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異世界創世記  作者: ねこたつ
5章 魔法都市『メイガルド』
120/164

5-25

 ローラのピンチを知ったニイトは駆け出して、石版の部屋からゲートに飛び込んだ。


 振り下ろされたスケルトンの骨剣を長槌で受け止めると、柄を回転させて振り上げる。

 その勢いを利用して、頭の上で振り回して槌頭を頭蓋骨に叩き込む。

 遠心力を加えた一撃が骨を砕き、スケルトンは頭部を失う。が、肋骨の中の魔光はまだ消えていない。

 ニイトはさらに槌を半回転させて石突で肋骨の隙間を突いた。

 魔石を貫かれた骨人形は今度こそバラバラになって崩れた。


「魔石が弱点だ!」


 ニイトが叫ぶと、僅かに遅れて現れたマーシャたちが残りのスケルトンに向かっていく。


「あなたたち!? いったい、どこから!?」

「話は後だ! これを飲め!」


 ニイトはどこからか取り出した竹の水筒をローラに押し付けた。中には液体が入っていた。


「これは?」

「少しだか魔力が回復する」


 そんなポーションの存在は確認されていない。だが、ローラに選択肢はなかった。

 一気に飲み干すと、お腹の中が熱くなる。


「こ、これはっ!? からだが温かい?」


 飲み下した胃を中心に熱が放射されるようにからだを温める。そして体内を巡る魔力がたしかに活性化した。


「嘘……魔力が戻った!?」


 その正体は濃縮した月光草のポーションだった。ニイトが調合したMP回復薬である。少量ではあるが、即効性をもって魔力を回復する効果があった。


「脱出するぞ!」


 出てきた穴を見やると、上からスカルの群れが降ってきた。


「ダメ、こっちは逃げられない」

「くっ、他に逃げ道は?」


 部屋中を眺めると、幾つか出口が見える。どうやらここは多くの部屋と繋がる中継地点のようだった。


「こっちだ」


 ローラを手招きして骨に埋め尽くされた地面を移動する。

 スカルの群れが後を追ってくる。前方にはスケルトンの隊列。


「くそう、本当に数が多いな。ローラ、自分の身を守れるか?」

「あ、当たり前でしょ!」


 ローラは再びスカル・レギオンを展開して守りの盾とした。


「よし、オリヴィア、もう一度頼む」

「承知」


 ニイトの指示に合わせてマーシャが《魔法強化》をオリヴィアにかける。さらにニイトも同じ魔法を重ね掛け。


 ――《ショートボム》


 Lv3のキューブ魔法がオリヴィアの指先から放たれる。先ほど慌てて習得した範囲攻撃魔法だ。

 二重に強化された魔法が着弾すると、手榴弾のような爆発が連続して巻き起こる。爆風が巻き上がり、砕けた骨が飛び散る。


「こ、この魔法はさっきの!?」


 驚愕するローラ。先ほど自分たちのピンチを救った魔法を再び見たこともだが、それを放った人物により大きな衝撃を受けた。


 どうしてオリヴィアがこんな強力な魔法を使えるの!?


 至近距離での爆発に驚いたスカルマザーは、まるで蜘蛛のようにお尻から伸びた糸を伝って天井へ登っていった。よく見ると尻からはへその緒のような管が天井に伸びており、そこからさらに壁面に沿って血管のような管が放射状に張り付いていた。


 骨の脚を天井に引っ掛けて忌々しげに地上を睥睨するスカルマザーは、内臓を大きく脈動させて新たなスケルトンを産み落とす。

 丸まったからだのまま骨の山に落下したスケルトンは、からだを開くと杖を掲げた。


「スケルトン・メイジよ! 気をつけて、あいつは魔法を使うわ!」


 生まれて数秒で、スケルトンメイジは魔法を放った。魔力球の乱射だ。


 ――《魔法障壁》


 ニイトら四人は同時に障壁を張った。

 敵の攻撃をことごとく防ぐ。


 さらにニイトは《肉体強化》を自身にかけて、詠唱を終えて隙が生まれた敵に、一足飛びで距離をつめる。

 その動きをとらえた別のスケルトンが二体、ニイトの進攻を食い止めるように割って入る。


「邪魔だ!」


 攻撃力も速度も上がったニイトは、スケルトンよりも速い腕の振りで先手を取る。

 一振りで二体のスケルトンの首を吹き飛ばしたが、首を落とされたくらいで怯む敵ではない。残った腕を使って骨剣を振り回す。その腕もニイトは破壊。槌の中心を持ったコンパクトなスイングで骨の武器ごと破砕してしまう。


