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「よし、次は土をあつめよう」
ニイトとマーシャは異世界を周って土を集める。お店が忙しいアンナとオリヴィアはそれぞれの世界で頑張っているだろう。
久しぶりに二人きりなので、いつもよりもマーシャを近くに感じる。
「ニイトさま、このあたりはいかがでしょう?」
「そうだな。程よく湿っているし良さそうだ」
あーくんを使って掘り起こしてから土質を調べる。粘土質であればよし。そうでなくても有益そうな土はどんどんストックしていく。
黒い土、赤い土、黄色い土、そして品質のよい粘土。
さまざまな異世界を駆け回って多様な土を集めた。
これらを土置き場に【転送】しておけば、後はドニャーフ少女たちが持ち前のセンスと勘で理に適った組み合わせや配合比率を編み出すだろう。
時間が余ったニイトはマーシャとイチャつく。
「マーシャ、しっぽ触りたい」
「よ、喜んでっ! ――にゃふぅっ!」
いつ触ってもマーシャの毛並みは素晴らしい。すべすべでサラサラで毛先までキューティクルでコーティングされている。
「ところでドニャーフ族って、しっぽの他にも気持ちいい場所ってあるの?」
「の、のども、とても気持ちいいです」
「じゃあ、いいかな?」
「は、はい……」
マーシャは前開きの着物を肌蹴させて、両肩を露出。上乳までむき出しにすると、朱に染まった顔を上げた。
鎖骨からあご先までのエロいラインに沿って指を這わせると、マーシャののどがゴロゴロ音をたて始めた。
「おお、ゴロゴロ鳴ってる」
「耳障りでしょうか?」
「そんなことはないさ。猫人のクオーターだもんね。ゴロゴロしてもらえて逆に嬉しいよ」
「ありがとうございますニャん」
ごろにゃ~ん、とマーシャは無防備に首を預けた。本当に猫みたいだ。でも、小さい肩幅も、はりのある肌も、押し上げられた胸の膨らみも、すべてが美少女そのものなのでエロいです。ただただエロ可愛いです。
「にゃぁっ! 谷間の間も、気持ちいいです……」
そんなことを言われると、もっといろんな場所を気持ちよくしてあげたくなる。
しかし徐々にマーシャの顔がお見せできないような状態に崩れてきた。わかりやすく表現すると、ニャヘ顔の手前くらい。余程気持ちいいのだろう。
今日の帰還時刻は少々遅れるかもしれない。
◇
キューブに戻ると、少女たちがせくせくと作業に邁進していた。
竹炭用の窯を使って、レンガを大量に焼いている。いつのまにか耐火レンガっぽいものが開発されていたのには驚く。そうして焼きあがったレンガを運び込むと、既に陶芸用の大窯の基礎が出来上がっていた。
やや高低差のある地形に段差のある縦長の基礎が築かれている。掘削した地面に珪砂のような砂を敷き詰めて、その上に敷石を敷き詰めて床を作り、レンガで壁を作っていく。
「何のために砂を敷いたんだ?」
「この砂は熱に強そうだから」
「そうなんだ」
感覚的なことらしい。ドニャーフの感覚に任せておけばきっと大丈夫だろう。
「あれ? それって」
「レンガ同士がよくくっつくの。乾くと固まるし、隙間を埋めるのにちょうど良いの」
知らないうちにセメントかアスファルトのようなものも開発されていた。ロリカに素材を自由に購入できる権限を与えて数日でこれだ。ちょっとマーシャとにゃんにゃん♪ している間に優れた建築素材が当たり前のように生み出されていた。
この才能が怖い。
セメント無双でどんどんレンガがつみあがっていき、問題のアーチ部分の製作に取り掛かる。
「メイちゃん。こんな感じでどうかしら?」
「いいよ、そんな感じ。こうやってレンガに角度をつけてやれば、ガッシリと嵌って安定するんだぜ」
長方形のレンガを削って台形に加工している。アーチ構造を作るのに欠かせない工法だ。誰に教えられずとも自然とこの手法に辿り着く。それも最短距離で。それが物作りチート種族のドニャーフ族という生き物だ。
綺麗に湾曲する竹の性質を生かして、ドーム型の骨組みをつくり、それに沿わせてレンガを積み上げていく。徐々に角度が付けられたレンガは重力を受けてガッシリと噛み合って、隙間のない流線型の大窯が出来上がった。耐久性を維持する為に中央には柱が立っているので、熱を入れたときに崩れることもないだろう。
最後に全体を粘土質の泥で覆って、空焚きのついでに竹の骨組みを燃やしてしまえば完成だ。煙突は小さいが、部屋の壁に密着させておけばノアのシステムが自動的に排気してくれるので、室内が煙ることはない。
ドニャーフお手製の陶芸大窯の出来上がりである。
「「「できたぁ~~~!」」」
達成感に満たされてドーパミンがドバーーっした猫耳たちは、ニャンニャンダンスで窯の周囲を回って完成を喜んだ。
しかし、これはまだ目的の半分である。いよいよ良質な陶器の作製に移る。
ニイトが持ち帰った砂は【解体】スキルによってゴミなどの不純物を取り除いてある。あとは天才児たちが思い思いの配合でもって器を作って焼くだけだ。
粘土のこね具合。水の量。他の土との配合割合。
いろいろな種類の作品を作って、記念すべき最初の焼入れが行われる。
通常は1~2週間はかかると言われる焼入れだが、エリア連結ボーナスのよって1~2日に短縮される。
そして冷めてから取り出すと、
「硬い! 今までの土器とは全く感触が違う!」
「赤い色がついているものもあるわ!」
「こっちは青い色になってるよ!」
少女たちは大興奮だった。
触っただけで品質が大幅に向上していることがわかる。そしてさらに副次的効果として様々な模様が浮かび上がっていた。
脈動する炎がそのまま乗り移ったかのような赤い波模様。逆に静かな水のような青色が浮かぶものもある。それとは全く違う人工的な赤や黒の斜線が刻まれたものもある。
同じ窯で焼いたのに、同じ模様の物は一つとしてない。千差万別の個性が集約されていたのだ。
「ねぇねぇ、表面がつるつるしてるものがあるよ?」
「本当だぁ~! どの土を混ぜたの?」
「えっと、確か黒い土。あれ? でも、同じ材料で作った別のやつは全然つるつるしてないな。何でだろう?」
全く同じ材質にも関わらず完成品は似ても似つかない。
それもそのはず、窯焼きはあらゆる要素が複雑に絡み合って完成品に影響をあたえるのだ。温度、火の通り道、窯内部の位置、燃え残った燃料や灰のかかり具合、酸素濃度……。数えればきりがないほど要因があり、完成品を正確にシミュレートすることは不可能に近い。
熟練した職人であればある程度完成形のイメージに近づけることはできるが、完全に一致させることはできない。灰の一粒が偶然付着するかどうかまでを操ることなど、人の技術でコントロールできるわけもないのだ。
それゆえに全く同じものができない特異な性質が存在するのである。
しかし、そのイレギュラーを多分に含んだランダム性こそ、少女たちの興味を引いた。大抵の物は思い通りに作れてしまう少女たちにとって、どんなに分析を重ねても思い描いた通りにはならない陶器は極めることの難しい技術に映ったのだ。難題にこそ挑戦のしがいがあるというもの。
「もっとたくさん作って情報を集めましょう。そうすれば何かわかるかもしれないわ」
すぐに少女たちは次の窯入れの準備を始めた。燃え盛る炉の炎のように熱中し始めた彼女らを止められる者は誰もいない。




