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「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、十三、十四。……十四人か。僕たち四人のために大した大人数だね。しかも全員アレーだ。一応聞くけど、今がどんなときか分かってる?
僕やライトはともかくとして、シュールやシャルグはもうすぐ起こる戦争で、なくてはならない人なんだよ? まさか十年前アラレルと一緒に二人がこの国を守るために立ち上がって、カンの当時の大将軍を打ち破ったことを知らないの? 知らないわけないよね。このアーティーズに住む人なら子供から大人までいまだに語り草だもんね。
ちなみにその人数で囲めば僕たちが諦めると思ったら大間違いだよ。間違いなく、例え勝ち目がなかったとしても僕たちは最後まで戦うよ。
しかも言うけど、そっちは今十四人いるけど、僕たちは皆フォルなんだ。例えそっちが勝ったとしても、無事に生きていられる人は半分もいないと思うよ。
この時期なんだし、同国人同士の戦いなんてやめにしない?」
剣にマナを溜める時間を稼ぐため、ルックはあえてゆっくり長い台詞を口にした。最後の方には淡い期待も籠っていたが、彼らには微塵も引く気はなかったようだ。
「我々は上の命に従うのみ」
ルックが言葉を切ると、間髪入れずに義足の男が言い放つ。
ルックは充分に時間を稼ぎ、剣へとマナを溜め終えた。しかしその時間は当然、敵がマナを溜める時間も作った。幸い敵に黄緑色の髪はいない。例外者でもいない限り毒霧の魔法の心配はない。だが魔法を使える者が九人もいる。呪詛と木の魔法以外は全て揃っているようだ。初動で九人が今溜めたマナを放ってくることは間違いない。
いったん先程の路地に身を隠すべきだ。
ルックの隆地で魔法を防ぐ壁を作ることもできるが、水魔の様に足下から立ち上る魔法もあるし、何よりせっかく溜めたマナをそこで使ってしまっては意味がない。そのまま逃げてしまうこともまず考えられない。もし逃げた先で待ち伏せをされていたら、挟み撃ちになる。ここでなんとしても十四人を蹴散らさなければいけないのだ。どう考えてもルックの剣にマナを溜めておく必要がある。
しかしルックはそれの重大な欠点に気が付いていた。ルックですら分かっていたことだ。より戦闘慣れしているシャルグやシュールが気付いていないわけはない。ここは一度退いて、彼らの魔法をやり過ごさなくてはならない。だがライトは対人の戦闘経験が少ない。もしかしたらその当然の理屈に気付いていないかもしれない。
「上っていうのは誰? あなたたちを平気で死地に向かわせるような人に忠誠を誓う必要があるの?」
ルックは無駄だと分かっている説得を続けながら、必死で打開策を考えた。なんとか戦闘が開始する前にそれをひねり出さなくてはならない。
「あと、今僕たちを殺そうとするのは逆賊だっていうことだよ」
ルックはあれこれと考えを巡らせるも、なかなか良い方法が思い付かない。ライトを引っ張って路地に駆け込む余裕はないし、なんとかライト自身に気付いてもらわなければ。
しかしそれにはシュールが奇策をもって対処した。
「ライト、戦闘が始まったと同時に後ろの路地へ跳ぶぞ」
敵に聞こえることを承知で堂々とライトに言ったのだ。確かに無理に敵に隠す必要はない。これほど確実な手段はないだろう。シュールの機転の早さにはルックはいつも驚かされる。
そしてその言葉が、噛み合わせの悪い開戦の合図となった。
四人はいっせいに裏路地へと駆け込んだ。そしてそこに九発の様々な魔法が放たれた。けたたましい轟音が辺りに響く。人目を引く攻撃だが、誰も好き好んで戦闘の場に顔を出そうとはしない。
