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キューブに戻ったニイトはすぐさまノアに相談を持ちかける。
「――――というわけなんだ。どうにかして彼女たちの世界を助ける方法はないか?」
『無理ね。諦めるしかないわ』
「そんな! あんな可愛い猫耳美少女たちを見捨てろっていうのかっ!?」
『そういう意味じゃないわ。話しを聞く限り、彼女たちの世界はもう滅亡寸前。その世界の生態系を取り戻すのにも何百年かかるかわからないわ。だから彼女たちの世界を維持することは難しい。でも、彼女たちの命を助けることならできる』
「どうすれば?」
『彼女たちをこのキューブ世界に移住させるのよ』
確かにそれなら一時的には助かるかもしれない。でもこんな狭い空間に20人も押し込むわけには……ん?
「そうか! そういえばキューブは領域を拡張できるって言ってたよな。さらに畑を作ることも!」
『ええ、そうよ。ここなら外敵のいない安全な生活ができるわ。でも覚えているかしら、キューブにつれてくるには一人あたり1万ポイントほど必要になるわよ』
「ああ、そうだった。20人くらいいたから、最低でも20万ポイント……」
『それだけじゃないわ。庭として領域を拡張するのに初期費用として10万ポイント。さらに面積に応じて別途かかる上に、畑にするのにもポイントがかかるわ。収穫のない初期状態を乗り切るにはしばらく食料を購入し続けないといけないだろうし』
「それって、全部でどのくらいのポイントが必要なんだ?」
『大雑把な計算だけど、最低でも100万ポイントは用意したいところね』
現在のポイントは12万弱。ぜんぜん足りない。
だがやるべきことは決まった。
「とりあえず庭を作成してくれ」
『わかったわ。広さはどうする? 一番狭いので今のキューブを含めて4倍の広さよ。4000ポイントでできるわ』
「じゃあ、それで頼む」
――庭を作成しました。消費10万ポイント。
――庭の面積を拡張しました。消費4000ポイント。
――【エリア拡張】スキルを覚えました。
――条件を満たしたことで【転送】スキルを購入できるようになりました。
――条件を満たしたことで【移住】スキルを購入できるようになりました。
これで残りは約1万ポイント。新たなスキルはどれも10万近いポイントが必要なので今は取得できない。急いでポイントをかき集めなければ。
ニイトは再び滅亡寸前の世界へ飛んだ。
◇
結界装置のある場所に戻ると、すかさずマーシャが駆け寄ってきた。
「ニイトさまっ! よかった、突然お姿が消えたときにはあせりました」
「ごめんごめん、説明し忘れていた。それでキミたちのことなんだけど、一時的に避難場所を作ってかくまうことはできるかもしれない」
「本当ですかっ!? ありがとうございます。ありがとうございますっ! 何度感謝してもし足りません。これで一族の絶滅は免れることでしょう。対価としては甚だしく粗末なモノですが、わたしの身も心も全てお捧げします。いかようにもしてくださいませ」
「ちょ待っ――!?」
そんなことを言われたら健全な男子が平静でいられるわけがない。
「――まだ話は終わってないんだ。みんなを移住させるには、準備に大量のポイントが必要なんだ」
「ぽいんと、とは?」
「あー、俺も何て説明すればいいのかわからないんだけどさ、たぶん物体の中に宿る生命エネルギーみたいなもの? それをたくさん集めないとダメっぽいんだよ。さっき闇の使徒を消しただろ? あれは実のところポイントに変換していたんだよ」
「あのときの!」
マーシャはこれで理解してくれるはずだ。しかし他のみんなはそうはいかない。
「とりあえず、全員を呼んでくれ」
口で説明するよりも、実際に見せたほうが早い。
全員集合したのを見計らって、ニイトは道端にあった石を拾うと、あーくんを呼び出す。
「みんな、よく見ていてくれ」
そして石をあーくんに向かって投げた。
「き、消えたのじゃ!?」
ロリカ族長をはじめ、猫耳美少女たちが一斉に猫耳をビクッと飛び上がらせた。中々に興味深い光景だ。
「今、俺が投げた石はエネルギーに変換されたからこの世界からは消えたんだ。俺はみんなを助けるためにしばらくこの作業を繰り返してエネルギーを溜めないといけない」
「物質の破壊と再創造!? それは神が行う芸当ではっ!? やはり救世主様とは神様!?」
ロリカが平伏すると、少女たちも一斉に続いた。
「いやいやいや、俺は神とかじゃないから。そんなに頭下げないで! それと、時間がないんだ。結界が効果を失うまでに大量のポイントが必要になる。だから、みんな協力してくれ」
