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異世界創世記  作者: ねこたつ
5章 魔法都市『メイガルド』
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5-7

 ローラと別れた一行は、一度キューブに帰還することにした。

 今までも日に一度は帰還してそれぞれの世界の様子を見ていたのだが、ここ数日は魔法の習得に集中しすぎて他の世界の情報収集がおろそかになっていたのである。

 特に店を持っているアンナはあまり長期間離れると問題が出てきそうだ。


 ――【帰還】


「それじゃ、うちは急いで店を見に行ってくるわ」

「我も炭小屋の様子を見てくる。それと魔法が使えるようになったことを長老に報告しておきたい」


 アンナとオリヴィアは忙しそうに故郷への扉をくぐった。


「さて、俺とマーシャはどうするか」


 そのとき、石版からノアが発声する。


『もしもし、あたしのことを忘れてませんこと? 最近お嫁さんが増えてデレデレしすぎじゃないの?』

「まさか。俺とノアは一心同体じゃないか。俺が見ている景色は全てノアに共有されてるんだし、常に共にいる状態と同じだろ」

『ふ~ん』


 ノアはやや不機嫌そうな声音だった。


『まあいいわ。あんたに耳寄りな情報が二つあるわ』

「何だろう?」

『外の魔法に関することよ。一つは魔力の回復を助けるアイテムがあるわ』

「マジか!? どれどれ?」

『月光草って覚えてるかしら? あんたが虫世界で始めて【売却】したときに紛れていた草なんだけど、この草は月の光を受けて魔力を生み出す生態があるの。葉や花をそのまま食べれば少しだけど魔力を回復できるし、寝る前に煎じて飲めば魔力の回復量を大幅に増やせるわ』

「そりゃ、すごい! さすがノアだな。俺の望んでいることをすぐに実現してくれるなんて」

『ま、まぁね。これくらいはできて当然よ。なにせ、あたしたちは一心同体なんだからっ』


 一瞬にして機嫌が良くなったノアは、【買い戻し】リストの中から月光草を表示する。


 ――月光草 1本 購入額……15万ポイント。


 少々高いが、得られる利益に比べれば微々たる出費。


「お前のことだから、この草を一本だけ食べてはい終わりというわけではないだろ?」

『当然でしょ。月光草は日中花を閉じて休眠状態になって、月の光を受けたときだけ花を開いて活動をするの。そのせいで非常に成長の遅い植物なんだけど、キューブなら天候操作で一日中夜にすることができる。つまり通常の何倍もの速度で生育させられるわけ。さらに草原エリアを作って連結させれば……わかるわよね?』

「さすがノア、頼りになるなぁ~」

『当然よっ。すぐに数が増えるだろうから、できたらみんなで飲みなさい』


 石版の部屋にノアのご機嫌な声がとてもよく弾んだ。


「そういえば良い話が二つあるって言ってたよな? もう一つは何だ?」

『あたしなりに効率よく魔法技術を伸ばす方法を幾つか考えたわ』

「ほう、どんな?」

『これよ』


 ノアは光のホログラムで立体映像を照射する。映し出されたのは部屋の間取りのような見取り図。壁際に射撃の的のような円形の模様が描かれている。


「射撃場みたいだな」

『その通りよ。この的が描かれている壁には魔法の威力を数値化して表示する機能を付けるわ。さらに計測したデータを個人ごとに保存しておけば、後で魔力の成長具合をグラフにして可視化できるでしょ』

「それは便利だな。数字で見えると感覚的な曖昧さがなくなって、全員が明確な基準を認識できるようになる。何よりゲームっぽくて面白そうだ」

『でしょ? しかも魔力を吸収してポイント化するブロックを壁際に敷き詰めることもできるの。初期投資はちょっと高いけど、これで練習に使用した魔力が無駄にならずにポイントに還元されるようになるわ』

「すげー、まさに捨てるところがない! しかも毎日回復するMPをポイントにできるなんて、無限に資源を手に入れたようなものじゃないか!? それでいて魔法の訓練になるなんて夢のようなシステムだよ! すぐにやろう。ちょうど土地がたくさん余っていることだしな」


