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青の物語 ~その大陸で最も平凡な伝説~  作者: 広越 遼
第一章 ~伝説の始まり~
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 ドゥールとアラレルの出現は、シュールにとっても幸いだったようだ。ルックは二人の姿を見た途端、シュールの顔がほころんだのに気が付いた。


「ドゥール、アラレル。最高のタイミングだな」


 アレーの戦力で見て、これで敵とは五対五だ。敵には砦があるが、二人がきたのならそれを加味してもこちらが有利だ。

 ルックも即座にそれを考えた。ドーモンも同じ考えだと、その表情で分かった。


「はは。まあお前たちはもう帰ってくれても構わないがな」


 ドゥールはそんな軽口を叩く。さすがにそれは承諾できないが、ドゥールの実力からして大口を叩いたとまでは言えない。


「ドゥール、俺も戦う」


 ドーモンが垂れた目尻をさらに下げ、そう言った。


「はは。珍しくやる気だな。そんなに悪党だったか?」

「おう。あいつら、良くない」

「よし。それじゃあ荷物を置いてこよう。ルック、覚悟はいいな」


 シュールの問いに、ルックは力強く頷いた。体術では伸びしろはないかもしれないが、共闘なら魔法の活躍する場がある。

 ルックは首都を発つ前と同じ気持ちで、腕が鳴った。

 宿に荷物を預け、五人はメラクを出て西に向かった。

 街の西部は林と隣接している。スイ湖へとつながる舗装された道ではなく、ルックたちはその林の中に分け入っていった。


「敵は五人なんだね。うち一人はあんまり強くないんだ」


 道中シュールがアラレルとドゥールに状況を語った。それにアラレルはそんな感想を漏らした。最強の勇者アラレルは、どこか緊張をしているように見えた。


「ああ。だけど残りの二人はどうか分からない。要塞はかなり堅固だが、お前がいれば何とかなるだろう。問題なのは、敵を砦の外に逃がしてしまったときだ。相手はヨーテス人らしいからな。木々の合間での戦闘は向こうに有利だ」


 アラレルは絶対的なスピードが武器だ。そのため障害物の多い場所では実力が充分に発揮できない。アラレルが緊張して見えるのはそのせいだろうか。しかし、その地の利を差し引いても、アラレルに負ける可能性などほとんどないはずだ。それほど彼のスピードは一線を画しているし、剣技においても比類ない。


「はは。そう堅くなるな。シャルグはいないが、俺たちとてアーティス一と言われるアレーチームだ」


 そんなアラレルにドゥールが言った。


「もちろん君の心配はしてないよ。だけどシュールは林の中じゃ……」

「おいおい。俺の心配か? 確かに火の魔法は木々の中じゃ使いづらいけどな。お前の心配性も相変わらずだな。まあただ実際、森での戦闘は俺には不利だ。ドーモンも苦手だろう。だからどうしてもドゥールとお前に任せるしかなくなる」


 木々などの障害物が多いと、火の魔法は本領を発揮できない。相手を焼くほどの火の魔法は直線的なものが多く、最悪森の中で燃え広がったら、自分が窮地に陥りかねない。

 ドーモンも武器や体の大きさのため、広々とした場所でなければ戦いづらいのだ。

 ルックの大地の魔法は木々の合間でも威力を発揮できるが、今はルック自身が戦力に数えられていない。


 一行の話は、なるべく砦から敵を出さないことと、もし逃がしてしまったら追うのはアラレルとドゥールに任せることでまとまった。

 アラレルの緊張も多少ほぐれたように見える。

 砦まではまだ歩いて一時間ほどあった。その間、ルックはふとした疑問といった感じで、前を行くシュールに聞いた。


「ねえシュール。うちのチームってさ、結局誰が一番強いの?」


 これから戦闘になろうというときにのんきな発言だが、ルックにとっては大事な意味のある質問だった。


「ん? ああそうだな。誰かの護衛をするならシャルグだろうな。あいつの投擲は並の魔法よりも小回りが利く上に威力がある。盗賊団の討伐とかなら隙のないドゥールだろうし、奇形の動物を退治するなら俺かドーモンだ」

