③
四人はおそらく全員アレーだった。当然それだけならそれほど珍しくはない。問題だったのは彼らの髪の色だ。
男一人に女三人で、全員ルックと同じくらいの年頃だった。アルテス人らしいローブを羽織っている。四人ともフードをかぶっていて、男は髪の色が見えない。女はそれぞれ水色と藍色と、そして白の髪を持っていた。
その白い髪は、加齢によるものではないだろう。女はどう上に見積もっても二十は超えない年齢だ。十五にもなっていないかもしれない。小柄で細身の少女だった。髪はとても長いようで、横髪が膝の辺りまで伸びている。ローブに隠れて見えないが、後ろ髪も同じくらいの長さだろう。
前髪は眉の上で切りそろえられている。金色の瞳は気弱げで、髪の見えない男の少し後ろに、隠れるように立っていた。
白い髪。それは理のマナを宿す者の髪色だ。二股の木の麓にいた老人、テツと同じ色だ。
向こうもルックたちを見て何やら驚いたようだった。髪の見えない男が目を丸くしながら口を開いた。
「お前らそんな格好でなにやってんだ? もうすぐ夜だ。死ぬぞ?」
当たり前のことのように彼は言う。死ぬとは穏やかではない話だ。
ルックがどういう意味か問おうとすると、それより先に藍色の髪の女が言った。
「死ぬわけないだろ。ただ利口とは言えないだろうな」
彼女は女性らしくはない口調だった。ルックは違和感を覚えたが、ガルーギルドの長コライのようにぞんざいではなく、どちらかと言えば丁寧な口調だ。
「何かこの格好だとまずいのかい?」
クロックの問いに、男がフードを持ち上げるようにして答えた。
「これこれ。夜になったら昼に巻き上げられた砂塵が、どんどん降ってくるんだよ。フードがなきゃ息をすんのもひと苦労ってわけ」
男がフードを持ち上げて見せたので、彼の髪の色が分かった。薄い青紫色だった。
「あ、俺の名前はイーク。アルテス人だ。んで、お前らはアルテス人じゃないんだよな? なんでこんなとこにいんだ?」
薄い青紫色の髪をした男はイークと名乗った。ルックは第二ギルドの受付が話していた名前だと思い出す。
「僕はルック。アーティス人だよ。こっちはクロック。出身国はそれぞれ違うけど、一緒に旅をしてるんだ。ここにはルーメスがいるかもしれないって聞いて、様子を見に来てたんだよ」
ルックはイークの後ろの白い髪の少女に、色々と聞きたいことがあった。そのため彼らと友好的な関係を築きたいと考えた。ギルドで聞いた話だと、彼らがアルキューンのルーメス関連の依頼を全て片付けたということだ。その点でも色々と交流を持ちたかった。
ルックが言った言葉に、水色の髪の女が言った。
「私はヒール。アルテスでは名前はそれぞれが名乗るものなの。あなたの名前も聞かせて下さい」
ヒールはとても柔和なしゃべり方で、クロックの方を見る。
「へぇ、そうなのか? じゃあ俺から改めて。俺はクロック。ヨーテスで生まれて、小さい頃から各地を転々としているんだ」
「ふーん? そんな口調だから、どこの貴族かと思ったけど、そういうわけじゃないのか。
私はミク。私たちは全員アルキューンの第一ギルドのアレーだ。最近はアルテスを歩き回りながらルーメスを討伐していて、四日前に戻ってきたところだ。
それでこっちがユキ。私の妹だ」
藍色の髪の女はミクと名乗った。そして白い髪の少女をユキと紹介する。ユキはその紹介に合わせて軽く首をかしげた。
ルックたちはもう少しあとで知ることだが、その仕草はアルテス流の友好を示す挨拶だった。
ミクの話には、ルックは二つの疑問を持った。
一つはミクがユキの名前を紹介したことだ。つい先ほどそれがアルテスの流儀ではないと、彼らの方から言ってきたのだ。
そしてもう一つはミクの名前だ。ミクという名は普通なら男性名だ。ユキやヒールは男女ともにあっておかしくない名だが、少なくともアーティスではミクという名前の女性はまずいない。
しかしどちらも問うことが失礼にあたるかもしれない。ルックは友好的な関係を望んでいたので、それを気にしないことに決めた。
そしてクロックが何か失言をするかもしれないと思い、急いで話を進めた。
「そっか。ならイークたちもルーメスを探しに来たんだね。僕たちは少し早くここに着いたんだけど、ルーメスは見つけられてないんだ」
「ちっ。まあそうだよな。巣でも作ってんならと思って来たんだが、空振りか。一端街に戻るかな。
おい、お前らはどうすんだ? その格好じゃもう街まで戻れなくないか?」
「あなたたちは歩いて戻るの? 僕たちはマナを使って走って来たんだ。夜までには帰れると思うよ」
ルックの言葉はイークたちを驚かせた。
「おいおい。お前らルーメスを舐めてんのか? マナが尽きたときに戦闘になってたらどうしたよ?」
イークの言葉にヒールがうなずく。彼女は柔和な口調で批判的な意見を述べる。
「ルーメスの強さは個体差があるの。腕利きのアレーなら、弱い個体はそれほど怖くはないのですが、強い個体は危険です。万全な状態じゃないときには会いたくない相手です」
彼女の言葉から、彼らが万全なら強い個体も倒せるのだとルックは知った。たが強さを二段階で語っていることから、おそらくロロや片腕のような、子爵クラス以上のルーメスは知らないのだろう。もしそうなら、むしろ彼らの方が危ういのではないかと思えた。
ルックは彼らと情報を交換する必要性を感じた。
しかしローブを着ていないルックたちは、ここで長話をするわけにはいかない。太陽はすでに暗に向かい初めている。
街へ戻るだけならマナを使った走法でも平気だ。ルックは彼らにそう言ったのだが、彼らは、特にイークとミクが承諾をしなかった。
ルックは彼らの強い勧めを受け、彼らの乗ってきた丸馬車という乗り物に乗せてもらうことになった。
彼らに連れられて十クランほど歩く。砂煙の向こうに、イークたちの言った丸馬車が見えてきた。
2022.02.26
幕間 ~精霊の掟~ を第4部分に変更しました。内容に変更はありません。
ルックたちの物語はまだまだ続きます。
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