「もちろんでございますのじゃ。我らは何をすれば?」
「何でもいいからたくさん物を集めてくれ。土でも草でも何でもいい。珍しいものや希少性の高い物であれば尚良いけど、一度ポイント化しちゃうと後で取り戻せなくなるから注意してくれ」
猫耳少女たちは一斉に散って行った。猫っぽい軽々としたフットワークだ。
ニイトもすぐさま作業に取り掛かる。まずはこの広場の地面をあーくんで削って土や小石を回収。
――痩せた土 1リットル 売却額……25ポイント。
――小石 1kg 売却額……64ポイント。
――砂利 1kg 売却額……47ポイント。
――痩せた土 1リットル 売却額……29ポイント。
――土 1リットル 売却額……127ポイント。
――雑草 1kg 売却額……30ポイント。
結界内は汚染が広がっていないぶんだけ、買取価格も大きかった。
しかし最初こそ勢いよくポイントが貯まっていったが、すぐに頭打ちになる。
表面の柔らかい土層は薄く、すぐ下には硬い地層が待っていた。あーくんの吸収速度も鈍くなった上、固い赤土は買い取り価格も低い。
場所を変えようにも結界内は狭く、砂岩をくりぬいたような地形のため地面が少ない。
「なら、崖を掘れないかな?」
ニイトが思い浮かべれば、あーくんはすぐさまスコップ状だった体の一部をツルハシのように変形させた。そして崖に向かって体当たりをするように削り始める。
――低質な砂岩石 1kg 売却額……58ポイント。
悪くない価格ではあるが、掘るのに時間がかかりすぎるので効率は良くない。
大急ぎでポイントを回収して現在は5万近く集まっている。しかし圧倒的に足りない。
「マーシャ、結界で守られているのはこの場所だけか?」
「はい、残念ながら。あとはこの広場から掘り進めた洞穴だけが安全地帯です」
「穴の奥には何があるんだ?」
「寝室や、食料のキノコを栽培しています。案内します」
こんな荒廃した世界で何を食べているのか不思議に思っていたニイトは、疑問が一つ解消された。
ドニャーフ族の背丈に合わせて掘られた横穴は狭かったので、中腰になって進む。
「かなり暗いけど、ところどころ壁が光っているから助かるな」
「あれはヒカリゴケです。わたしたちドニャーフ族は夜目が猫並に利きますので、これくらいの光量があれば難なく見えるんです」
「それは便利だな。俺には少しというか、かなり厳しい。できれば手を繋いで誘導してもらえないか?」
「もちろんです! ニイトさまのお手に触れられるなんて光栄です」
何この子可愛い、とニイトは頬を緩ませる。暗闇だからデレても見えないだろうとか、今しがた言った自分のセリフも忘れて盛大にポワポワする。
少し歩くと途端に道が開けて空洞に行き着く。そこには壁際の一面にヒカリゴケが群生していて、ニイトがはっきり視界を確保できるくらい明るかった。
「ここがキノコ農園です」
壁を埋め尽くすヒカリゴケの隙間から、白い綿のようなキノコが顔をのぞかせている。感触はとてももふもふしている。
「へー、ここが。一つ貰ってもいいか?」
「もちろんです。好きなだけ持っていってください」
ニイトは拳大に育ったものを一つもいであーくんに食べさせてみる。
――モフタケ 1本 売却額……61ポイント。
「お、そこそこいい値段」
1本でこの値段なら、全部売ればざっと10万くらいにはなりそうだ。しかし食料を売るのはできれば最後の手段にしたい。
「なあ、マーシャたちが食べてる物ってこのキノコだけ?」
「基本的にはこれだけです。たまに草を食べたりしますが」
ならなおさら唯一の食料に手を付けるわけにはいかない。この菌床はそのままキューブに転送したいな。
「ん? これは光るキノコ?」
びっしりとひしめくキノコの中に鮮やかな蛍光色で発光しているモノがあった。
「あ、それは食べてはダメです! 毒キノコです! 口に入れた瞬間に全身がビリビリです!」
マーシャに注意されて食べるのを思いとどまった。しかし捨てるのはもったいないのであーくんにあげる。すると、
――ヒカリシビレダケ 1本 売却額……1225ポイント
「おぉ!?」
思わぬレアモノ発見。詳しく調べてみると、
――ヒカリゴケの発光成分を吸収して変異したモフタケ。食べた瞬間に電流のような刺激が神経に流れる神経毒をもつので食用不可。しかし調合素材としては需要がある。
「なあ、この光る毒キノコってどうしてる?」
「食べられないので捨てています」
「全部持ってきて! 今、すぐ!」
「にゃっ! ただいま!」
マーシャはすっ飛んでいった。
かき集めたヒカリシビレダケを売却すると一気に20万近く稼げた。よすよす。




