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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第一章 ~伝説の始まり~
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「ありがと。またルックに助けられちゃった。……けど正直驚いたわ」


 アラレルが去ると、リリアンは苦々しくそう言った。


「どれに対して?」


 ルックは一息ついて安心したのか、それともリリアンを安心させようとしたのか、のんびりと問う。


「いろいろよ。ライトのこともそうだし、アラレルがあんなおバカさんなのもビックリだし、ルックがアラレルを脅迫したのにも驚いたわ」


 けれどリリアンはまだ興奮冷めやらない様子で早口に言う。


「うん。アラレルには僕も驚いたな。いつもはあそこまでひどくないんだけど、リリアンの前だったからかな。ほんとにいつもは優しい人なんだよ?」


 ルックは別に本気でアラレルを嫌いになったわけではない。問題がないわけではないが、アラレルはそれでもやはり英雄なのだ。


「つまり私にとっては天敵って訳ね」

「あはは、かもね」


 リリアンもそこまで邪険するでもなく、からかうように皮肉を言う。彼女にはアラレルの気持ちが分からないでもないからだろう。


「けどやっぱ軽率だったのは本当だよね。ライトのことはもう予想ついちゃったんだよね?」

「ええ、この戦時下に最強の戦士より大事な存在なんて、ねえ、他に考えられないもの」


 ライトは王族最後の子だった。前国王は十年前の戦争で討ち取られ、今は亡い。戴冠式こそまだではあるが、ライトは実質この国の現国王なのだ。詳しい事情は聞かされていないが、これこそが、彼らのチームがアラレル以上に他国になびく心配がない理由だった。そして、ひとたび大きな戦争が幕を上げれば、ライトは彼らのチームを抜けて国王として立たなければならない。自分が王であることをライトだけはまだ知らなかったが、彼らとライトの別れの日はもう間近に迫ったことだったのだ。


 国王とはいえ、ライトの立場は非常に危うい。もしも今国の首相がビースでなければ、首相自ら権力欲でライトの暗殺を企てないとも限らない。もちろんカンなどは、生き残りである王族を殺そうと躍起になっていた。そのためこの秘密を知るものは少ない。


 彼らのチームの他では、王から幼いライトを預かり、シュールのチームに引き渡したギルド長と、首相ビースと、その息子アラレルだけだ。それはビースの指示だった。秘密は徹底して守られていた。ライトだけを腕利きのアレーチームに加えたのでは怪しまれると、ルックを引き取ったのもこのためだ。余談だが、ついこの間これを聞かされたとき、自分がついでだったことと、ライトがいなくなることに打ちのめされた。


「ライトがあんなとんでもない武器を持っていたのも当然ね」

「言うまでもないと思うけど、この事が公表されるまでは絶対内緒だよ」


 ルックは念を押す。もう公表も間近だから、それほど慎重になる必要はないかもしれない。しかし何よりも親友の命がかかっているのだ。そこだけは譲れない。けれどリリアンにとっての関心事は、今はライトのことではなかったらしい。


「それで、あなたは一体何者なの? 国王様が出てきたってことは、まさか神様かなにかかしら」


 冗談めかして尋ねたようだが、強い興味を持っているのだと分かった。あのアラレルを冗談でもなく殺すと言ったのだ。尋常ではない。第一それができるほどの実力者なら、わざわざシャルグやリリアンが護衛をする理由もないのだ。


「はは、神様なんていないんじゃなかったの?」

「ええ、少なくとも私はこれまで見たことはなかったわ。今が初めて」

「ちょっと、勝手に神様にしないでよ」


 他愛もない談笑だった。ルックはまたそれができたことを嬉しく思った。


「むしろ逆側なのかな? リリアンは多分ルードゥーリ化って知ってるよね?」


 破壊的な力を持つというルーメス。そして生きているのに死に厭われた不死なるもの、ドゥーリ。ルードゥーリとはその実在する二つの怪物を掛け合わせたほどだと言う意味を持つ、実在するかどうかはかなり怪しい伝説の生物だ。各地の多くの伝承にその存在は登場する。


 ルードゥーリについては諸説もろもろあるが、その中の一つに、ルードゥーリは人の先祖であると言う考えがある。伝承の多くで、ルードゥーリが人の形をしているためだ。ルードゥーリ化というのはその考えに基づき名付けられたものだ。

 人の中に眠るルードゥーリの血がある条件により目覚め、急激に信じられない力を発生させる。そうとしか説明のつかない現象のことが、ルードゥーリ化と呼ばれていた。

 実際にルードゥーリ化をしたものは、突如として人とは思えない力が現れる。アラレルのような最強のアレーですらも、そうなってしまった者の前では赤子も同然だった。しかし、ルードゥーリ化をする者など一時代にそうはいない。実際に存在するというのを信じていない人も多くいるほど、とても希少なものだったのだ。


「ウソでしょ? まさかあなたがそうだって言うの?」


 リリアンは今度こそ顎が外れんばかりに驚いた。言うまでもなく、初めて見たのだ。


「なんでそんなに驚くの? ルードゥーリ化をする人なんて、大陸に二十人くらいはいるっていうし、七人しかいない大国の王様の方が珍しいでしょ?」


 リリアンの反応を面白がって、ルックは揶揄した。


「え、いえ、確かにそれは正論でしょうけど、なにか腑に落ちないわ」


 リリアンの言う通りだ。間違ってはいないはずのその意見は、妙に逆説的だった。賢いルックならではの非常に難解な揶揄だった。リリアンはルックのからかいに上手い言葉が言い返せず、内心舌を巻きながら話を続けた。


「けど確かルードゥーリ化って、人それぞれ特定の条件がないと発生しないんじゃなかったかしら。ルックの場合ってその条件はなに? 私が殺されるのとなにか関係があるの?」

「関係があるって言うか、まさにそれそのものが発動条件みたい。大切な人が殺されること。もしくはそれに伴う怒りとか悲しみとかが混ざり合った複雑な感情で引き出されるんじゃないかってシュールが言ってた。

 実際僕がルードゥーリ化したのは今まで二回だけなんだ。一回目はまだ幼くってよく覚えてないけど、両親が殺されたとき。それが十年前の戦争のとき。

 それでその次が去年。一緒の依頼で仲の良かったおじさんが魔獣に殺されたとき」


 リリアンはいまだに信じられないでいた。実を言うと、リリアンもルードゥーリ化というものに関しては半信半疑だったのだ。せいぜい火事場の馬鹿力の延長線上で、自分やアラレルほどの戦士が恐れるものではないと思っていたのだ。しかし、まさかその発動条件では試してもらうわけにもいかない。


「ってことはよ、もし仮に私がシャルグを殺しちゃってたら、私はルックに殺されてたの?」

「そうならなくて良かったよ」


 これは紛れもないルックの本心だ。先ほどアラレルに、リリアンが大事な友達だと言ったことにも嘘はない。もしそうなってしまっていたら、リリアンをよく知り合わないまま殺してしまっていただろう。


「あはは、ほんとね」


 リリアンは緊張をほぐすように伸びをする。驚きはしたが、だからと言ってどうと言うことはない。リリアンは自分を大事だと言ってくれたルックを好ましげに眺め、笑む。


「さて、それじゃそろそろ下山しましょう」

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