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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第五章 ~砂漠の旅人~
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「君こそ良くその呼び方を知っていたね。宗教学を学んでいたのか?」


 ミクが興味深そうにクロックを見つめる。ミクは相変わらずクロックを気に入っているようだ。何かと彼のことを知りたがっていた。


「そのことはあとで話すわ。まずはルックの話よ。ルックは夢の神の神官なのよ」


 無神論者だと語ったイークは興味がなさそうだった。ヒールもそれがどうしたのかと首をかしげている。しかしミクとユキは露骨に驚愕の顔になり、二人で目を丸くして見つめ合っていた。


「ちなみい夢の旅人・ざらっうの子孫なんあってぇ」


 ルーンが茶化すように言った。それにミクが代表して応じる。


「まさかそんな。しかも、いや、これは推測なんだが、ルックはルードゥーリ化をするんだろ?」


 ルックはいつそんなことにミクたちが気付いたのか、意外に思った。ルードゥーリ化のことは隠しているわけではないが、好んで話題に出そうとはしない。ルックはなんとなくだが、ルードゥーリ化をするというのを恥ずかしく思っていたのだ。

 そのため、誰かにそのことを話していたら、ルックは確実に覚えているはずだった。


「気付いてたの?」


 ミクはうなずく。


「あぁ。さすがにあの猿の話を聞いたら、それしか考えられないよ。夢の宗教のことはうちにも伝わっているが、夢の信者は、神に直接選ばれた神官数人だけしかいないんだろう? 君はつくづく普通じゃないみたいだね」


 ルックはミクにそう言われ、どうにか否定できないか頭を悩ませた。ルックは旅に出るまでは、シュールたちに普通の子供として育てられてきたのだ。こうも立て続けに普通ではないと言われてしまうと、自分に自信が持てなくなってくる。

 とはいえルードゥーリ化は明らかに普通ではないし、夢の神の信者になったのも、どうやら覆しようのない事実なのだ。先祖のことも自分では選びようもないことなので仕方がない。


「僕はいたって普通のつもりでいるんだよ。あまり普通じゃないとは言われたくないよ」


 ルックは匙を投げるように天井を見上げた。


「まあつまり、ルックの神官の力でルーンの命は繋ぎ止められているのよ。ビーアもルーンの魔法じゃなくて、ルックの力と、リージアの魔法によって動いているのよ」

「……ビドーゴ」


 とても小さな声でユキがつぶやいた。彼女はリージアがかけた魔法をすぐに理解したらしい。それはルックたちが予想していたものと同じものだった。


「驚いたわ。ミクの家系は森人の言葉も知っているのね。ルックの剣身にも同じ魔法がかけられているらしいわ。

 さて、じゃあ次にクロックかしらね。クロックは宗教学を学んでいるのではなくて、闇の神の神官らしいのよ」


 次にリリアンが言ったことには、イークたち全員が目を剥いて、警戒の目をクロックに向けた。だがクロックが寂しげに笑うのを見ると、彼らは肩の力を抜いた。


「ごめんなさい。私たちは闇と聞くと、どうしてもダルクという大神官を想像するんです。でも闇といっても悪というわけじゃないんですよね」


 何かを知っているのか、ヒールがそう取り繕った。彼女は確認するようにミクとユキを見る。彼らのチームでは二人が最もこういった話には明るいのだろう。


「ああ。ちょっとまあ詳しくは言えないんだが、ロータスっていう闇の大神官が私たちの宗教にも深く関わっているんだ」


 話はそれからロロのことになり、ルックやクロックのときをはるかに凌ぐ驚愕を彼らに与えた。

 本来ならこれだけの話を聞いたら、彼らがルックたちに不信を抱いてもおかしくはない。

 ルックは正直、この話をイークたちに聞かせるのには疑問を持っていた。わざわざどうしても言わなければならない話ではないのだ。三月も一緒にいたジェイヴァーとナームにすら話していない。少し不誠実かもしれないが、クロックにもロロにも害意はない。言って誤解を招くよりは、言わずに事なきを得た方がどう考えても得に思える。

 しかしリリアンの判断は間違いではなかったようだ。

 クロックに対しての失態のあとだったからか、彼らはロロに警戒を向けるようなことはしなかった。そしてロロがナリナラたちとの出会いを語り、イークたちの目に理解の色が浮かんだ。


「ロロのいたキラベア領には、緑豊かな山があったんだよな? ユキ、どう思う?」


 ミクが妹の方を見て言った。ユキは少し考え込んでから、ミクの耳に口を寄せた。


「なにか、心当たり、あるか?」


 ロロが期待のこもった声で言う。彼は未だに、優しく強気なナリナラや、賢い小間使いのビル、大柄な護衛剣士ニンダ、ナリナラの家族や別邸のメシャールなど、優しいかつての友人たちと過ごした場所がどこかも知らないのだ。


「確証はないんだが、ヨーテスの南部にメシャの付く名を持つ一族がいるんだ。私たちと同じく、かつてはルーメスを討伐する一族だったらしい。まあ向こうもアレーが出てきてほとんど役目を終えただろうから、今じゃどうかは分からないけどな。別邸のメシャールはなにかそういう話はしていなかったか?」


 ロロはミクに言われ腕を組んで考え出したが、やがて首を振った。


「俺、メシャール会ったの、三回だけだ。どれも、長い話、しなかった」


 リリアンはロロが以前こちらに来た場所が、ヨーテスではないと予想していた。しかしそれはヨーテスでの主食がパンではないためだ。ロロが以前来たのがキーン時代だとするなら、食文化が変わっている可能性もある。ミクの話は大きな手がかりだった。

 手がかりを得たロロだが、もうすでに彼に急ぐ理由はなかった。ルックもこの旅が終わってから、リリアンとヨーテスを訪れる予定だったので、ロロもそのときに一緒に行く約束をした。

 話はそれで終わり、次にイークたちがそれぞれの生い立ちなどを語り始めた。


 夜が更け、彼らは解散した。部屋は中程度の広さの部屋を二つ、男女別れて取っていた。ルックたちはもちろん、イークたちにも金銭的な余裕はだいぶあったのだが、あまり羽振りがいいところを見せたくなかったのだ。

 それはイークが王族だというのを、レジスタンスから隠すためだった。しかしその行為はまったくの無駄だったようだ。


 次の日の朝早く、彼らは宿で軽い食事をとってから外に出た。


「おい、出て来たぜ」


 宿の前は踏み固められた地面の大通りだったが、そこに五十人ほどのアレーが待ち構えていた。

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