表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第五章 ~砂漠の旅人~
336/354




 ルックは後衛の一つ目に向かって加重を放った。それと同時に大剣を下段に構え、突撃をした。

 狙いは加重に動きを鈍らされた一つ目のルーメスだ。ルックの動きに気付いた一つ目は、左目でルックのことを強く睨んだ。

 しかしルックは剣を地面に付けて、自分の足元に隆地を放ち、その勢いに乗り前方に高く飛んだ。さらに空中にいる間に溜まった鉄のマナで、鉄空の魔法を放ち、それを蹴って加速した。一気に一つ目のルーメスの前に降り立ち、ルックは地に手を突いて掘穴を放つ。


 一つ目の立つ真下の砂漠に大穴が開く。

 ルックの立体的な動きに対応が遅れた一つ目は、垂直に穴へ落下した。流れ落ちる砂に足を取られて尻餅を突き、体を起こそうとじたばた手掛かりを探している。しかしもがけばもがくほど砂は流れ、一つ目の動きを阻害する。


 ルックは並行して溜めていた火のマナで、大岩の石投を熱するイメージを浮かべた。


 だが、視界の隅で今まで動かなかった小さなローブ姿が動き、ルックに向かって短剣を投げ放って来た。

 ルックはとっさに体が動き、大剣でそれを弾き飛ばした。

 砂の下でそれを見た一つ目が鋭く叫んだ。


「黙ってろ! 見ていられるか!」


 小さなローブ姿は女性の声でそれに怒鳴り返した。そして一本の短剣を手にし、ルックに跳び寄り肉薄して来る。

 今まで動きがなかったため戦力外なのかと思っていたが、それは違った。

 男爵クラスと変わらない速度で女はルックに斬り掛かる。ルックは彼女を男爵クラスの祝福を受け取ったヒッリ教の信者だと判断した。しかしやはり戦いに慣れてはいないようで、速いだけだった。隙をついて五歩分ほど飛び離れ、女に向かって拳大の石投を熱して放った。

 加熱の魔法と石投が組み合わさり、矢に倍する速さで石が飛ぶ。女は石投を跳んで避けようとしたのだろう。頭を狙った石投は女の右胸に直撃した。


 一つ目のルーメスがおぞましい雄叫びを上げた。女はルックの掘穴に落ち、ルックの立つ位置からは見えなくなる。戦闘が続けられるかは分からないが、まだ死んではいないだろう。

 ルックは大岩を放物線状に放った。狙いは一つ目と女がいる穴だ。ルーメスは討ち取れないだろうが、女はそれで殺せると思った。

 しかし穴が地面に落ちる直前、ルーメスが女を抱えて砂の穴から飛び出してきた。二人の体が濡れている。水を喚び出して砂を濡らし、流れを止めたのだ。


 ルックは最大のチャンスを逃したことを知った。


 しかしルックの判断は早かった。即座に一つ目を討つのを後回しにすると決め、ユキの対峙する髪の長いルーメスに向かった。


「耳無し、後ろだ!」


 女の警鐘と同時に一つ目のルーメスも叫んだ。どちらに反応したのかは分からないが、耳無しと呼ばれたルーメスはすぐにルックの襲撃に気付いた。


「ユキ、交代する。ユキは魔法でミクの援護を」


 ルックは言いながら大剣を全力で振り下ろす。耳無しは両腕を交差しそれを受ける。あえて耳無しにそれを受けさせたのだ。その隙にユキが場を離れ、マナを集め始める。


 耳無しの腕は固く、ルックの大剣は浅く食い込んだだけだった。そしてルックが大剣を引くより早く、耳無しの紅い目線がルックを突き刺すように見た。

 ルックに向かい直線的に炎が迫った。ルックは左手を剣から離して引き戻し、炎に向かって放砂を打つ。砂と炎が打ち消し合った。

 右手に激痛が走った。剣を持った右手だけは放砂の相殺が間に合わず、耳無しの炎に焼かれたのだ。

 歯を食いしばってその激痛に耐え、ルックは正眼に大剣を構える。耳無しは体術でユキと互角だった。見ていた限り、その体術はルックよりも一段優れている。接近戦は分が悪いだろう。しかし、ここはなんとかルックが持ち堪える必要がある。

 耳無しは両腕をしならせて重たい手のひらを交互に打ち付けてくる。ルックは理のマナが宿る宝石にマナを集めつつ、その攻撃を大剣で受け流しながら耐えた。


「砂漠舞っ!」


 ヒールの魔法が発動した。ヒールの立つ周りの砂が大波の様に立ち上がり、耳無しの後ろから迫った。

 ルックは瞬時に距離を取り、耳無しのそばを離れる。そしてそのとき何かを感じて、砂漠舞の結果を見ずに振り返り、一つ目のルーメスと女に向かって大量の石投を早打ちした。

 ルックの唐突な動きは敵の予想を外せたようだ。ユキに短刀を投げようとしていた女を石投が襲い、女は投げる動作を止めた。

 女の前に一つ目のルーメスが立ち、石投から女を庇う。


 それからルックはさらにまた後ろを振り返り、耳無しの様子を確かめた。

 大量の砂が渦巻き、耳無しを飲み込んでいた。しかしその砂から大量の水が爆発するように飛び散った。リリアンですら警戒したヒールの魔法が破られたのだ。しかしその魔法の破壊力は凄まじく、耳無しの右の手足が折れ曲がっていた。

 だがまだ戦闘は終わりではなかった。耳無しはそのままその場でヒールを凝視し、火炎の玉を立て続けに飛ばした。体術の劣るヒールは必死でそれを避けることに専念した。


 そしてルックに対して一つ目のルーメスが駆け寄り、ルックが耳無しにとどめを刺すことを防いだ。即座に耳無しと一つ目が前衛と後衛を替わり、態勢を立て直したのだ。一つ目の体術は耳無しよりは確実に弱く感じたが、それでも間違いなく男爵クラスだ。なかなか隙を突くことができない。

 ルックが一つ目の対処に追われると、短剣使いの女はユキに硬貨を投げ始めた。短剣の数に限りがあるのだろう。地味な攻撃だが、硬貨の速度は無視できるものではなく、ユキもマナを溜められずにいる。


 そこで最悪の方向に事態が動いた。


 ミクが女ルーメスの掌底を左肩に受け、吹き飛ばされたのだ。ミクはすぐに立ち上がったが、左肩が折れたか外れたかしているようだ。さらに追い討ちをかけるように二体のルーメスがミクに肉薄する。


 それを見たユキが無理な体勢でミクに駆ける。女ルーメスがそれに気付いてユキを迎え撃つため振り返った。

 ユキは驚くほど鮮やかな身のこなしで、女ルーメスに目線と足運びでフェイントを仕掛ける。そして勢いを殺さずに脇を走り抜けようとした。

 しかしそのユキのふくらはぎを一枚の金貨が強かに打ち付けた。ユキが足をもつれさせて前のめりに崩れた。すかさず女ルーメスが転がるユキに蹴りを放った。


「っ!」


 声のない悲鳴を上げたユキの両足が折れ曲がった。女ルーメスも戦闘に慣れていなかったのだろう。足ではなく落ち着いて頭を蹴られていれば、確実にユキは殺されていた。ユキは足を蹴られた衝撃で砂の上を滑り、女ルーメスと大きく距離を離した。


 そしてそれに気を取られたヒールが、耳無しの火の魔法をよけ損ねた。彼女の両腕が炎に包まれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