「じゃあみんなが戦ったら誰が一番勝つの?」


 ルックの子供らしい発言にシュールは少し首をかしげた。歳の割に大人びているルックには珍しい発言なのだ。


「それはちょっとおもしろいんだけどな。俺はほとんどシャルグには勝てないんだ。あいつの速さだと、俺に魔法を作る時間がないし、距離をとれば投擲が飛んでくる。

 けどな、シャルグはドゥールにはまず勝てない。シャルグはドゥールの鉄皮に傷一つ付けられないからな。

 だけどドゥールはドーモンのことは苦手らしい。ドーモンの鉄球はドゥールすらも受けようとは思えないんだ。

 そんなドーモンが俺には勝てない。ドーモンは遠距離での戦闘はできないから、距離を取れば俺の火の魔法になす術がない」

「ふーん。じゃあ結局のところ誰が一番ってわけじゃないんだね」

「はは。戦闘などはそんなものだ。状況や相性で勝敗は大きく変わる。だから俺とて決して油断はせんのよ」


 ルックとシュールの会話に、ドゥールが割って入ってきた。会話の内容は、ルックよりもむしろドゥールが興味を持ちそうなものだ。


「ちなみに言うと俺はシュールに負けたことがある。その後再戦を挑んだときには勝ったがな」


 ドゥールはにやりと笑んでそんな話を続けた。


「ドーモンとシャルグがやりあったときは、ほとんど互角だった。紙一重でドーモンが勝ったが、どちらが優位ということはないだろう。去年のトーナメントではシャルグが勝ったしな」


 ルックがこんな質問を投げかけたのには訳があった。いざ乱戦になったときなど、自分が一番集中して援護するべき人が誰かを探ったのだ。

 ただそのままそれを聞いたら、シュールもドーモンもドゥールも、自分以外の誰かだと言うだろう。ルックには彼らがそう言うと確信があった。

 だからルックは自分で判断をするための材料として、そんな話を持ち出したのだ。結論として、ドーモンが一番危うい気がした。


 シュールもドゥールもルックのそんな考えには気が付かなかったようだ。ドゥールはそれからルックの知らなかった、大人たち四人の意外な過去を語ってくれた。ドゥールとドーモンは最初、シュールとシャルグの敵だったというのだ。もっと詳しく聞きたくなる話だったが、さすがに敵のねぐらが近くなり、ドーモンが耳たぶを摘まむ動作で、ルックたちに静かにするよう合図した。


 さらに十クランほど進むと、ついに敵のねぐらが見えてきた。話に聞いていたとおり、それは堅固な要塞だった。防壁は高く、梯子でもない限りアレーでも飛び越えることはできない。分厚い壁は、ドーモンの鉄球の付いた棍棒でもうち崩せないだろう。一番もろい木造の門も、前には壕が掘られていて近付けない。


「どうするの?」


 囁き声でルックはシュールに尋ねた。これではアラレルとドゥールが加わったところで意味がないように見えた。しかしシュールはさっき、アラレルがいれば何とかなると言っていたのだ。

 ルックの問いにはアラレルが答えた。


「うん。あれくらいの高さなら飛び越えていけるよ。内側から跳ね橋を下ろしてくればいいんだね?」


 ルックはアラレルが戦うところをほとんど見たことがない。だからその発言には驚いた。


「それじゃあ準備が出来次第始めるぞ。ルック、剣にマナを溜め始めろ」


 ルックはシュールの指示に頷いて、背中から鞘ごと剣を外した。大剣を抜き放ち、鞘は近くの木に立てかける。

 ルックがマナを溜めている間、シュールは説明を続けた。


「アラレルが門を開けたら一気に乗り込む。砦は大きくないから、小回りの利かないドーモンはここで待機だ。逃げ出してきた奴がいたらここで押さえてくれ。林の中に逃げ込まれてしまったら諦めていい。

 アレーは全員討ち取っていいが、キーネは生け捕りにしてくれ」


 全員がシュールの指示を飲み込み、頷くのを待ってから、シュールは作戦の開始を告げた。

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