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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第五章 ~砂漠の旅人~
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 お前、怪我はないか?

 一段落つき、一つ目はまず口無しの様子をうかがった。口無しは首を振って無傷であることを伝えた。

 口無しは祝福の度合いを上げたわけではなさそうだ。同族が急に強くなる理由などはそれしか考えられない。とするとダキスというのはそれほど強くなかったのだろうか。

 茂みの中からヒーラリアが出てきた。ヒーラリアは一つ目以上に驚愕の表情を浮かべていた。

 あなた、今の動きはなんなの? まるであの大きな武器を持った人間みたいじゃない。

 ヒーラリアは一部始終を見ていたのだろう。ダキスが弱かったと結論を出そうとしていた一つ目だが、ヒーラリアの様子にそうではなかったことを悟った。

 口無しはまたしばらく考え始めた。そしてその間に一つ目も考えた。

 あの大きな武器を持った人間というのは、自分たちが狙った青髪の少年のことだろう。確かめたわけではないが、状況から見てほぼ間違いなく彼がイークだ。ヒッリ教が警戒していた人間は、確かに警戒に値する強者だった。

 途中までは互角に戦えていたはずなのに、途中から青髪の少年が突然予想を上回る動きをするようになった。そしてそれに誰一人対応できず、自分は重傷を負い、耳無しが死んだ。

 祝福の段階を上げた自分でも、あの少年には勝てる気がしない。まるで心を読まれでもしているかのように、全ての動きが先を行かれるのだ。その少年と同じように動いたということなら、口無しがミンサスと同格の相手に勝てたとしても驚かない。

 そこまで一つ目が考えたとき、ようやく口無しが口を開いた。

 あの青髪の人間と今の小さい男の動きを比較して見ていた。そうしたら、いや、やはり待て。

 口無しはそれからまた考え始めた。おそらく彼自身何が起きたのか良く分からないのだろう。口無しの回答は途切れとぎれ、探りさぐりゆっくり進んだ。質問をしたヒーラリアは途中で飽きたらしく、木の枝を折って食べ始めた。

 口無しの話を要約すると、彼はなんとなくイークの動き方が分かったような気がして、そうすると敵の動きがなんとなく予想できるようになり、なんとなくそれに従って体を動かしたということだ。

 とんでもない話だった。

 自分ならその曖昧な感覚に命を預けることなどできない。そもそもそんなものを信じるという考えにはならないだろう。それは愚かな死に直結する考えだ。こういったあやふやな自信を抱いて若者が死ぬなどは、実によく聞く話だ。

 しかし口無しは今実際に死なず、その愚かな自信を証明して見せた。いや、彼の場合は自信かどうかも怪しい。あくまでもそれは単なる感覚なのだ。最近何度も思ったことだが、口無しの感覚は非常に優れているのだ。

 口無しは説明を終えたあと、一つ目の本来の名前を呼んだ。

 キュイアには悪いが、人間が来ない場所の情報は無駄になるだろうな。

 口無しの言葉に少し考え、一つ目は同意の喉を鳴らした。

 自分たちの居場所を感じ取り、探しにくる敵がいる。だからどこに隠れ住もうとも意味がないのだ。本当に自分たちの安全と平和を望むなら、片腕のところに帰り、彼をこの世界の王にするしかないのかもしれない。

 肌を白く塗りでもして、人間に紛れて暮らすか。

 しかし一つ目はその方法を選ぶ気にはなれず、そんな冗談を言ってごまかした。


 ダキスとミンサス。

 それは私の生きた二千年後の大陸では非常に大きな意味を持つ名だ。

 有名なわけではない。しかし時を止める儀式を知る者であれば、クラムと共に彼らの名を聞いたことがあるだろう。

 彼らは本来であれば子爵クラスのルーメスに余裕を持って対峙できる存在だ。今この大陸で彼らを超える強さを持つ人間はほとんどいない。

 実際にもし口無しがいなければ、一つ目とヒーラリアはこの場で生を終えていただろう。

 口無しがこのとき得た力は、誰でもない少女ティリアや青の暗殺者ヒルドウらと同じ「先見の才」と呼ばれる技能だ。

 力も速さも劣る口無しだが、先が見える能力というのは戦闘においては圧倒的なスキルだと言える。

 例えて言うなら、型の決まった剣舞の中で口無しだけが自由に動けるようなものだ。

 しかし、巨悪として語られる片腕に対し、キュイア、一つ目、口無しの名は歴史の中に登場することはない。

 三段回目の祝福を得た人間キュイア。

 魔法に長けた子爵クラスの一つ目。

 先見の才を見せた口無し。

 もちろんヒーラリアの名前もだ。

 彼女たちは片腕とは違い、ただ平凡な幸せと平和を望んだ。

 大陸の歴史上、名が残った人間というのは何か事を起こそうとした者たちだけだ。名声にしろ悪名にしろ、力の大小に関わらず成した事の大きさによって名は残る。

 キュイアたちは何も起こらない安寧を望んでいた。

 この先彼女たちはただ人目に付かないように身を潜める。遠い平和を目指し、戦闘の中に身を置くこともほとんどしない。

 ……彼女たちが再びルックと関わるそのときまでは。

いつもお読み頂きありがとうございます。

この話をもちまして「第五章 ~砂漠の旅人~」は完結です。

いかがでしたでしょうか? 良ければ感想やコメントなど残していって頂けると大変力になります。


物語も中盤に入り、主要キャラもようやく出揃って参りました。

次からはしばらくまたルックたちの目線でのお話が続きます。

しかし少し最近は書くペースが遅くなっており、次章は1週間ほど間を空ける予定です。申し訳ないです。。。


これからも真面目に書いていきますので、どうか皆様見捨てずにお付き合い頂ければと思います。

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