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異世界創世記  作者: ねこたつ
5章 魔法都市『メイガルド』
115/164

5-20

 迎えた王立魔法学院の編入試験当日。


 迷宮科・魔法戦闘学科の試験内容は五人組によるチーム戦だった。

 全国から集められたエリートの卵ではあるのだが、いきなり見知らぬ人間と組めと言われても戸惑う者も多い。しかし開始と同時にすぐに五人を集めたチームもいくらかある。

 どうやら事前に情報収集をしていたかどうかをも見るテストだったようだ。


 ニイトらはもちろん四人で組むので、あと一人を見つければいい。しかし、ハーレム臭が半端ない四人の輪に入る勇気は誰も持ち合わせておらず、むしろ敵愾心を丸出しで威嚇してくる始末。結局人数的な原因も相まって、ニイトたちは四人で試合に臨むことになった。


 ニイトらのほかにも四人チームが一つあったのだが、開始前に既に負けたような顔をしていた。一人分のハンデはそれほど大きいということだろう。




 最初の試合は五人対五人のオーソドックスな戦いだった。

 三人ずつが前に出て近接戦でぶつかり合い、二人のうち一人が長距離からの射撃。もう一人が前線のサポートをする布陣。


 魔法のない世界の戦闘では前線の兵士たちが横一列に隙間なく並んだ密集陣形を取ることが多いが、魔法戦においては少々異なる。

 前線の魔法兵たちの間には左右に大きく隙間が開いている。お互いに範囲攻撃の巻き添えを食らわない距離感を保ち、同時に後衛の射撃線を確保するためでもある。

 その都合上、前線の一角が崩れてしまうとそこから総崩れになりやすい。


 試合は一方のチームが押していた。中央で近距離魔法を打ち合っていた前衛がどんどん敵陣に押し込んでいく。

 中央の支配力が強まって優位に立った瞬間に後方の二人が前に出てきて、敵の中央と両翼の間の伸びすぎた陣形を切り裂くように魔法を連射する。

 うまく敵陣を分断して後方のスナイパーをけん制しつつ、取り残された敵の両翼を挟み撃ちにして撃破した。


 二人を失ったところで相手チームが降参した。


「鮮やかな戦いでしたね」


 ニイトの横で観戦していたマーシャが感心する。


「中央から押し切ったな。有利な射線を確保できたのが大きい」

「弓陣側のセンターが強力でした。あれを抑えるのは骨が折れそうです」


 ヴァレンシア魔法学院でも集団戦術の基礎は学んだ。

 横一列に並ぶ『横陣』を基本とすると、山型に中央が前に出る陣形が『弓陣』と呼ばれる攻撃的な陣形。逆に谷型に中央が後ろに下がる陣形が『三日月陣』と呼ばれる守備的な陣形だ。


 陣形自体に優劣があるわけではないが、戦術の方向性が違う。

 弓陣は中央を押し込んで有利な地点から射撃でしとめる作戦。あわよくば完全に敵陣を分断して各個撃破する戦術。それに対して三日月陣は前に出てくる敵の中央をおびき出してから両翼と合わせて集中攻撃を浴びせて撃破。さらには包囲殲滅するカウンター戦術。


「中央での攻防が勝敗を分けたようですね」

「ああ。この陣形同士だと、どうしても中央の優劣がそのまま決着に結びつくな。


==========

                ▼射撃

       ▼援護 ▼中央

       △援護 △中央

 ▼右翼            △射撃  ▼左翼

 △左翼                 △右翼


 ▼……三日月陣 △……弓陣 

==========


 続いて第二試合。

 今度も弓陣と三日月陣の攻めと受けの戦いになった。


 しかし今度の勝者は三日月陣のほうだった。両翼が攻め方の挟撃を受けても耐え切り、その間に前へ出てきた中央をを倒してしまった。

 鍵となる中央が破られたことで、四人が残っている弓陣のチームが投了した。

 改めて中央の重要性が際立つ試合だった。


「ニイトさま、わたしたちは誰が中央の役目を担うべきでしょうか?」


 マーシャの問いに、ニイトは首を振る。


「俺たちは四人しかいないから普通の陣形で戦ったら負ける。だから変則的な布陣で臨もうと思う」


 果たしてニイトの読みどおり、それは次の試合で露骨に現れた。


 五人のチーム対四人のチーム戦は、劣勢を意識した四人チームが守備的な布陣で望んだが、一人ずつマンツーマンでマークされて機動性を奪われると、余った一人が隙を見つけて一人を挟み撃ちにした。

 あっさりと一人がやられて、これで五人対三人。僅か一分ほどの攻防で勝敗が決した。


「うーむ、瞬殺だったな」

 オリヴィアがあごに手を当てながら呟く。


「ニイトよ、このままだと我らも彼らの二の舞になりそうだ。何か策はないのか?」

「そうだな。幾つか考え付いたことがあるから、作戦会議を開こう」


 ニイトたちは四人で丸まってヒソヒソと小声で話し合った。


     ◇


 いよいよニイトたちの出番がやって来た。

 対戦相手の五人組は既に勝ったようにニヤケている。普通に戦えば数的優位のある方か勝つと考えるのは自然だ。


 相手はオーソドックスな横陣で前三人、後ろ二人の構え。バランスが良いので相手が何をしてきても対応しやすい。

 優勢のときは下手な奇策に走らず、基本に忠実であるほうが正しい。


 対してニイトたちは試合が始まるまでは相手と相対するように前三人、後ろ一人で並んでいたが、試合が始まった瞬間に斜め一列に並ぶ変則的な構えに変化した。


==========


    ▼後衛A  ▼後衛B

 ▼右翼   ▼中央   ▼左翼


 △アンナ

    △ニイト

       △オリヴィア

            △マーシャ

==========


 突然陣形が変わって相手に戸惑いが生まれるが、お互いに前方へ駆け出した以上、足を止めてじっくり考える余裕はない。

 四人の中で最も前線に近い場所に位置するアンナが、最初に敵勢とぶつかる。


 一般的にだが、魔法士は右翼側にいる方が強者な場合が多い。それは右手で杖を持って前方に構えた場合、正面から左側にかけては視界が開けているが、正面から右側にかけては自分の腕のせいで死角が生じる。このことから魔法士たちは死角のある右側に回りこまれるこをを無意識に嫌い、死角のない左側へ敵を追い込むように、戦っているうちにやや右側へ流れていく場合が多いのだ。