 だが、それでもスケルトンは止まらない。人であれば即死している状態でありながら、戦闘を継続。

 右腕を破壊されても左腕を伸ばし、両腕を失っても足を使い、足がなくなっても胴で体当たり。

 痛みも恐怖も感じないアンデッドは、魔力が尽きるまで死兵となって戦い続ける。


 一体のスケルトンの肋骨を槌で突き破り、もう一体は至近距離から《魔法の矢》で魔石を破壊する。

 だがそこで、スケルトンメイジが二度目の魔法を完成させる。

 一瞬の先手を争って肉薄する両者。

 先に魔法を発動させたのはスケルトンだった。


 至近距離で魔力の砲撃を浴びたニイト。

 直前に展開した《魔法障壁》で受けるが、高威力の魔法の前に障壁がガラスのように割れて崩れる。が、障壁は一枚ではなかった。遠目からマーシャが展開した障壁が残りの魔力を相殺する。

 二度目の魔法攻撃を耐え切ったニイトは、そのままスケルトンメイジの胴を魔石もろ共槌頭で両断した。





 ローラは我が目を疑いながらその光景を見ていた。

 いったい、目の前で何が起こっているのか。これは現実なのか。

 人とは思えない素早い身のこなしに、驚異的な怪力。さらに激しい肉弾戦を行う最中に魔法の同時使用。しかも〔変形〕させた魔力の矢は一瞬にして現れた。驚異的な発動速度でもって魔石を正確に射抜くなど、とても常人にできる芸当ではない。

 ニイト、あなたはいったい、何者なの?




 ローラの疑問は解消されることなく、戦局は刻々と変化し続ける。

 スカルマザーは生まれたばかりの我が子を殺されて絶叫し、復讐に燃えた目つきで何体ものスケルトンを産み落とす。


 さらにマザーの悲鳴を聞きつけてか、部屋に続く複数の出入り口からスカルの群れがなだれ込んで来る。


「どんだけいるんだよっ!」


 倒しても倒してもきりがない骨の群れに、ニイトは辟易したように足元の頭蓋骨を蹴飛ばした。


「マーシャ、逃げ道はあるか?」

「あそこの道です! スカルが出なくなりましたから、上に抜けられそうです」

「よし、そこから脱出するぞ! ローラが脱出できるまで俺たちが時間を稼ぐ。ローラ、合図をしたら走れ!」


 ローラはぽ~っと顔を赤く染めながらふらふらしていた。


「おい! 大丈夫か!」

「だ、大丈夫よ! ニイトたちはどうするの?」

「俺たちなら大丈夫だ。アンナ、頼む」

「ほいさっ」


 アンナの〈スパイダーネット〉は足止めに適した能力だ。網にかかったスカルが糸にもがいて後続を渋滞させる。無理に乗り越えようとすれば新たなネットに絡まれて、スカルの骨同士が絡まってお互いに転倒する。


 ニイトは長槌を長く持って振り回し、前線の敵を薙ぎ払う。オリヴィアは《ショートボム》で小範囲を

爆破。さらに素早い発動速度をいかして討ち漏らしを《魔法の矢》でしとめていく。

 そしてここにエースが加わる。


 マーシャは火の槍を展開するがすぐには打ち出さずそのまま保持し、しばらく振り回して周囲の敵を焼き払う。肋骨に突き刺した穂先から炎が乗り移り、スケルトンを内部から焼き尽くす。

 そして維持時間がいっぱいになると、マザーに向けて投擲した。

 腹部の内臓に刺さった火の槍は激しく燃え上がり、マザーの絶叫が響く。


「ギュォオオオオオオァアアアアアアアアア!」


 引火した一部の内臓を自ら切り捨てて延焼を免れる。ヘドロのような肉塊がぐちゃっと地面に落ちて飛び散った。

 憎悪の視線をマーシャに向けながら、骨を変形させて内臓を守るスカルマザー。

 スケルトンらが一斉にマーシャを最優先排除対象と認識して集まっていく。


「今だ! 走れローラ!」


 ヘイトがマーシャに集まって敵の注意が偏った今がチャンス。が、ローラは戦局を呆然と眺めていて聞こえていない。





 ローラの心中は混乱に包まれていた。

 これはいったいどういうことなの? だってあなたたちは三ヶ月前に魔法を覚えたばかりの初心者じゃない。この短期間に何があったの!?