 ニイトは即座にその計画を実行した。


     ◇


 アンナとオリヴィアがキューブに戻ってくると、さっそくニイトは完成したばかりの射撃場へ案内した。


「えらいスッキリした部屋やな。壁と床以外に何もあらへん」

「ニイト、ここは何をするところなんだ?」

「魔法の訓練場さ。まず俺がやってみるから見ててくれ」


 ニイトは壁に描かれた的に向かって覚えたばかりの魔力放出を放った。

 ポン! と可愛い音を立てて当たった場所に、光で数字が現れる。


「数字の『7』って出たな」

「魔法の威力を数値化できるようにしたんだ。今度はもう少し強めに撃ってみるぞ」


 先程よりも多くの魔力を込めて放つ。今度は『19』と表示された。


「へぇ~、おもろいな。魔法の強さが数字でわかるってことやな」

「そういうこと。ちなみにランキングも表示されるようにしたから、誰が一番いいスコアを出せるか競争しようじゃないか」

「面白い。我も参加しよう」


 こうして魔法版のパンチングマシーン大会が始まる。

 最初はたかがゲームだからと軽い気持ちで始めた面々だが、負けると悔しいしランキングに乗ると優越感が得られるで、お互いのベストスコアを塗り替えてやろうと徐々に本気モードになっていった。


「おりゃっ! どやっ、うちの威力は」

「『17』です。まあまあですね」

「なんやと? ならもう一回、せやっ!」

「『14』です」

「えぇ!? なんで下がったんや」

「力みすぎて魔力が的に到達する前に崩壊を始めていました」


 冷静に解説する猫耳に、アンナは悔しそうに手を叩いた。


「次は我の番だな。フッ!」

「『21』です! やりましたねオリヴィアさん。ついに20台を超えました」

「なんやて! どういうことや」

「我は魔力強度自体は高いからな。当然の結果だろう。どれ、もう一度」

「くっ、オリヴィアばかり優遇されすぎやねん。全部あのおっぱいがいけないんや! それっ」


 アンナは瞳を光らせながらオリヴィアの背後から忍び寄る。


「あっ、こらっ、やめろっ、胸に触るな、ひゃん」


 オリヴィアの魔球はへなへなと空中で分離して的に当たった。


「『0』と『8』です」

「こらっ、アンナのせいで失敗したではないか」

「それも実力のうちなんちゃう? ちょっと触れられただけで制御を乱すなんて、実践じゃ使い物にならへん」

「うぅ~~~」


 涙目でアンナを見つめるオリヴィア。


「次はわたしの番ですね」

「ちょっと待ってくれマーシャ。今のはアンナに邪魔されたから無効だ。我にもう一度やり直しの権利があるはずだ」

「では、もう一度どうぞ」

「かたじけない」


 呼吸を整えて杖を構えるオリヴィアだったが、

「あれ? 胸の奥がムズムズと……、くっ、さっきアンナに触れられたせいでトゲの位置がまたずれてしまったのか」

「へへん、どうしたんや、オリヴィアさんや。はよう撃ってくれんかな? 後ろがつっかえてんねん」

「ええいっ!」


 渾身の一撃を放つオリヴィアだが、直前に胸に刺激が走って制御を乱す。


「あぁ……『3』点……」

「わっはっは、さっきのはまぐれやったみたいやな。けしからんおっぱいを退治したったらこの有様やねん」

「くぅ~~~、覚えておれアンナ」


 オリヴィアはタタタ、とニイトに駆け寄る。


「すまない。見ての通りだ。今日は我の日ではないのだが、緊急に医療マッサージが必要になった」

「あっ、ずるいねん! それは反則やろっ」

「先に反則をしたのはそちらであろう。というわけでニイト、調律のほうをお願いする」

「お、おう……じゃぁ――」


 おっぱいって調律が必要なものだったんだと、ニイトはドキドキしながら思った。

 大きさも形も申し分ない果実は両手に収まりきらない。みんなの目もあるし、今日は服の上から――。

 調律を受けながらオリヴィアはチラッとアンナに視線を向けた。すると彼女は赤い髪と同じようにムキっと鼻を染めて睨み返す。

 バチバチと、二人の視線の間で火花が散ると、それよりも大きな火花が射的の中心で弾けた。


「『29』。わたしが一番のようです」


 最高得点をたたき出したマーシャはニイトの方に振り向き、トトトと猫のように駆け寄る。


「ご褒美が欲しいニャん」

「しょ、しょうがないなぁ~」


 オリヴィアの調律を終えたニイトは、猫耳の後ろをくすぐった。


「ふにゅぅ~、くすぐったいです~」


 気持ち良さそうに表情が溶けたマーシャはそのままニイトの胸に顔を埋める。

 華奢な身体が密着してニイトは顔を赤くする。


「う、うち高得点出したるもん!」

「我だって!」


 そんなこんなで、競い合うように射撃練習を繰り返した。

 何気に中毒性が高く、熱中するあまり最終的には自分が放てる限界まで魔力を搾り出した最強の一撃を放つまでになっていた。


「はぁ、はぁ、ニイト、我はもう魔力が出ない」

「うちももう限界や」

「にゃぁ~」


 みんなしてへたり込んで大の字になって呼吸を荒くした。


「これ、思ったより危険なゲームだな」


 本日のベストスコアはマーシャの『35』だった。

 今後の成長が楽しみである。

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