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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第五章 ~砂漠の旅人~
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『交差する物語』①

   第五章 ~砂漠の旅人~


『交差する物語』




 解散したレジスタンスたちはラクダに乗っていた。そして荷物を乗せた幌馬車を引いていた。ラクダと幌馬車はラバと丸馬車よりも遅く、ルックたちは前のレジスタンスたちに追い付かないよう、ゆっくりと進んだ。ガルガ以外のレジスタンスはイークがいたことを知らず、見つかれば戦闘になる可能性があったのだ。


「思ったよりもペースが遅いな」


 男四人の乗った丸馬車の中、前方のレジスタンスたちが上げる砂埃を見ながらイークが言った。


「次のオアシスはあとどのくらいなの?」


 ルックは心配そうに語るイークに問いかけた。ルックたちがレジスタンスを避けなかったのは、ラバの飼料が心許なかったためだ。あまり時間がかかりすぎるとこの大砂漠の中で立ち往生することになりかねない。


「どうだかな。このまんまじゃまだ三日くらいはかかりそうだ。こういうとき砂漠ってのは不便だかんなぁ」


 アルテス砂漠にはオアシス以外に生物は棲まない。動物も植物もだ。オアシスまではどうしても食糧や飼料の補充ができない。


「誰か一人走って先に行く? それで飼料を買って来たらどうかな?」

「帰り、飼料、抱えて走る。大変そうだ」

「左腕さえ動けば俺が引き受けても良かったんだけど、残念だね」


 ルックの提案にはロロが心配そうに言った。クロックは茶化すように右肩をすくめている。ルックたちにもここから次のオアシスまで走るのはかなり疲れる。だからクロックはその役目が自分にならなそうだと冗談を言ったのだろう。


「まあそうするしかないよなぁ。ラバ一頭連れてくか。そうすりゃ帰りはラバの背中に飼料を乗せればいいかんな」


 イークはそれから、とりあえず向こうにも相談だなと言って御者のミクに声を掛けた。声を張り上げてミクに停止を依頼すると、ミクはラバの手綱から左手を離し、後ろ手で応えた。

 まだら模様のたてがみが足を止めると、他のラバもいっせいに止まった。すぐに女四人と一羽の丸馬車からリリアンが駆けてくる。


「どうしたのかしら。まだ食事には早いわよね?」

「ああ、そろそろ飼料が不安だかんな、先に俺が次のオアシスに行って買い出しをしてくる。ただ待ってる分にはラバもそれほど食べないから、二日くらいここに待機しててくれ」

「そういうことね。なら私も一緒に行こうかしら。あなた一人じゃ万が一あなたがレジスタンスに捕まったとき、誰も飼料を持って帰れなくなるでしょうしね」

「はは、それはありがたい気づかいだな」


 リリアンがイークの護衛で付いて行くことが決まり、さらにロロが言った。


「ルーン、一緒に行けないか? 休ませたい」


 ルーンの体調を気づかっての発言だ。ルックもロロの提案には同意した。もとから体力の少ないルーンだ。丸馬車に揺られているだけとはいえ、一行で一番疲れているだろう。


「そうだね。僕もそうした方がいいと思う。あ、けどそしたら帰りはルーンを置いてくるし、一人にさせるのはちょっとだね」

「そうね。それなら丸馬車を一台出して、ロロとクロックも来てもらえないかしら。私とイークがここに飼料を持ち帰っている間、ルーンと三人で宿に待機していてもらいたいわ」

「ああ、俺は構わないよ。ついでに何かしておくことはあるかい?」

「お、そしたらまた次のオアシスまでの飼料を買っといてくれないか? あと食糧の買い足しも頼もっかな」


 そんな話し合いの後、イークたちが三頭のラバと丸馬車で先に行くことになった。イークがフードを脱がなければ、連れの顔ぶれが全員違うという理由で、まずレジスタンスにばれることなく追い越すことができるだろう。

 イークたちの丸馬車が駆け足で去っていく。


「大した話じゃないが、あれって結構すごいんだぞ」


 その後ろ姿を見ながら、ミクが話した。ユキは同意するように微笑んで、ヒールもうなずいている。どうやら自分に話しかけてのことのようだと思い、ルックは首をかしげて答えた。


「あれって?」

「一人の御者が三頭のラバを操ってるだろ? 普通奇形のラバを使わずにあれをやれるのは、御者の訓練をしている人か、小さいときからラバに触れてる飼育者の家人じゃないとなかなかいないんだ。私もユキもラバに乗れるが、あのまだらのラバがいないと丸馬車は動かせない」

「そっか。つまりイークはそういう訓練をしたんじゃないんだね」

「ああ、一応あれでも第一王子だからな。

 さて、丸二日空くわけだが、私たちはどうするかな。ルック、試合でもするか?」

「試合? 別にいいけど、突然どうして?」

「どうしててって、ルック、君は強くなりたいんだろ?」


 ミクにさらりと言い当てられて、ルックは再び首をかしげた。確かにルックはリリアンの負担を少しでも減らしたくて、今よりもっと強くなりたいと思っていた。


「僕そんなこと話したっけ?」

「はは、見てれば分かるさ。リリアンに追い付きたいんだろ?」


 ミクは爽やかな笑い声を立ててそう言った。ルックの意図を理解しての言葉ではないようだが、実際ルックは強くなりたいと思っていたので、ミクとの試合を受けることにした。

 ルーンの治水が使えないので、真剣での試合に不安はある。しかしクロックとの試合のように想定外のことは起こらないだろう。あのときはリージアが強化した大剣の威力を、ルック自身がまだ理解していなかったのだ。


 試合はそのまま砂漠の上で行うことになった。ルックは背中から大剣を抜き、ミクは腰に吊した細剣を抜く。


 ミクの細剣は古の魔剣だ。切るのではなく刺すことに特化した剣で、刺す際に剣先が振動するらしい。柄ではなく刀身自体に呪詛の籠められた珍しい魔法剣だ。金カーフススの糸を混ぜた金色の鉄が、白い刀身の鉄に模様を描いている。


「じゃあヒールは合図を頼む」

「はーい。じゃあ行きますね。始め!」


 ヒールの和やかな開始の合図とともに、ミクがなめらかな動きでゆっくり前進してくる。速さを殺しているのは、ルックの剣を確実に避けるためだろう。ミクの剣は大剣と刃を合わせるようなものではない。

 案の定、ルックが繰り出す剣はことごとく当たらなかった。大きな動きではなく、柔らかな身のこなしや細かい足さばきで、ミクはルックの大剣をかいくぐる。

 ルックは反撃の隙を生まないよう、どれだけかわされても攻撃の手を緩めなかった。ミクの刺突の間合いに入れば一瞬で試合が終わりかねない。とにかく攻撃を連続させて、ミクを回避に専念させようと考えていた。

 しかしこの状態は長く続かないとも思っていた。腕利きの戦士の技には初見ではなかなか対応しきれないものが多い。北のアラレルとも呼ばれるミクならば、そうした技をいくつも持っているだろう。


 ルックの立て続けの攻撃の中、ミクが突然体を深く沈めた。

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