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異世界創世記  作者: ねこたつ
5章 魔法都市『メイガルド』
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5-22


 その後数試合が行われたが、意外性のある動きと予想もつかない戦術で相手を翻弄したニイトチームは全勝を守った。

 当然少ない戦力で勝ち続けたことは高く評価されて、ニイトたちは迷宮科への編入試験に合格した。


「みんな良くやった。これで俺たちもエリートの仲間入りだ」

「とんとん拍子の出世ですね。さすがニイトさまです」

「まあ、うちにかかれば楽勝やろ」

「我が魔法士のエリート……まさかこんなことになるとは考えもつかなかった」


 確かに話が進みすぎていまいち実感が追いつかないのも事実だった。


「準備に一週間ほど時間があるから、引越しの支度とか物資の買出しとか、必要なことを済ませてしまおう」


「ニイトさまとの新婚生活が始まるのですね! 子供部屋も用意しておいたほうがよろしいでしょうか……? チラッ」

「うちとニイトはんの愛の巣……きゃっ」

「一つ屋根の下で……悪くない響きだ、ポッ」


 頬を桃色に染めながら妄想に耽る嫁たち。


「あれ? 言ってなかったっけ? 王立学院は全寮制だよ?」

「「「…………えっ?」」」


 一瞬にして現実に引き戻された嫁たちは目を点に変えて固まる。


「当然、男女で寮が別だから、同じ部屋で寝泊りはできないぞ」

「「「…………退学申請をしてきます」」」

「おいっ!」


 入学前に退学するなどという前代未聞の暴挙に出ようとした嫁たちをなだめるニイト。


「しかしニイトさまと離れ離れで過ごすなんてただの苦行です。この世の終わりです」

「せやせや。そうまでして入学なんてしたないわ」

「発作が起こったときにニイトがそばにいないと困るのだが……」


 嫁たちに詰め寄られ、ニイトは泡を飛ばす。


「わかったわかった。夜はキューブで一緒に過ごすから。それでいいだろ?」


 のっけから頭の痛くなる門出になりそうだった。

 すると三人は途端に相好を崩す。


「いやん♪ キューブ内にラブラブ部屋を作って一緒に一夜を過ごそうなんて、うちの旦那様も大胆になったもんやで」

「え? いや、そこまで言っては……」


「男に二言はなしだ。ちなみにエルフに嘘は許されぬぞ?」

「外堀を埋められてる!?」


「計画通りニャっ(約束ですからね~)」

「心の声と裏返ってるよっ!?」


 ニイトは、あっ、やっちまった。はめられた。演技だったのかよ。と後悔するも後の祭り。あまりの興奮振りに本音と建前が入れ替わっているあたり、裏で糸を引いていた主犯はマーシャだろう。またしても謀りおったな!

 最近マーシャが積極的に謀略戦を仕掛けてくる。主人を影から操ろうなんて、けしからん嫁だ。おしおきだよ、まったく、ぷんぷん!

 嫁同士でハイタッチをかます三人を見て、ニイトは肩をすくめた。




 そんなこともあり、魔法世界での生活空間も整えつつ校内の施設を見学して回った。

 校舎、宿舎、食堂、訓練場、図書館、武具店、魔道具店、病院と、普通の学校にあるような設備から絶対にないような店まで沢山の施設が集まっている。


 この世界で最も優先度の高い迷宮探索を行う未来の希望を育てる場所だ。各方面から最良のものが集められて、万全のサポート体制を整えている。


 そんな中ニイトが足を止めたのは、やはり世界の中心にある迷宮の入り口だった。

 深い水の底に建設された水中魔法都市メイガルド。その中心に位置する迷宮の門は、地面に開いた直径100メートルほどの大穴だった。穴の入り口は真っ黒い空間で満たされていて内部がどうなっているのかは視認できない。しかし経験者の話によると、黒い膜のような層を抜けるとすぐに迷宮の内部に到着するそうだ。


 ときどき入り口付近までやって来た迷宮内のモンスターが地上に出てくる為、穴を取り囲むように高い城壁が築かれている。

 街の外から見えた高い城壁は、実のところ内側から出てくるモンスターを監視するためのものだった。外敵から民を守る通常の城壁とは逆の役割である。


 城壁の上からその光景を眺めていたニイトは、早く迷宮の中に入ってみたいと心を募らせる。迷宮科に編入できたとはいえ、まだ迷宮に入る許可は与えられない。

 迷宮に入るには実力と知識が十分に認められた上で、さらに迷宮経験者の随伴が必要なのだ。

 ここまで徹底するということは、それだけ内部が危険であるということであるし、同時にそれほどの危険を冒してでも入る価値のある見返りがあるということだ。

 なにせ土や雑草を持ち帰るだけでも大層喜ばれる世界だ。多くの資源が眠ると称される迷宮は宝箱に入るようなものなのだろう。


 眼下を睥睨していたニイトは見知った顔を見つけた。


「おーい! ローラ~」


 名前を呼ばれたローラはくるくると首を回し、城壁の上で手を振っているニイトを見つけて驚いたように瞳を開いた。

 一緒に歩いていた複数の男たちに断りを入れるように頼み込んでから、一目散に城壁を登ってニイトの元に走り寄る。


「よう、久しぶり」

「ちょっと、あなた! 久しぶりじゃないわよっ。ここは一般人が入ることを禁止されている区画でしょ。見つかったら罰金なんだから、早く出なさいって」


 再会を喜ぶ間もなく堰をきるローラに、ニイトは許可証を見せる。


「へっ? 何であなたがこんなものを持っているのよ」

「迷宮科の編入試験に受かったときにもらった。城壁の上までは入っていいんだろ?」

「はぁ~~!? エリート試験に受かったですって!? 嘘おっしゃい! だってあなた、魔法を覚えたのだってほんの三ヶ月前でしょ? たったそれだけの期間で合格できるほどの実力が身に付くはずないじゃない!」