 つまり、右翼側はチームの中で最も攻撃的な魔法士が、中央は耐久力のあるタンクが、そして左翼側は敵の右翼を食い止める守備的な魔法士が担うことが基本となる。


 よってアンナが相対するのは敵のエースだ。


 勢いよくぶつかり合う両者。

 敵はエースの座に相応しく、高い魔法強度を武器に攻撃的な戦いを仕掛けてきた。


 対してアンナは防戦一方。申し訳程度の反撃はするものの、攻撃力不足で相手の脅威にはならなかった。


「オラァ! どうした、どうした! そんなものか!」


 実力差を感じ取った相手は勢いを増して攻めてくる。通常、敵の左翼側は最も守備力の高い人間が当てられる。その経験からニイトチームの実力は大したことないと予想し、一気に押し切ろうという魂胆だ。


 相手の圧力に押されて、アンナは徐々に後退を余儀なくされた。

 ピンチのアンナを見て、最も近い位置にいたニイトがサポートに向かう。


 するとそれはさせまいと、敵の後衛Aが射撃でニイトをけん制し、アンナに近づけさせない。さらに敵のセンターが駆け寄ってきて、二人で連携してニイトをはさみ討ちにしようとする。


 一対二の局面になるとニイトは苦しい。必死の防戦で挟撃を耐え切る。

 すぐさまオリヴィアが駆けつけて、敵の中央と相対する。


 ニイトは後衛Aに連射を浴びせてけん制しながらオリヴィアとスイッチした。その足でアンナのサポートに向かい、敵のエースを挟み撃ちにする。


 敵エースは挟撃を避けて外側へ逃げた。その隙に今度はニイトとアンナが入れ替わり、敵エースはニートが受け持ち、アンナはオリヴィアのサポートに向かう。


==========

              ▼後衛B

    ▼後衛A  ▼中央

   △アンナ △オリヴィア

▼右翼 △ニイト                   ▼左翼

                         △マーシャ

==========


 戦場の左辺に九人中七人が密集して団子状態になった。そして遠くの右辺ではマーシャと敵左翼の一騎打ちが行われている。


 この局面で重要になってくるのは、敵の後衛Bの立ち回りだ。

 左辺では三対三のこう着状態、右辺では遠く離れた位置で一騎打ち。どちらかに加担して数的有利な状況を作ることが後衛Bの役割だった。


 本来ならば両者の中心地点に立って、両方をサポートできれば理想的なのだが、戦場が左右に広がりすぎてしまった為に、同時に両方を援護できない。


 どちらかを選ばなければならない。

 では、どちらを捨てるか?

 三対三と一対一。どちらも勝率は50%。

 そこに新たな厄介事が飛び込む。


「アンナ、撃ちまくれ!」

「ほいさっ!」


 エースの圧力で封じ込めていたアンナが、水を得たように魔力球を乱射する。

 想定外に素早い魔法発動に、また判断が揺れる。エースが押しつぶそうとしていた相手が手数の多い攻撃で戦局をかき回すなど想定していなかった。弱者だと思っていたが読み間違いだったかもしれない。あれだけの手数なら被弾率も上がりそうだ。それなら三人側の勝率は50%を切るかもしれない。


 後衛Bは迷った。

 そしてそれこそがニイトの狙いだった。五人の中の一人が判断に迷って戦いに参加できない状況。この瞬間だけは五対四ではなく、四対四の同数対決。この状況を作り出すために、あえて陣形を極端に間延びさせたのだ。


 しかし相手もエリートの卵。すぐに正解を導き出す。


(もしも三人の方が負ければ二対三。自分が加わればまだ同数で互角。しかし一対一で負ければ右辺を突破されて側面からの挟撃を受ける。より危険なほうは一人の方)


 後衛Bはすぐにマーシャの方へ駆け出した。

 だが、この判断に要した数秒間の後れが命取りだった。戦場においての数秒間は平時における数時間にも勝る。


 援護が間に合う前に、マーシャが敵の左翼を倒していた。


 これで同数。しかし互角とは程遠い。

 マーシャが一騎打ちに勝ったことで右辺はニイトチームが制圧した。このままセオリー通りに側面からの挟撃体勢に移行するだろう。


 相手チームに残された手段は、マーシャが戦場を横断して走り寄るまでの僅かな間に、左辺で一人倒して再び数的有利を確保するしかない。

 だが、それすらも許されなかった。


 マーシャは左辺の戦場へ近づく気配すら見せずに、その場で杖を構えて多量の魔力をためた。


(まさかッ!?)


 後衛Bが気付いたときには遅かった。

 マーシャの長距離射撃が戦場を横断して逆側まで到達したのだった。


 高火力の一撃が無警戒だった中央のタンクに直撃し、その瞬間にオリヴィアが攻撃に転じて討ち取る。

 敵のエースはニイトが戦場の端に封じ込め、守りを失った後衛の二人に、アンナ・オリヴィア・マーシャの三人が迫ったところで、戦闘終了が告げられた。


 前評判を覆す、鮮やかな逆転劇が演じられたのだった。

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