恐らく義足の火の魔法師が、最も魔法が得意なのだろう。水魔が立ち上がっていたにも関わらず、大火焔の魔法の熱風がルックたちの立つ路地へ吹き抜けてきた。
シュールが再び空き地へと躍り出る。すぐさま数人のアレーがシュール目掛けて駆けて来たが、敵がマナを再び溜めるまでのこの間がチャンスだ。シュールは得意の早打ちで魔法を放った。
「大火焔!」
大火焔は放射状に爆炎を打ち出す魔法だ。燃える物のないところに火を生むため、炎自体はなにかに燃え移らない限りはすぐに消えるけれど、その火が生む風は意外に破壊力がある。致命傷を与えるほどではないが、敵の勢いを削ぐのには充分だ。
噂以上の早打ちに敵はおののく。そこでルックが大量の石投を放つ。宝石のマナ三つを使った盛大な石投だ。ほとんどが避けきれずにその石投に打ち付けられた。
シュールは抜き放った剣で近くにいた敵二人のうち、女の方を切り捨てる。残ったもう一人はすかさずシュールを切りつけようとする。しかし剣を繰り出そうとした男の脇腹に、シャルグの黒刀が突き刺さった。男はシャルグが隣に立ったことすら気付かなかっただろう。シャルグが黒刀を抜くと、そのまま力なく地面に崩れ落ちた。
「水砲」
黄色髪の魔法具で身を固めた女が、彼らに向けて特大の水砲を放ってくる。三人はちりぢりに飛びのいてそれをかわす。そしてそれぞれに数人が駆け寄ってきて戦闘になった。
シャルグには三人、ルックとシュールには二人がついた。
道案内の二人と他三名は魔法が得意なのだろう。マナを溜めて機をうかがっていた。シャルグとシュールはそれぞれの相手を訳なくあしらっている。二人は決定打こそ打ち出せずにいたが、とりあえずのところ心配なさそうだった。
しかしルックは二人のアレーを相手するのには実力不足だ。リリアンに教わった技法も、特に体術面ではまだ完成していない。しかし、相手のアレーもシャルグやリリアンほどずば抜けた体術使いでもない。視力強化はある程度物にしていたため、二人の剣をかわし続けることは訳がなかった。
「ルック、持ち堪えろ!」
ただシュールにはリリアンから戦闘法を教わったことを話していない。ルックの方を気にかけ、大きな声でそう励ましてきた。むしろルックはそれでシュールの気がそぞろになることを恐れた。
敵の動きはなかなか統制の取れたものだった。二対一でも三対一でも、それぞれの足を引っ張ることなく攻撃を繰り出してくる。そして虎視眈々とルックたちの隙をうかがう魔法師たちが五人もいる。最初にここへ誘い出してきた火と水の二人の他に、大地の魔法師と光の魔法師、そしてもう一人火の魔法師が控えている。特に大地の魔法師が控える状況では、大きく距離を取ろうと飛び離れることができない。そこに隆地や掘穴の魔法をかけられかねないのだ。
何度となく剣を合わせる音が響く。シャルグはどうやら三人相手に少しづつ押してきているようだ。ルックも難なく攻撃をかわし続けている。ただ意外にも、シュールが徐々に押されてきていた。
シュールの相手は鉄と影のマナを使う者だ。鉄皮の魔法も厄介だったが、何よりも影の魔法師と戦うときは抑影に気を付けなければならない。もし影を抑えられたら勝負は間違いなく終わる。シュールは体術も並みのアレー以上に使えるが、最も得意とするのは魔法だ。けれど得意の早打ちもここまで距離を詰められていたら使えない。
シュールは一歩一歩後退を強いられた。ついには民家の塀に背を付ける。するとシュールは意を決したように固い目をする。こうなったらもう一か八かで飛び離れ、マナを溜める時間を作るしかないだろう。シュールはちらりと水色の髪の男を見やる。男はにやにや笑いを浮かべ、シュールの動向に注目していた。隆地で来るか掘穴で来るか。大地の魔法にどう対処するかが鍵になる。
しかし、シュールがまさに地を蹴り跳ぼうとしたとき、金の風が彼の前を吹き抜けた。




