『竜の三迷宮』①
第六章 ~迷宮の旅人~
『竜の三迷宮』
強さについて語ろうか。
伝説ではルックたちの強さについては正確に語られてはいない。後の世の多くの人は非現実的な伝説を聞いて、それをただのおとぎ話だと思うのだろう。
私は彼の残した伝説の一つから、彼がただの優秀な戦士ではなくなるのだと推測している。しかし普通に考えれば、ルックたちの強さはこのときすでに常識から逸脱している。
知っての通り、マナを感じることのできるアレーは鍛え上げたキーネよりも力があり、速い。それはマナを使った体術が使えるためだ。マナで体を動かせることを知っているアレーなら、よほど才能がないのでなければ熊とも変わらない力が出せる。
そこからさらにアレーが戦い方を学ぶと、キーネでは間違いなく及ばない強さになる。獰猛な野生動物と武器を持たずに渡り合うことができるだろう。魔法を使えるアレーならなおさらだ。
その中でも才能を持った腕利きのアレーは、奇形の動物や平民クラスのルーメスとも対等に戦える。ルックのかつての仲間、シュールやドーモンなどがこれにあたる。ドゥールなどは独特な戦い方で別種の強さを持っているが、それでも常識から逸脱するほどの強さではない。
常識的な強いアレーというのはここまでだ。アレーは確かに強いのだが、どれだけマナで脚力や腕力を強化したとしても、目がその動きに付いていかなくなるのだ。アレーに筋力の衰えは関係ない。それなのに老齢の戦士が戦えなくなるのは、この目の問題があるためだ。
森人の民やシャルグやイークはこの目の問題を解決する術を持っている。そのため腕利きのアレーよりももう一段強い。しかしこれにも限界があり、今度は目ではなく体の動きが足りなくなってくる。
アレーの体にあるマナの量は命の大きさに比例する。命の大きさは体とともに成長するが、体よりも早く成長が止まる。大体十から十三歳で頭打ちとなり、そこから先はマナの量ではなく個体差が重要になる。つまり、それぞれが持つマナの力強さでアレーの動きに差が出るのだ。それは鍛えることで多少伸ばすことができるが、同じ人間である以上それほどの差は生じない。
いくら優れた目を持っていたとしても、体が動かないのではそれ以上は戦えないということだ。
目に関しては勘で補う戦士もいるし、ヒルドウのように先見の才を持つ戦士もいる。一般的に言う強いアレーは力強いマナを持ち、なんらかの手段でそれを隈無く使いこなせる者のことだ。
この先にいるのはかなり特殊な戦士だと言える。しかしまだそれほど珍しいものではない。大抵の大国に数人はこの目と体両方の限界を超える戦士がいるだろう。
例えばルックがそうだ。ルックは視力強化ができ、リリアンから教わった効率の良いマナの使い方で擬似的にマナの総量を引き伸ばしている。そのため体術の限界も超えている。
人間の話ではなくなるが、ロロなどのルーメスはマナとは関係なく、そもそもの筋力が人間のものとは質が違う。目も人より優れている。さらに男爵クラス以上になればそれに加えて揺らぎの力を上乗せし、より力強く速い動きができるようになる。これはヒッリ教の信者にも同じことが言える。またヒッリ教には森人の森出身の信者が過去に存在していたため、彼らは目の技法を知っている。
アラレルやライトはそもそも体内のマナを使って体を動かしてはいない。空気中にあるマナで体を動かすことによって圧倒的な速度を実現している。ちなみにこれは南部猿の奇形も同じことをしているようだった。アラレルたちは開国の三勇士の口伝によりこの技法を使えたが、南部猿はアルと同じく本能的にそのマナの使い方に気付いたのだろう。クラムが時を止める儀式を行った反動が南部猿に現れたのかもしれない。
トー族のミクとユキは秘伝の技法でマナの力強さを引き伸ばすことができる。ルックは知らないことだが、大陸にマナを使う体術が広まってからクラムが時を止めるまでの十年に、こうした秘伝はいくつか生まれている。
何が言いたいかというと、現時点でのルックの強さはまだ伝説に残るほどではないということだ。常識の範疇は超えているが、ルードゥーリ化を考えなければ異常ではない。
異常なのはリリアンだ。ルーンの開発した体術の魔法は、私の目から見ても驚くほどの強さをリリアンにもたらした。クロックが予想した通り、彼女なら神の力を使う闇の大神官にも手が届くほどの強さがあるだろう。ここまで来ると視力強化でも補いきれない速さになってくるが、それも遅鏡の魔法が解決している。
リリアンはこの時点ですでに史上類を見ない戦士になっていると言える。この先の世でも他の力を借りず彼女を超える人は、きっと二千年後の私の時代までは現れない。
余談だが開発者であるルーンは体術の魔法を使えない。これは呪詛の魔法が他の魔法とは性質の異なるもののためだ。
そしてリリアンほどの強さはないが、もう一人私の目から見て異常な強さを持つ人物がいる。本人にその自覚はないが、クロックがそれだ。
遅くなりました。
第六章の開幕です。
ですがごめんなさい。全然書けておりません……
違うお話を書き始めていて、こちらの手が止まっている状況です。
できれば2作並行して毎日更新したいなとは思っているのですが、私の能力では厳しい模様です。
------以下告知------
新作も同じ世界が舞台のお話で、近日投稿予定です。またあらすじやタイトルで四苦八苦しそうな気がしています。
『青の物語』との直接的な繋がりはないお話ですが、もし良ければそちらの新作もお読み頂ければなと思っております。