 大仰な身振りでわめくローラに、マーシャたちも同じように許可証を見せる。


「あ、あなたたち……、公文書を偽造するなんて、もう庇うことはできないわ。通報しなきゃ……」

「だから変な誤解をするなって」


 ローラはふらふらと後ろを振り返ると、


「私、これから迷宮に入るから、じゃあね。あなたたちのことは何も見ていないことにしておくから」


 そう言い残して仲間の元へ帰った。仲間に何かを聞かれるとブンブンと首を大きく振っていた。

 たぶん知人の不利益にならないように誤魔化した、彼女なりの優しさなのだろう。


「誤解は解けませんでしたね」

「何気に思い込みの激しそうな子だからな。時間が経てば誤解も解けるだろう。それよりも――」


 ローラは迷宮に入ると言っていた。

 見てみたい。中を。今すぐ。


「――ちょっと、着いて行ってみようか?」

「許可のないうちに迷宮に入るのは禁止されていますよ?」

「直接入らなければ大丈夫だろう。キューブのモニターで後を追うだけなら誰にもわからないし」


 そんなわけで、ニイトたちは一度キューブに【帰還】して、ローラの後を追うことにした。


     ◇


 キューブの石版部屋。

 左右に広がった石版の間に映し出される大型スクリーンの前に、イスやテーブルを並べてニイトら四人が座る。テーブルの上にはお茶やジュースや果物やおつまみまで用意していて、完全に映画鑑賞でもするような雰囲気だ。


「ニイトさま。お飲み物は何に致しましょうか?」

「そうだな。煎り麦で作った自家製の麦茶にしようかな」

「はい、ただいまお持ちします」


 マーシャが火石に魔力を注いで、ポットに入ったお湯を沸かす。

 メイガルドで作成された魔道具型の日用品が思った以上に使いやすかったので、有能なものは積極的にキューブへ輸入している。


「ニイトはん。うちが作ったおつまみも食べてや」

「おお、もらうもらう。――サクサクして美味いじゃん。ナッツみたいだな」

「せやろ。うちの自信作や」


 完全に、休日に友達の家に集まって遊ぶ感じの流れだった。ゲーム機のコントローラでも持っていれば、大型テレビに映したダンジョンをみんなで攻略する光景と高い割合で一致するだろう。


「ニイトよ。我はこういうことはあまり気が乗らぬな。まるで盗み見をしているようで……」

「まあ、そう堅いことを言うなって。これも立派な調査なんだよ。情報収集の一環なのさ」


 やや不服そうなオリヴィアだったが、淹れたての香ばしいお茶を一口飲むとほっこり顔になった。


「むむっ? 素朴で深みのある味わいだな」

「だろ? オリヴィアの世界の麦をブレンドしたお茶なんだ。こっちの揚げたお菓子も食べてみろよ」


 ニイトは魔力を飛ばし、お菓子に〔融合〕させて空中を漂わせるとオリヴィアの口に放り込んだ。魔法の応用練習を兼ねて、最近では日常の動作にも魔法を使うようになっている。


「おお、確かにサクサクして食感がいいな。ほんのりきいた塩味が食材の旨味を引き出している。お茶とも良く合うな」

「だろ?」

「オリヴィアだけずるい! うちにもあーん、して」

「あ、わたしもお願いします」


 アンナとマーシャが口を開けて待機しているので、ニイトは魔法の同時使用で二人の口に同時に入れた。

 なんか、女の子に口を開けさせてモノを入れるって、さり気ないエロさがあるよな。


「香ばしくてカリカリしていて美味しいです。このお菓子って何でできているのですか? 確かアンナさんが以前に作ってくれて保管していたものですよね?」

「ケラや」

「ブフッッ!?」


 オリヴィアが咽た。麦茶をごくごく飲んで気道を確保する。


「我は、また虫を食べさせられたのか……」

「別にええやん。美味かったやろ?」

「…………確かに、予想外に美味ではあった……のだが……。次からは事前に教えて欲しいものだ」

「ゴメンゴメン。ならお詫びにこれを食べてみ。今度はフルーティーで虫の味なんてせえへんから」

「む、そうか。――――おぉ! たしかに果実のような甘い香りだ」

「せやろ。ぷふっ」


 ああ、やりおったなアンナ。それ、タガメペーストじゃないか。悪気など微塵も感じていないことがわかったよ。

 バラしたら怖いのでニイトは沈黙を決め込んだ。


『なんか、あんたたち楽しそうね』


 石版からノアの音声が発せられる。


「まあ、たまにはいいんじゃないか? いつも無駄に危険な目に合ってるし、今日くらいはまったりとダンジョン見物としゃれ込もうじゃないか。ノアだってたまには俺たちと一緒に冒険気分を味わってみたいと思わないか?」

『う~ん、そうね。たまにはいいかしら。それじゃ、今日はあたしも実体化しようかしら』

「おお、いいぞ。みんなでお茶会しようぜ」


 ノアも乗り気になった。人化して席に着くと、マーシャからお茶を受け取る。これで反対するものは一人もいない。


「そういや人化しても石版の機能はそのままなんだな」

『情報処理を多元化して並列起動してるのよ。むしろ実体化しているあたしがその一部かしら』

「なるほど。複数のことを同時進行できるわけだな。お、そろそろ始まるみたいだぜ。カメラワークをよろしくな、ノア」

『はいはい』


 今日はまったりくつろごう。

 このときのニイトは完全に油断しきっていた。



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