難しくなったな」


 軸足を回転させてその場でぐるぐる回る。激しく眼球を動かすので目がえらく疲れる。


『だんだん的の中心からずれてきたわよ。もっと集中して』

「くっ……、思ったよりキツイ」


 疲労が蓄積してくるとどうしても魔法の精度が下がる。よって集中力を持続させる訓練にもなるようだ。


『はい。今度は的の数を三つに増やすわ。さらに色も赤と青の二種類になるわ。赤は撃って、青は撃っち

ゃダメよ』


 さらに瞬間判断力をも鍛える。赤は敵で青は味方を想定している。


「あっ! 間違えた!」

『本番だったら仲間が死んでいたわね。マイナス50点!』

「うわぁあ! 今まで溜めたポイントが弾けた! 厳しすぎじゃね!?」

『仲間を撃っといて50点で済むなんて、逆に安すぎでしょう』

「くっそ、もう一度だ!」


 やっていることは単純なのに、肉体も、魔力も、精神も、全てを酷使する。見た目以上にハードな訓練だった。


『はい、お疲れさん。1セットの3分が経過したわよ』

「今のでたった3分!? もう10分くらいは経過したような感覚だぞ?」

『それだけ体感時間が圧縮されたんでしょ。集中すれば集中するほど時間の感覚って長くなるのよ。特に生死がかかった戦闘では、一瞬の出来事が数秒間くらいに引き伸ばされて認識することもあるそうよ』

「へぇ~」

『さ、休憩は終わり。次のセットを始めるわよ』

「早いよっ! 休憩はどうしてこんなに短いんだ!」

『つべこべ言わないの。眼精疲労を回復するブルーベリージュースもあるし、あと9セットは続けるわよ。もちろん毎日ね』

「厳しすぎだよっ!」

『なによ。あの子達の前で威厳を保ちたいんでしょ? このくらいやらないと、すぐに追いつかれちゃうわよ? あの子たちに(ニイトさまって、意外と魔法が苦手なのですね? ぷぷぷ)とか思われてもいいならやめるけど?』

「おっふ! くっぉおおおおおおお! あと10セットだろうと20セットだろうと、やってやろうじゃねーか!」

『じゃあ、30セットにしましょう』

「えぇ~!! そこまでは言ってないよぉ~」


 ノアさんは意外とスパルタだった。


     ◇


 魔法を猫娘に教えてからというもの、あらゆる仕事の能率が上がった。


「おおメイ。ずいぶんたくさんのレンガを運んでるな」

「おう、魔法を覚えてから一気に運べるようになったんだぜ」

「あまり無理はするなよ」

「全然平気さ。むしろドアが小さすぎて通るほうが大変なくらいさ」


 自分の体積の二倍くらいのレンガを悠々と浮遊させて運んでいる。魔法によって運搬も圧倒的に楽になったようだ。





「あれ? エリン。その花は一昨日くらいに植えたばかりじゃなかった?」

「はい。魔法を込めながら育てたら、もうこんなに大きくなってしまいました」

「魔法で植物が早く生長するのか?」

「どうやらそのようです。他の植物でも試してみたのですが、どれも通常よりも早く・大きく成長しました。それと、上手く説明できないのですが、品質もよくなったような気がします」

「どうしてわかったんだ?」

「感覚的なことなので人には伝えられないのですけれど、こう、ギッシリとしっかりしたというか……。今度食べ物で試してみようと思います。通常よりも味が良くなれば納得して頂けるかと」

「わかった。試してみる価値はあるともう。畑の一角をエリンに任せるよ」


 魔力によって植物の成長を強化する。有りえない話ではないと思う。むしろ成長の早い異世界の植物も魔力的な何かが原因であれば腑に落ちるというものだ。





「ニイトさま。不思議なものができたので、見てもらえますか?」

「どうしたんだ、ホルン?」


 ホルンが持ってきたのは削って成型した石だった。


「ん? 何か暖かいな」

「魔力を込めてみてください」


 ニイトが石に魔力を込めると、どんどん温度が上がっている。


「結構熱くなってきた。発熱する石か」

「そうなんです。魔力を込めながら削っていたら、突然石が熱くなってきて」

「削る前は普通の石だったの?」

「はい」


 ニイトはあーくんで【査定】して調べてみる。

 ――刻印石カノ1つ。査定額……10万1080ポイント。

 ――刻印石ルーン・ストーン。魔力との感応性が高い石にルーンを刻んだ、原始的な魔石の一種。魔力に反応すると刻まれたルーンにしたがって魔法現象を起こす。『<《カノ》』のルーンが刻まれているため、魔力と反応して発熱する。


「刻印石というらしい。ここに『<』のルーンが刻まれているだろ? これは火や熱を表すルーン文字なんだ。これによって魔石になったみたいだ」


 そう言えば魔法世界で入手した火石にも同じルーン文字が描かれていたことを思い出す。魔法文字には不思議な力があるようだ。


「魔法はそんなこともできたのですね!? 他にはどのようなルーンがあるのですか?」

「俺が知っているのは全部で24種類だ。紙は持ってるか? 書き起こしてあげよう」


 ホルンが持参したパピルス紙に残りのルーンを書き記す。


「他にも面白い効果が現れたら教えてくれ」

「はいっ!」


 ニイトは恐れ入った。まさか原始的な魔石精製法まで独自に編み出してしまうとは。

 魔法を習得したことで、ドニャーフ村は更なる発展を遂げるのであった。





                   第5章 幕間  完


次回は魔法都市の続きを書く予定だったのですが、そろそろお米を入手しないとまずいような気がしたので、予定を変更してお米入手回をはさみたいと思います。

まだ書きあがってないので、少々更新が空きます。

1週間か、遅くとも2週間以内には戻ってくる予定です。

楽しみに待っていてくれた方には申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