表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第五章 ~砂漠の旅人~
353/354




 次に鉱石について話をしよう。




 鉱石とは、大陸の山から掘り出される特殊な石のことだ。長い年月山から微量のマナを少しずつ蓄積し、ただの石ころとは違った性質を持った石が鉱石だ。

 似たようなものに、沼殿石や樹化石があり、いずれも長く自然のマナを蓄えた石だ。これらも含めて鉱石と呼ぶこともある。この場合は山から取れる鉱石を希石と表現する。


 鉱石は山と沼と古木からしか取れない。

 例えば川や海や大地など、他にも広大な自然は存在する。しかし動きのある自然は淀みを生まないのだ。この淀みとはマナの蓄積を意味する。

 川の流れや、大地の振動、海の満ち引き。他には雨や風や波なども。それらの自然現象はマナの淀みを洗い流す。


 その自然を動かしているのが精霊だ。

 精霊は淀みが生まれないよう、常に自然を管理している。神とはまた違う意味でこの世界の管理者なのだ。「精霊とは自然と同義である」とは、私の敬愛する哲学者ジックの言葉だ。ジックはそういうつもりで言ったのではないだろうが、それはある意味で真理を突いていたと言える。


 かなり話がずれてしまった。鉱石の話に戻そう。


 人間が鉱石を知り、文明の中に取り入れるようになったのは、歴史の始まる前のことだ。魔法の創始者、大賢者ルーカファスなども元々は鉱夫だった。

 人は鉱石を得たことにより文明を大きく発展させたと言っていい。鉱石を知る前の人間は、動物との線引きすら曖昧だった。と、これは神の書の一節だ。神の書はいくつかあるが、生物史家だったという古い神の一柱が遺した書物にそう記されていた。


 人は様々な鉱石に価値を見いだした。

 特にアニーなどの各種水晶や、各種宝石類が人の貴賎や身分の象徴となった。

 また金、銀、銅はその輝きで権力者を魅了し、今でも通貨として使われている。


 さらに鉄や鋼と呼ばれる金属を含む鉄鉱石は、人の文明に革命をもたらした。これは後の魔法誕生よりも劇的な進化を人に与えたのだ。人は鉄鉱石から鉄を抽出し、武器を進化させた。武器の優れた国は目覚ましい発展を遂げ、急激な人口増加が起こった。集落は村となり、村は町となり、町は街となる。さらに大きなものは都市とも呼ばれるようになった。

 街や都市は自然を遠ざけ、この時点で人は明らかに、その他の動物とは一線を画す存在となっていた。


 人は鉄を求めて山を掘り、研究を重ねた。コルタ鋼、ハルト鉄など、不純物で金属の性質が変化することも知った。

 この時代の前期を鉱石の時代、後期を鉄の時代と呼ぶ学者が多い。それほど鉱石というものは、人の営みに深く影響していたものだったのだ。


 文字のないフィーン大帝国時代によってこの時代の記録はほとんど残されていない。しかし数多くの学者が、この時代の真実を解き明かそうと、今このときにも大陸の遺跡の調査をしている。閉ざされた歴史だからこそ、魔法の存在しない時代は今の人々の興味をかき立てるのだ。


 そしてキーン時代初期、鉄人ミリストによって発見された鉄と呪詛の魔法が、鉱石に新たな価値を与えることになる。鉱石の時代、鉄の時代という呼び方に合わせるなら、キーン時代は魔石の時代となるかもしれない。


 硬度の高いハルト鉄は硬化の魔法に地位を奪われ、ハルト鉱山によって栄えた都市は、細々とした工芸の町となった。

 様々な鉱山都市が衰退した。中でも山希鋼の産地オウミルは完全な廃都となった。山希鋼とは、合金化でしなやかな柔軟性を鉄に与える素材だ。鋼と名が付くが金属ではなく、岩塩の一種だ。これは軟化の魔法によって完全に価値を失った。オウミルは山林の奥地を切り開いた便の悪い都市だった。産出量が減っていたこともあり、オウミルは打ち捨てられた。今はこの大陸最大の廃墟となっている。


 逆に新たな脚光を浴びることになった鉱石もあった。割れやすく扱いづらい素材だったアニーの宝石などがそうだ。

 鉱石には蓄積されたマナの量と種類によって、呪詛の魔法との相性に大きな差があったのだ。呪詛の籠めにくい素材の価値は下がり、籠めやすい素材の価値は上がった。


 また加工のしにくい金属の価値が跳ね上がった。中でも黒鉄金の逸話は有名だろう。


 フィーン時代の勇者の剣だったレッツァに、この黒鉄金は使われていた。黒鉄金は黒い半透明の金属で、大陸で最も鋭い金属だ。しかしとりわけ加工がしづらいことで有名だった。初代レッツァの製造では、膨大なマナを持つ火の魔法師が命と引き換えに黒鉄金を熱し、筋肉の要塞と呼ばれた鍛冶師が大鎚を振るって叩いたという。そしてレッツァは当代最強の勇者の手に握られて、絶望の魔王と名付けられた妖魔を切り裂いたのだ。


 しかし鉄の魔法師がわずかにマナを操れば、黒鉄金は従順に姿を変えた。刀身の形にも、穂先の形にも、自由自在に変化した。そして鉄と違い、黒鉄金は叩けば叩くほど強度が増す金属ではなかった。だからキーン時代の初期には、伝説の武器であったはずのレッツァは、とてもありふれた量産型の武器となっていたのだ。


 鉱石は時代により人にとっての意味を変えてきた。しかしその発見から何千年と経った今でも、その価値は失われてはいない。そのため多くの研究者が日夜鉱石についての研究を重ねている。山のないコール王国やティナ街の大学にも、鉱石の研究者は多い。現代のフィーン帝国ではなおさら鉱石に高い関心が寄せられている。


 しかしその鉱石には一つ大きな謎がある。鉱石には産出する山と産出しない山が存在するのだ。


 何か違いがあって、鉱石を作る山と作らない山があるのだろう。マナを蓄積しやすい山があるのか。それかそもそもマナを生まない山があるのだろうか。地震の発生と関連するのか。山の高さはどうだろうか。生息する動植物による違いではないか。

 今も多くの仮説が立てられては、後の研究に否定をされ続けている。


 それは大陸中を旅したリリアンも、闇に育てられたクロックも知らない謎だ。だが、真実の青の伝説とは全く関わりがないことだと思われるだろう。

 しかしこのオルタ山地で、ルックたちはその謎の答えを知ることになるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