 その驚きは当然だった。何せニイトらに魔法を指南したのは他ならぬ自分なのである。多少の才能があるとは思ったが、こんなに短期間で自分を凌駕するような戦闘力を持つようになるなど考えられない。


「ローラ!」


 ニイトに肩を揺らされて、ローラは顔を上げる。


「ひゃ、ひゃぃっ!?」


 目の前にいたのは勇猛果敢な戦士だった。心臓がバクバク早鐘を打ち、血液が沸騰したようにからだを熱くする。恐怖とは別種の圧力を感じて、ローラは顔を湯だたせた。


「ぁ、ぁっ、あ」


 声にならない何かを表現しようとしたが、その正体が何か彼女自身にもわからなかった。


「逃げるぞ!」


 声が出ないので、大仰に首肯する。

 ニイトに腕を引っ張られて、ローラは出口へと向かう。

 降りてきたときの様に垂直にそそり立つ岩壁があった。上のほうには正方形の光があり、登れば抜けられそうである。


 ローラは浮遊のスペルを唱える。


「あなたは?」

「仲間を連れて後から行く。先に登れ」

「わ、わかったわ」


 ローラは風の層に乗って上空へ舞い上がっていった。

 すぐに、ニイトは仲間を集めて出口付近に集まった。押し寄せてくるスカルの群れを魔法の乱射によってけん制する。

 直後、スカルの群れがついに突破して、出口に突っ込んだ。


「ニイトッ!」


 スカルの群れに飲み込まれて、ニイトたちの姿が見えない。


「そ、そんな! ニイトたちが、私のせいでッ!?」


 ショックのあまり浮遊の魔法が解けそうになったが、次の瞬間には上空から信じられない声が聞こえた。


「こっちだ、ローラ!」

「えっ――!?」


 どうして、自分よりも速くニイトが上にいるのか。

 ローラは混乱を極めた。全てがわからない。

 強さの秘密も、強力な魔法の正体も、一瞬にして上層に移動した謎も、何もかもが夢としか思えない。


 これは現実ではない。悪い夢を見ているのだ。そう考えるしか、辻褄の合う可能性はなかった。

 しかし、上から伸ばされたニイトの手を掴むと、やはり現実の生々しい感触だった。

 ローラはそのまま引っ張りあげられ、強く手を握られたまま走り出す。


「マーシャ、前方の索敵を頼む」

「お任せを!」


 五人は入り組んだ迷路を駆け抜けて、出会うスカルを問答無用で薙ぎ倒しながら出口へ向かった。

 1層と中間層を繋ぐゲートを通り過ぎ、1層を駆け抜けけ、ついに魔法都市と迷宮を繋ぐスタート地点まで戻ってきた。

 ローラは中々静まってくれない荒い鼓動のせいで、ずっと胸を押えっぱなしだった。


「よし、ここまでくればもう大丈夫だろう」

「あ、あの、助けてくれて、ありがとう。……その……」


 それ以上何を言えばいいのかわからず、ローラは目をとじで考えを巡らせる。


「いいって。じゃあ、またな」


 相応しい言葉は思いつかないが会話は続けなければならない。何から聞けばいいのかわからないが、聞きたいことが山ほどあるのだ。

 だが、そうして目を開けたときには、既に四人の姿はなかった。


「消えた……?」


 そんなバカな。広い周囲を見渡してもその姿はとらえられない。ならば先に迷宮を出たのかと階段を登って水面を飛び越えたが、


「いない……。ねぇ、今、私のまえに出てきた四人はどっちに行ったの?」


 近くにいた人に話しかけるが、


「はぁ? あんた以外に誰も出てきてないぞ?」

「そ、そんな、ありえないわ…………」


 しばらくローラはその場から動けなかった。

 自分の身に起こったあまりにも現実離れした出来事に、頭がパンク寸前だった。

 ただ、上空を見上げながら一言だけ小さく呟いた。


「――――ニイト……」


 あらゆる感情が凝縮された、熱のこもった声音だった。

 そして虚空を見つめる瞳に映っているのは、水中都市を象徴する代わり映えしない水の結界などではなく、そこにはいないはずの戦士の後姿であった。


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